第7話【2】
学園への入学から1週間が経った。
基礎的な座学や理論に従った魔力操作の方法などを習った俺たちは、今日遂にその魔法を実践で使うこととなっている。
クラスの人数は30人で、6人ずつで5つのグループに分けるらしい。
そしてグループごとに指定のダンジョンへと潜り、フロアボスと呼ばれる魔物から取れる魔石を取ってくる、という感じだ。
そんな中俺は今回の授業に
まぁ指示と言ってもそうガチガチの命令というわけではなく、結構アバウトなのでどう動くかは俺次第になるのだが。
今日の俺の役目は『プリシラ・ソシエールと明確な繋がりを持つこと』だ。
なんでも、現在のソシエール家は少し事情が知れないと言うか、第一王子も第二王子も支持していない
その上貴族としてかなりの発言力や影響力を持っているので、引き入れることができればかなり状況が変わるんだとか。
そこであからさまな勧誘をしても良いが、一度俺というクッションを挟んで改めて協力を求める、というのが大まかな計画だ。
というわけで、俺は授業の概要がエグゼ先生からされた後真っ直ぐソシエールの元へと向かうことにした。
「さて、今日は皆待ち望んでいたであろう実践戦闘で丸1日使うよ。今回挑んでもらうダンジョンは比較的危険度の低い水属性と土属性のところだ。相性が悪い人も居るだろうけど、グループの人たちと協力すれば大丈夫だろうから安心してね」
水と土、か。
俺が今使う属性元素は火なので土属性のダンジョンへ行きたいが、そこは成り行きに任せるしかないだろうな。
だが仮にソシエールと組んだ場合、彼女は風属性が適正なのでわざわざ相性の悪い土属性のモノは選ばないと思うが。
「さて、それじゃあグループは君たちで自由に決めてくれるかな。あ、でも万が一実力が偏りすぎていたら少し手を加えさせてもらうから、そこは留意するように」
俺はエグゼ先生がそう言うと同時にアリスに軽く目配せし、席を立ち上がってソシエールの元へと向かう。
彼女は相変わらずの様子で普段喋っている連中に声を掛けて笑っている。
いけるだろうと了承したが、意外と声を掛けるだけでハードル高くないか、コレ?
なにあの空気、入りづらすぎる。
俺がなんとも微妙な場所で立ち尽くしどう声を掛けるか迷っていると、こちらに気づいたのかソシエールが笑顔で手招きする。
思わず苦笑いを漏らして歩みゆき、俺は彼女の後ろに居るキラキラした連中を見て若干目を細めてしまった。
ここ、俺には眩しすぎるな……。
「やぁやぁシグマくん。お困りかね?」
「そう、だな。知り合いという知り合いが居ないせいでちょっとばかし気まずい」
「なるほどねぇ。パーティとかでも会った記憶無いし、入学と一緒にここに来た感じだったりするのかな?」
やはり貴族はパーティに出席して一度は顔を合わせているのが普通なのか。
一応俺の弄った家名の『ブレイズ』は名も知れぬ辺境の貴族って設定だが、あまり嘘を重ねてはボロが出るかも知れん。
適当に誤魔化しておくか。
「……まぁそんなとこ。で、本題なんだが、まだメンバーって募集してたりするか?」
「なんと驚き! 丁度誰かひとり誘えないかと思っていたとこなのです! 君が良ければ一緒にどうかね?」
「是非。俺としては願ったり叶ったりだ」
「よっしゃ! 先生、決まりました!」
「お、随分早いね。それじゃあ出発まで時間もあることだし、フォーメーションとかを話し合っておいてくれる?」
「了解です!」
……こうも簡単にいくとは。
順調すぎて逆に怖く思えるくらいだ。
まぁ今の段階で彼女に警戒されるようなことは無いだろうし、ただ運が味方してくれただけだろう。
神は信じていないのに運は信じるなんて都合が良すぎる気もするが、ご愛嬌だ。
俺が内心喜んでいる横でソシエールは
こちらに向かってくる彼らは皆感じの良さそうな人たちで、ここ1週間クラスの中心となっていた面々だった。
