第19話 再開する姉妹 ミレアとショコラ
今三人の前には一人の少女が立っていた。その天井を突き破り、上から地下室へと入ってきた少女は吸血鬼ミレアが助けようとしていた妹ショコラで間違い無かった。
それと感動の再会、のはずだったのだが…
「えっそれって一体どういう…」
「ショ、ショコラ…」
「今更あなたに名前で呼ばれる筋合いはないね。私を捨てて逃げてったあんたには…さ!!」
「あぐあっ…!!」
『ズドンッ!!』
言葉が終わる頃にはショコラはミレアの腹を殴り、ミレアを思いっきり部屋の壁まで突き飛ばしていた。
「さて…、次で死ぬ?」
「ショコ…!そ、それは…風魔法!!?」
「正解…吹きすさべ暴風よ!!」
『ゴオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!』
『ブオオオォォォォン』
そう言い、ショコラは部屋の中で暴風を巻き起こしていた。狭い部屋の中で規模の大きい魔法を使い、狙いのミレアのみならず部屋に居る他の者やその辺の瓦礫等も全て吹き飛ばされていた。
「あれ?吹き飛ばしたらどこにもいないや…」
ショコラは魔法を放った後、周りをキョロキョロと見回したがミレアの姿を見つけることが出来なかった。
「ハア…ハア…あ、ありがとう。おかげで助かったわ…」
「…ミサキの防御壁が無かったらヤバかったな」
「で、でもここじゃすぐ隠れてるのバレちゃうんじゃ…」
三人はミサキのブレスレットの防御壁でダメージは負わなかった。ショコラが風魔法を使っている隙に瓦礫の後ろに隠れていたのだ。
「死んじゃったの?やっぱり弱虫なまま、変わってなかったの?」
「私達のこと、バレてないのかな?」
「いえ、そんなはずないわ…」
「………。なんて、勘違いして私がここから居なくなるのを待ってるの?隠れてるのは分かるんだよ」
「…バレてるみたいだな」
「こそこそと誰かと話してるみたいだけどお姉ちゃんは分かるよね?私達吸血鬼って耳がすごく良いってのはさ」
「そ、そうなの?」
「ええ、間違いないわ」
「だから隠れたって少し耳を澄ませばすぐ見つけられるんだよ」
そう言いショコラは声のする方、三人が隠れている瓦礫の山を見た。
「出てこないみたいだから瓦礫ごと吹っ飛ばすよ?」
「な、何ですって!?」
「ミサキ!防御壁を!」
「うん!」
「吹きすさべ暴風よ!!」
『ゴオオオォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』
『ブオオオオオォォォォォォォォォォン!』
ブレスレットにより出された防御壁が広がり、瓦礫に当たる前に暴風は弾かれた。
「どういうこと…?何で当たんないの?」
ショコラには自分の魔法が防がれた理由が分からなかった。
「…さすがだな。この防御壁」
「で、でもこれじゃ何の解決にもならないよ…」
「ハァ、弱いくせにこういう危機の中で生き残るのに関してだけは恵まれてるね」
「…どうやら相当ミレアを恨んでるみたいだな」
「そんな…、ミレアちゃんがなんで…」
「私があの子を裏切っちゃったのよ…。なんて、こんな状況になって今更そんなことをあなた達に言うだなんて情けないわね…」
「それって一体どういう…」
「…まあ、それは後で聞くよ」
「え?今聞かないでどうするのムスビちゃん」
「そうよ。私、二人にずっと言えてなかったことが…」
「そんなことは分かっている。だが、いくらさっきの子が辛い思いをしたのかを知ったところで、それを受け止めてやれるのは赤の他人の俺達じゃない。その辛い思いをさせたのがお前だと言うのなら尚更だ。俺達がするのはお前達の仲直りの手伝いだけだ。あくまでもお前があの子と話すんだ。俺達が詳しいことを知るのはそれが済んでからで良い」
