第4話【2】
「《
「《
エグゼ先輩とルミナリア先輩は右手を掲げ同時に口を開き、詠唱短縮をして互いに魔法を放った。
透き通った水の弾丸と不可視の竜巻が手のひらから撃ち出され、ソレらがぶつかると同時に凄まじい濃霧が生まれる。
遮られる視界の先で彼らはすぐに次の攻撃と回避を行う為なのか、一瞬にしてその場を離れるよう跳躍する。
魔術師だからと魔法の方に注目しようと思っていたが、間違いだったようだ。
魔法は勿論現状人間が持つ最大の攻撃手段だが、ソレを上手く扱うのにも身体という資本が必要となる。
彼らが序列最上位に居るのは、そういう細かいことを怠っていないからなのだろう。
霧で見にくい筈なのに放たれる下級魔法の数々は正確に相手を捉えており、立ち位置を入れ替えながら飛び交っている。
空気を焼く《
地面を抉る《
幾重にも連なる魔法が視界を彩り、霧が霧散した頃には彼らの立ち位置は真反対にまで入れ替わっていた。
エグゼ先輩が地面を蹴り、宙へと体を滑らせ太陽を背にしながら視線をルミナリア先輩の方へと向ける。
すぐさま対応するようにルミナリア先輩は今までよりも多くの魔力を込めていた。
彼女はソレを目にして余裕たっぷりに笑いながら宙を蹴り、的を絞らせないように虚空を跳んでいた。
風魔法……なのか?
上級風魔法に《
なんとも不思議な戦い方だ。
エグゼ先輩が今やっているあそこまで三次元を広く使うような戦い方は、今までの俺には無かったモノだ。
参考になるな。
俺にもできるだろうか。
「神なる力で世界を傾け、烈風の覇者たる風の精霊を今
──《
「初っ端から飛ばすんだな、お前は!」
俺が凄まじい魔力を肌に感じた時、ルミナリア先輩はその場から飛び退る。
刹那──そこを龍が齧り取った。
いや、ソレはあくまで比喩である。
ただ、自然が創るにはあまりにも凄まじい力を持つ竜巻が、彼が居た場所を食い荒らすように襲いかかったのだ。
王級風魔法《
ただ威力が高いだけでなく、魔力で意図的に抵抗しなければあっという間に地面から足が離れてしまうほどの威力がある。
純粋な風の力を操る魔法としては最上位と言っても過言ではないモノだ。
ソレを、詠唱を短縮して……だと?
バカげている、としか言いようが無い。
王級は上級の更に上の階級である。
それ以下のモノとはわけが違うのだ。
この国の魔法は──凄まじい。
「《
「やばっ……! なんでそれ越しなのに正確に狙えるのかねぇ!」
「魔力の伝わせ方が単純で読みやすいからに決まっているだろう!」
しかし、ルミナリア先輩も負けていない。
《暴風龍舞》から逃げつつも方向を切り返す際にエグゼ先輩へ向けて魔法を放つ。
アレは下級光魔法の《光線》だが、確かに光は他の魔法に遮られること無く進んでいく性質がある為有効だ。
適正元素ではない筈なのにその練度はかなりのモノで、エグゼ先輩は避ける度に動きが鈍くなっていた。
彼女は竜巻を収めると、小柄な体躯を生かすように地面を縦横無尽に駆けていく。
素早く動き狙いを散らし、一歩一歩その距離を縮めていく。
しかしルミナリア先輩は特に何もせず、ただその双眸にエグゼ先輩のことを映す。
両者の距離がある程度縮まった時。
──ゾッ、と背筋を悪寒が走り抜けた。
「──《
大地が蠢いた。
彼の言葉に応えるように地面が低く唸りを上げたかと思えば、彼の足元からエグゼ先輩へ向かうように大地の剣が迫りゆく。
完全に不意を突かれたのか彼女は体勢を崩しながらなんとか躱し、再び距離を詰める為か足を着ける。
しかし、剣の攻勢は未だ終わっていない。
魔力を地面に伝わせているのだろうが、にしてはかなり正確で速い。
こちらも王級魔法の《弾劾之剣》だ。
そう簡単に習得できる代物じゃない。
「《
「遅いっ! 《土弾》!」
「まず──あがッ!?」
《弾劾之剣》の隙間を縫ってエグゼ先輩は不可視の刃を飛ばしたが、呆気なくソレは躱され《土弾》を食らう。
もの凄く痛そうな光景が映ると共に、彼女は遥か後ろへと吹っ飛ばされた。
同時に『パキリ』と何かが割れる音が聞こえたので、彼女に目を向けてみる。