あまり重要視している人物は居ないが、ひとりだけアリスが警戒するように言っていたヤツが混じっている。
名前は、ネオレア・レキシコン。
短く整えられた銀髪に穏やかそうな赤の目が特徴的な彼は、第二王子の派閥に居る発言力の強い家の人間だ。
わざわざ妨害などをしてくるとは思わないが注意するように、と言われている。
こちらも要観察、か。
「プリシラさん、その人が?」
「そ! 彼が今回私たちと組んでくれる、シグマくんです!」
「そっか。よろしくね、シグマくん。僕はネオレア・レキシコン。適正属性元素は火と水だよ」
「シグマだ。適正は火だな。よろしく」
「……うん、よろしく」
やはり素性の知れない相手というのは警戒対象になるのだろうか。
ほんの少しだけ視線が揺らいでいた。
どこか探るようにも思えたし、どこか恐れているようにも見えなくはない。
こちらの警戒は悟られていないか、少しだけ心配になりながらも握手を交わした。
「さて、それじゃあフォーメーションを決めちゃおうっ! まずネオレアが──」
特に口出しせずにいると、彼女の友人の立ち位置はあっという間に決まっていく。
まずは接近戦、というか前衛が苦手らしいヤツらを後ろへと回し、攻撃補助共にできるレキシコンが真ん中、そして前衛には剣を使うソシエールが配置された。
コレだと前がかなり薄いから、俺も前衛に入ることになりそうだな。
「あ、やばっ。シグマくんの得意な立ち位置聞いてなかったから先に決めちゃった。もし前衛が無理ならネオレアと変えるけど、君としてはどっちがいいかな?」
「どちらかと言うと中近距離が得意だから、前の方で大丈夫だ」
「よかったぁ……やらかしたと思ったよ」
「にしても、剣、ね。もしかしてソレ、魔剣だったりするのか?」
「んー……フフ、秘密っ」
……なんだそりゃ。
どこか妖艶さを感じさせる笑みでそうはぐらかされ、俺は本能的に追求を止めた。
藪蛇になりそうだし、別に興味があるわけでもないからな。
そんなこんなで色々決めごとも終わり、俺たちは遂にダンジョンへと向かう。
他人と協力する、というのは初めてだ。
今まではひとりで突っ込んで殲滅して、好きなだけ食った後は任せきりだったし。
どんな感じなのか、少しだけ楽しみだ。
* * *
「──《
「とらぁッ!」
「よっ、と」
「《
迷宮に潜って
探索は非常に順調だ。
魔物の数も少なく、偶に遭う群れもレキシコンたちのお陰で
レキシコンが上級水魔法の《融解》で地面をぬかるませ、そこに足がハマった魔物を俺とソシエールで刈り取る。
そして俺たちのカバーをするように後衛のヤツらが魔法をぶち込み、残りを適当に殺すだけの簡単なお仕事だ。
楽すぎて作業のようにも思えてくる。
今までのダンジョン攻略では四方八方に意識を張り巡らせていたが、パーティを組むというのがこんなにも快適だとは。
ソシエールが前を見ている為俺は背後から魔物が近づいてきていないか探るだけでいいので、かなり心理的に余裕がある。
戦いの方もわざわざタイマンの状況を作り出して1体ずつ処理する必要は無く、ただただ目の前に現れたヤツの魔石を貫くだけ。
俺は表情に出さず密かに感動していた。
にしても、ソシエールの指示出しとレキシコンの戦況の把握は凄まじい精度だな。
コレが初めてのダンジョンだと言うヤツも居るのだが、そうは思えないほど全員伸び伸びと動けている。
30分も掛からずに1階層のフロアボスへとたどり着けてしまいそうだ。
「ナイスー! 皆強いねぇ!」
「プリシラさんたちがかなり数を削ってくれるからね。しかも後ろの射線からしっかり外れてくれるし、魔法が撃ちやすいよ」
「ふふっ、ありがと。シグマくんも私に引けを取らないとはやるな、このやろっ」
「まだ上層だからな。今日は行かないが、3階層とかだったらこうはいかないだろ」
「そだねー。そう考えるとゼータ先輩は本っ当に強いんだなぁ、って思うよ」
……ゼータ、先輩?