「ムスビちゃん…」
「で、でも、二人に何も説明しないまま仲直りを手伝ってだなんて…」
「…俺はお前が妹を救いたいってのを聞いてお前と一緒に行って手伝うって決めたんだ。俺はお前のその気持ちは本当だって今も信じてる」
「ムスビ…!」
「わ、私も信じてるよ!ミレアちゃんが頑張ってきたの近くで見てきたもん!」
「ミサキちゃん…!」
そしてほんの数秒黙った後、ミレアは口を開き…
「二人共…、お願いがあるの」
「ど、どうしたの?」
「二人は先にここを離れて…、まだ何処かにミサキちゃん達の家族や他の捕まっている人達が居るわ…。二人でその人達を今から助けに行ってあげて…」
「え…?で、でもミレアちゃんは…?」
「私は目の前に居る妹を止めるわ。私はそれが終わってからそっちに行くから心配しないで」
「…」
「そ、そんな無茶だよ!あの子、怒ってるみたいだし、物凄く暴れて今は危険な状態なんだよ!?それなのに一人で…」
「お願い…。あの子が今そうなのは私のせいなのよ…。あの子に謝らなくちゃいけないの…、例え危険だとしても、一人であっても…、私のたった一人の妹なんだから…。これが本当に最後、臆病な私とサヨナラしなきゃ…」
「…ミレア」
「ムスビ…」
「…仲直り頑張れよ。幸運を祈る」
「ええ、ありがとう」
「…あと、お前は一人じゃない」
「…!ふふ、そうね…」
「…さて、いくぞミサキ。早く助けに行かないとな」
「え、で、でも………」
チラッ
「…!分かったよミレアちゃん…。絶対無事で居てね…!!」
ミサキはミレアの顔を見た後、深くミレアに聞くことなくミレアの言うように部屋を出ることを決めた。
「もちろんよ!!」
二人は物陰から出て部屋の扉へ向かっていった。
「あっ、二人見っけ!ねえちょっと…」
しかし、上からその二人の動きをショコラは見逃さなかった。見つけた二人に向かって行こうとしたが…
「待ちなさいショコラ!私はここよ」
「…?その声は…」
声のした方を振り向くとそこには物陰から出たミレアが立っていた。
宙を浮かぶショコラとミレアが向かい合っていた。
「隠れたままかと思ったら出てきてたんだ。てっきりあの時みたいに私の注意が二人に向いてる時に逃げるのかと思ったら、私の時とは違って逃げずに前に出てくるんだね」
「………」
「事実だから何も言えないの?」
「確かに私は逃げたわ…。船に乗って逃げようとした日、私達は追って来たグリドの仲間に襲われた…。そしてあなたはその時に自分の力に目覚め…、それを間近で見た私はあなたを恐れた…。そしてあなたを置いて逃げてしまった…」
「なんだ覚えてたんだお姉ちゃん。なのによく私と顔を合わせられたね」
「だけどそれを後悔して私が戻った時には既にあなたは捕まっていた…。そしてあなたを助けることも出来ずに船に乗って別の島にまで逃げてしまった。本来ならあなたに顔を合わせる資格なんて無い…。姉失格よ私は…」
「そんな言葉で私が許すと思ったの?いくらそれを理解して反省したところでその事実は消えないよ…、私の心の傷もね」
「でも、逃げて残ったのは後悔ばかりだったわ。あなたは私を守る為、自分の力を振るったのに…。本当はお母さんの代わりに私があなたを守らなきゃならなかったのに…」
「今更ぐだぐだ喋ったりしてなんなの?」
「けどそんな情けない私に勇気をくれた人が居たわ。あなたとこうして向かい合う為の道を一緒に進みながら支えてくれた仲間が!」
「誰だか知らないけどそうだとしたらその人…、とんだ無駄骨だったね」
