自鳴琴

「う~ん……どうすべきか……?」


 一方その頃、仁は今世紀最大の問題にぶち当たっていた。

 これまでの人生で一度も行ったことのない女性向けの小物を売っている雑貨店に入った彼は、そこに並ぶかわいかったり綺麗だったりの品々を見ては唸り続けている。


 あれでもない、これでもないと悩みながら顔を顰める彼の目的はただ一つ、花音へのプレゼントを選ぶことだ。


 彼女とチームを組み、悪魔との戦いに身を投じてからおよそ二か月、仁は私生活でも戦いの面でも花音の世話になり続けている。

 悪魔を探知するための仕込みや情報収集、『C.R.O.S.S.』との連絡役など、自分にはできないことを彼女に任せっきりしてしまっていることに対して、仁は申し訳なさを感じていた。


 そういった労をねぎらうため、そして日頃の感謝を表すために何か贈り物をしようと考えたまではよかったのだが……そこは年齢=彼女いない歴の男子である仁がすんなりとプレゼントを決められるわけもない。

 花音の趣味に合わなかったらどうしようだとか、値段が高過ぎて引かれたり安過ぎて不満に思われたりしたらマズいなだとか、そういうネガティブなことばかり考えている彼が、延々と悩み続けていると……。


「あなた、どうかしたの? もしかしてプレゼントに悩んでる?」


「えっ……!?」


 唐突に声をかけられた仁が驚いて振り向いてみれば、白いワンピースを着た綺麗な女性が笑みを湛えてこちらを見つめている姿が目に映った。

 楽しそうな表情のまま、仁の隣へと歩み寄ったその女性は、彼と一緒に小物を眺めながら質問をしていく。


「誰への贈り物? もしかして、彼女さん?」


「いえ、そういうんじゃないですけど……日頃の感謝を込めて、プレゼントでもしようかなって」


「あら、気が利くいい子じゃない! そういうマメな男の子はモテるから、その気持ちを大事にしなさいな!」


 強引な話の入りであったが、年上の女性からのアドバイスにしっかり耳を傾ける仁。

 彼女は一つ一つ小物を指差しながら、感慨深そうな表情を浮かべて彼へと言う。


「こういうのはね、気持ちが大事なのよ。あなたが大切に想う人が、あなたと同じ気持ちでいてくれるのなら、自分のために一生懸命選んでくれた物ならきっと喜んでくれるはずよ。大事なのはハート、ってこと!」


「ハート、ですか……」


「そうよ! ……考えてみて。あなたはその子に何を贈ったら喜んでくれると思う?」


 横から顔を覗き込みながら、女性は仁へと問いかける。

 暫し悩み、考え、花音の笑顔を思い浮かべながら小物たちを見回した彼は、その中から一つを選ぶとそれを手に取り、口を開いた。


「これ、でしょうか? 自身はないですけど……」


「あなたがいいと思ったなら、それでいいのよ。言ったでしょう? 大事なのはハートだって!」


 仁が選んだのは、小さな箱の形をしたオルゴールだった。

 特にかわいいわけでも豪華なわけでもない、シンプルな小箱であるそれを見つめながら彼の決断を後押しした女性は、小さく頷いてから彼へと言う。


「そうだ。どんな曲が流れるのかを確認しておきましょうよ! そこもしっかりチェックしておかないと、プレゼントにうってつけかどうかわからないでしょう?」


「そ、そうですね。じゃあ、アドバイスに従って……」


 左手の上に乗せたオルゴールの蓋を右手で開く仁。

 ぽろん、ぽろんと静かに奏でられ始めたその曲を耳にした女性が、目を細めながら頬笑みを浮かべる。


「……静かでいい曲ね。心が落ち着くわ……」


 箱の中では小さな白馬が曲に合わせて上下し、それを見ているとまるでメリーゴーランドに乗っているような優しく愉快な気持ちになれる。

 ゆっくりと瞳を閉じ、そのメロディに心を浸らせながら、女性は自身の過去を追想していく。

 優しい曲に彩られた、温かく幸せだったあの頃の思い出を振り返る彼女の耳には、あの日、愛する男性が言ってくれた幸せな言葉が聞こえていた。

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