視線の先、エグゼ先輩の胸元に着いていた学生証の周りにあった結界は、跡形も無く砕け散っていた。
ルミナリア先輩の、勝ちだ。
『うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』
「……凄いな」
彼らの素晴らしい戦いに向けられた万雷の拍手が校庭に鳴り響いた。
エグゼ先輩は恥ずかしそうに立ち上がって制服をはたくと、悔しそうに学生証をルミナリア先輩へ向けて投げつける。
同時に彼も学生証を投げ、入れ替えるようにソレをキャッチした。
「くっそぉ! 新入生の前で負けるとかめっちゃ恥ずかしいって!」
「俺だって負けたら同じだ。文句言うな」
「ぐぬぬぬぬ……。こほん、皆! 今のは多少パフォーマンスも意識してたけど、これが模擬戦です! 皆もこうやって楽しく戦えるように頑張ってねっ!」
「これで我々からの話は以上だ。各自教室へ戻り、担任からの指示を仰いでくれ」
鳴り止まぬ喝采の中、ふたりは楽しそうに笑いながらそう言った。
彼らが校舎へ戻るのに付いていくように新入生も歩き始める。
誰も彼もが興奮した様子で、やはり今の戦いは最上位たるに相応しいモノだったんだなと感じさせられた。
俺も彼らを追うように戦いの跡に背を向けると、視界の端にアリスが映った。
見ているのがわかったのか、彼女は俺に向けて勝ち誇るような笑みを向けてきた。
やはり可愛い。
「──そこのお前」
内心頬を緩ませていると、そう冷たい声が背後から掛けられた。
視線を後ろに向けると、そこには彼女とお揃いの金髪を持つ青年──リオンが俺のことを見つめていた。
……間違いなく、俺、だよな?
え、なに。
もしかして、見破られてるのか?
この国の人間じゃないってこと。
「名前は?」
「……シグマです」
「シグマ、お前は今のふたりの戦いを見てどう思った?」
「え、っと……? ただ強い魔法を撃つだけではなく、下級や中級のモノも自在に使っていて凄い……と、思いました」
「そうか」
……え、それだけ?
マジでなんなのこの人。
普通にめっちゃ怖いんだが。
「お前、隙を見ていただろう」
「……?」
「あのふたりが戦っている時、お前は戦闘の流れではなく、両者に生じていた隙を正確に見定めていた。確かに流れも見ていたがな」
「隙、って……何のことですか」
「………。まあいい。いずれわかることだ。ただまぁ、アリス以外に面白そうな奴が入学してきたのは予想外だ」
──精々楽しませてくれよ。
そう言い残すと、彼はアリスを一瞥した後優雅な足取りで校舎へと向かっていく。
俺はただ、その場に立ち尽くした。
………。
なんで、バレたんだ。
視線の動き?
そんなわけがない。
ハッタリか?
にしては確信を得たような声だった。
何故だ、どうしてだ。
特殊な魔眼でも持っているのか?
アリスが俺のことを話していたのか?
彼女を探る過程で俺に気づき、試すようなことを言ってきただけとか?
「……クソッ」
結論は出なさそうだ。
アリスに相談するしかないかも知れん。
また、頼ることになってしまった。
目立たない、という最低限の任すら全うできなかったことに歯噛みする。
予想以上にメビウス王国は凄い。
今までもしていたつもりは無いが、決して油断はできない。
これまで以上に気を引き締めなければ。
「……シグマさん。学生証です。なんとかエシュヴィデータは消し、シグマ・ブレイズの部分だけ残しておきました。どうぞ」
「……ああ。ありがとう」
「お兄様は何故、まだ力の一端すら見せていないあなたに接触したのでしょう」
「さあな。戦いの隙を見ていただろって、なんでそんなことがわかるんだか」
「敵はやはり、強大ですね。わからないことだらけで嫌になります」
彼女の重々しい言葉に大きく頷き、俺は止めていた歩みを再び進める。
いつも通り歩いている筈なのに、俺の歩く速度はアリスと殆ど変わらなかった。
足は、鉛のように重かった。
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