「無駄なんかじゃない!私はその人から人であろうと吸血鬼であろうと関係無く向けてくれた優しさを貰ったわ。そして私と同じように愛する者の為に勇気を持って立ち向かっている仲間もいる。その二人は私に取り戻すべき幸せを思い出させてくれたわ!!」
「ああ、もしかしてさっき見かけた二人がその人ら?こんなバカな奴の不幸に巻き込まれて可哀想に」
「私はあなたを取り戻す…!昔の幸せだった生活を…、もうお母さんはいないけど、あなたはまだ…!」
「もう手遅れだよ…」
「ッ…!風が…!」
ショコラが羽ばたくと同時にその羽から突風がミレアに向かって飛ばされた。
「やっぱり弱っちいままだね、こんなので動きが止まっちゃうんだもん」
「うっ…、これでもあの子にとっては手加減してるって言うのね」
「ホラホラ、私は上だよ?こっちこっち」
「ッ…!あの子の羽、ここまで成長してたのね…!ああも自在に空を飛ぶだなんて…!」
「アハハハッ!!どうしたのお姉ちゃん?私はこうして上にいるのにお姉ちゃんは飛ばないの?」
「うう…それは…」
「そうだよね、飛べないよね!お姉ちゃん昔っから全然吸血鬼らしくなかったもんね…、ろくに力も無くて空を飛ぶ羽も全然生えてこなかったし、それなのに太陽とかは苦手でさ!吸血鬼として良いところ無しの………、出来損ないだったもんね…!!」
「っ………。ええ、私がもっとしっかりしていたら、あなたを自分の力で守れたのかもしれないのに…。私は情けなくてしょうがないわ…」
「………」
「けど今は違う!私はほんのちょっとかもしれないけど強くなれたわ!力だけじゃなく心も…!あなたと一緒に居るために!」
「何も変わってなんかいないよ!あなたは臆病なまま!力を恐れて逃げるだけのね!」
「そう、私はあなたを置いて逃げた…。いや、あなたから、守るべき妹である筈のあなたから逃げてしまった…。それは間違いないわ」
「そうだよぉ!!私から…逃げたもんね…!!化物の私から…!!」
「でも、もう逃げないわ…!あなたは私の妹!私に残った大切な家族よ!」
「今更、何を…!!」
「私はあなたと向き合う為にここに来たわ!あなたが私を憎んだって…、私の顔なんてもう二度と見たくないって思ったって…!」
「うるさい!!」
『スドーーーンッ!!!』
「ッ…!?ガハッ…!!ァ……」
ショコラは叫び、ミレアを壁に向かって突き飛ばした。大きな音を立ててミレアがぶつかった壁にはヒビが入っており、人間離れした相当な力で吹き飛ばされていたことが見るだけでわかる。
そう、目の前に居るのは見た目は幼いながらも間違いなく吸血鬼。人間とは比べ物にならない程の力を秘めた怪物なのだ。
「うっ…くっ…ショコラ…」
「黙れぇ!!焼き尽くせファイヤーボール!!」
ボロボロのミレアだが、そんなことはお構いなしにショコラは炎の球を食らわそうと攻撃を開始した。
「ッ…!」
ショコラはミレアに向かって炎の球を次々と投げつけていくがその多くは狙いから外れてしまっていた。
「てりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
「っ…、ぅ…、く…!」
だがそれでも既にミレアはもう数十発以上直撃していた。
その証拠にミレアは所々に火傷を負っていた。吸血鬼でありながらも、あまりの被弾で回復の追い付きが間に合っていないのだ。
数十発は放たれた炎の球…
それが燃え広がり周りは既に火の海と化していた。
「これでも食らえ!!吹き荒れよ風よ!燃え盛れ炎よ!風炎弾!!」
「な…」
先程までは野球ボール程の手のひらサイズでしかなかった炎の球だったが、今度のはそれよりもう一回り大きいバレーボール程の大きさだった。さらに技の威力を増大させる為の風魔法が加えられておりその威力は凄まじいものである。それがミレアの顔めがけて飛ばされていた。