先輩については入学式の日に居た生徒会の3人しかわからないので、俺は思わず首を傾げてしまう。
そんな様子が見えたのか、レキシコンが親切にもその人物について話してくれた。
「ゼータ・クルヌギア。現序列1位さ。1年生最初の序列戦で1位になって、それから一回も玉座を降りたことがないらしいね」
「えぇ……無茶苦茶だな」
「光属性のダンジョン、4階層のフロアボスをひとりで倒したとか噂あったなぁ。まぁ今年はどうなるかわからないけど」
「そりゃまた、どうして」
「今年の新入生にも居るでしょ。規格外の魔術師がひとりさ」
……アリスか。
彼女が凄まじい魔力量を持っていて、闇魔法を使う俺に何発も攻撃を入れたことからその戦闘能力が高いことも想像付く。
ゼータ先輩というのがどの程度なのか皆目見当もつかないが、アリスなら仮に勝てなくても善戦はすることだろう。
序列というのは最も手っ取り早く学生教師共々に力を示せるモノだ。
彼女は一体、どの程度の立ち位置を目指し動いていくのだろうか。
恐らく決めていても今はまだ概要だけだろうが、いつか聞いてみたいものだ。
そんな風に周りを警戒しながらも軽く雑談を交わしていると、遂に俺たちは第1階層のフロアボスの元へと着いた。
そこへと続く扉は堅く閉ざされており、ここまで余裕だったとは言え大抵は緊張しているように見える。
特にダンジョンが初めてだという後衛のヤツはずっとソワソワしていて、逆に見ているこっちが落ち着いてきた。
まぁ第1階層はどのダンジョンもかなり魔物が弱いし、フロアボスと言えどそこまで苦戦は強いられないだろう。
最悪俺ひとりでも殺せるし、今回はかなり戦い慣れているソシエールも居る。
レキシコンが中心となって鼓舞し、やがて全員の覚悟が決まる。
俺たちは改めてフォーメーションについて最終確認をし、事前に支給されたポーションをひとつ口に含む。
殆ど魔力は使っていないのだが、一応な。
「さて、それじゃあいよいよボス戦だね。今までの魔物は下級魔法しか撃ってこなかったけど、ボスとなると何が来るかわからない。後衛3人のうちひとりは
「お、おう! 任せろ!」
「ヘルス管理はネオレアに一任したい。ヘイトは主に私が受けて、万が一私が危なかったらシグマくんにカバーしてもらう。これが大筋の戦い方だけど、質問はあるかな?」
今回俺の役割はサブアタッカーとサブタンクで、基本的にはヒットアンドアウェイで体力を削ることになる。
《
しかし近接戦特化は俺とソシエール以外居ないので、最悪は魔法で俺が引き付ける役割を担っているわけだ。
ここのフロアボスがどんなモノかはまったく知らないが、問題は無いだろう。
質問が無いことを確認し、ソシエールは傍らに置いていた剣を持って立ち上がる。
俺たちも続いて立ち上がり、円陣を組んで手を合わせ頷き合う。
ここが今回の第一関門。
まずはここを超えてからだ。
「打倒第1階層フロアボス! いくぞー!」
『おぉおおおおおおおおおおおおっ!!!』
俺も普段は出さないような声でそう叫ぶ。
気合いが入ったところで、ソシエールはフロアボスの部屋へと続く扉を開けた。
その先にあったのは、5センチ程度が水で満たされた地面と、薄い霧。
そして──1匹の巨大な蛇だった。
『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア───ッ!!!』
フロアボス《
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