金の斧銀の斧タングステンカーバイドの斧

みなもとあるた

金の斧銀の斧タングステンカーバイドの斧

むかしむかしあるところに、正直者の木こりがいました。


ある日木こりが湖の近くで木を切っていると、勢いあまって持っていた斧を湖に落としてしまいます。


あわてた木こりが湖に近付くと、なんと湖からは美しい女神さまが現れ、木こりに対してこう言いました。


「あなたが湖に落としたのは、この金の斧ですか?それともこの銀の斧ですか?」


でも、木こりが湖に落としたのは、金の斧でも銀の斧でもありません。


正直者の木こりは、女神さまに対してこう言いました。


「私が落としたのは、金の斧でも銀の斧でもありません。モース硬度がもっと高い金属でできた斧です」


それを聞いた女神さまはこう答えました。


「あなたは正直者ですね。モース硬度がたったの3しかない金の斧や銀の斧で木が切れるわけないですもの。こんなもの飾りですよ飾り。せいぜいキノコ狩りくらいにしか使えないでしょう」


女神さまはそう言うと、金の斧と銀の斧をその辺に投げ捨てました。


そして女神さまはもう一度木こりに尋ねました。


「では、あなたが湖に落としたのはこのナトリウムの斧ですか?それともリチウムの斧ですか?」


それを聞いた正直者の木こりは、女神さまに対してこう言いました。


「いいえ女神様。ナトリウムやリチウムでできた斧を湖に落としたら、その瞬間に水と反応して大爆発を起こすでしょう。ですからそれは本物のナトリウムやリチウムではありませんね」


それを聞いた女神さまはとても嬉しそうにしました。


「あなたは理系の木こりですね。あなたの言う通り、もしこれが本当にナトリウムやリチウムでできた斧だったとしたら、今頃私は大爆発でバラバラになっていたでしょう。実はこれは、アルミニウムと鉄でできた斧だったのです」


女神さまはそう言うと、アルミニウムの斧と鉄の斧をその辺に投げ捨てました。


「では正直者の木こりよ。あなたが本当に落としたのは、どんな斧でしたか?」


それを聞いた木こりは、女神さまに正直に答えました。


「はい女神様。私が湖に落としたのは、モース硬度9の超硬合金タングステンカーバイドでできた斧です」


「なるほど、タングステンカーバイドとは良い斧を使っていますね。兵士を鎧ごと真っ二つにするつもりですか?」


「いえいえ、ただ私は木こりとして効率よく仕事がしたかっただけなのです」


「あなたは正直者ですね。では、あなたにタングステンカーバイドの斧をお返ししましょう。それだけではありません。その辺にある金の斧とか銀の斧とかも持って帰っていいですよ」


こうして正直者の木こりは、タングステンカーバイドの斧を取り戻しただけではなく、金の斧や銀の斧、アルミニウムの斧や鉄の斧を手に入れて家に帰り、大金持ちになりました。


それを見ていた欲張りな木こりは、自分も大金持ちになりたいと考えました


高価な元素についてインターネットで調べ、それを女神さまにもらおうと企んだのです。


そしてある日、欲張りな木こりは安い鉄の斧を湖にわざと落としました。


湖からは女神さまが現れ、欲張りな木こりにこう言いました。


「あなたが湖に落としたのは、この金の斧ですか?それともこの銀の斧ですか?」


欲張りな木こりは、女神さまに対してこう言いました。


「いえいえ女神様。私が落としたのは、金の斧でも銀の斧でもありません。原子番号がもっと大きい元素でできた斧です」


それを聞いた女神さまは、一瞬悩みました。


「ふむ、確かにあなたは正直者ですが、金や銀よりも原子番号が大きい斧ですか。少し待っていてくださいね」


女神さまは、湖の中にゆっくりと帰って行きました。


これを見た欲張りな木こりは、心の中でしめしめと喜びます。


(ネットで調べたところによると、原子番号の大きい元素ほどとんでもない値段が付くそうじゃないか。金や銀よりもっともっと高価な斧を手に入れてやるぞ…)


欲張りな木こりがそんなことを考えていると、女神さまが再び湖から顔を出しました。


「えーと…あなたが落としたのは、このポロニウムの斧ですか?それともこのカリホルニウムの斧ですか?」


欲張りな木こりは、よく分からないけどなんか高そうだぞ、と思いながら、女神さまにこう答えました。


「そうです!私が落としたのはポロニウムとカリホルニウムの斧です!いやーよかったよかった。これで木こりの仕事ができる!」


それを見た女神さまは、ちょっと怪しそうな表情をしたものの、二つの斧を欲張りな木こりに渡しました。


「そうですか、あなたはポロニウムとカリホルニウムの斧で仕事をしていたのですね。カリホルニウムは1キログラムで100兆円くらいしますから、あなたはとてもお金持ちな木こりなのですね」


「は、はい!そうなんです!やっぱり仕事道具にはお金をかけたいですからね!ははは!」


カリホルニウムの価値を知った欲張りな木こりは、心の中で大喜びしました。


でも、女神さまはゆっくりと湖に帰りながら、欲張りな木こりにこう告げたのです。


「しかし良いのですか?ポロニウムは最強の放射性物質と呼ばれる元素ですし、カリホルニウムに至っては性質すらわかっていないほど不安定な元素です。だから、そんなものを手に持つなんて…」


女神さまの言葉は欲張りな木こりには届いていませんでした。


なぜなら欲張りな木こりは、大量の放射線を浴びて青色に輝き、激しく燃え上がっていたからです。


こうして欲張りな木こりは、原型すら留められませんでしたとさ。


おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金の斧銀の斧タングステンカーバイドの斧 みなもとあるた @minamoto_aruta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