「お前なんか燃えちゃえ!!」
「ショコラ…」
(うぅ…、ここまでなの…。せっかくここまで来たのに…、ショコラ…、あなたにちゃんと謝ることも出来ずに終わってしまうの…)
そしてついに火の玉はぶつかった。
「ん………?あれ?今何に当たったの?」
「…熱ぃ」
「ム、ムスビ!?あなた大丈夫なの…!?」
「…心配は後で良い。それより今は仲直りしなきゃだろ?」
「で、でも貴方仮面が割れて…顔も…」
ムスビが盾を構えて割り込むことでショコラの魔法は反らすことは出来た。だがムスビがずっとつけていた黒の仮面、それの左側が割れてしまっていた。そして晒されている顔の部分には大きな火傷の跡があった。
「そんなのは後でいい!早く立て!」
「う、わ、わかったわ!!」
「………。何で大事なところで邪魔するの…、というかお前誰…?」
「…俺のことは気にするな、それよりもお前のお姉さんの方に集中したらどうだ?」
「何ですって?」
「ショコラ…」
「さっきまであんなに焼かれてたのに…、吸血鬼特有の生命力だけはあんたにもあるんだね。そんなのあっても無駄に苦しむだけなのに…」
「無駄じゃない…。こうして今あなたと向き合えてるのはそれで生き延びてこれたからよ…」
「ふっ、ははは、そのおぼつかない足で?何が出来るって言うの?」
ミレアは既にボロボロ…
ただ数歩、歩みを進める途中で倒れかけるが…
「あ、ありがとう…」
「…ほら、もう少しだぞ」
「あなた何をしてんの?そんなの支えたって無駄…、地べたに寝るまでがちょっと延びただけ…」
「…そうかな?無駄に思える歩みも積み重なれば思わぬことにつながるかもしれんよ?」
「はっ、こんなのに協力してる時点でちょっと思ってたけど変な奴ね。あなた」
「うっ…くっ…ショ、ショコラ…!」
「はぁ、しつこい…。何をそこまで…」
「ミレアちゃん!もうちょっとだよ!くじけないで!!辛いのはその子…、妹さんの方なんだから…!!」
「ミサキちゃん…!!」
「何なの、次から次へと…」
一瞬ショコラの注意が扉に居るミサキの方へ向いた。そして次の瞬間…!
「ごめんなさいショコラ…」
『ガシッ!!』
「なっ…!」
「ショコラ…。私のたった一人の自慢の妹…。何度謝ったって足りないくらいだけど、本当にごめんなさい…」
「あ、謝ったって」
一瞬の隙で急に抱き着いてきたミレアにショコラは動揺していた。だが咄嗟にそれを振りほどこうとしたが出来なかった。それだけ力強く抱きしめられていた…。
「私のこと許してなんて言わない…。無理に一緒に居ろとも言わない。ずっと恨んでたっていい。ただ…、あなたのお姉ちゃんではいさせて…、ショコラ…あなたのお姉ちゃんでなくなる…それだけは嫌なの…」
「ッ…!」
「たった一人…、残った家族…なの…。あいつらから…、グリド達から奪われてもまだ残ってる…お姉ちゃんにとって、たった一人の宝物…ごめんね…」
「ウゥ………」
振りほどこうとする腕の力が段々と弱くなっていた。そしてその手はプルプルと震えていた。
「ショコラ…」
「………………………、ウゥ………。何で……、ズルいよぉ………、グスッ…お姉ちゃん……」
「愛してるわショコラ…、今度は離さないわ…。この手から…」
「ウゥ…………私も悪かったよぉ…」
人間離れした力で先程まで暴れていた少女…。だが今はその見た目に違わず、体を震わせ、目に涙を流しながらその顔を姉の体に埋めるか弱き姿であった。
例え、力は強くともまだ子供。今やっと少女達は救われたのだ…。
第十九話 再開する姉妹 ミレアとショコラ
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