第二指令
「みんな、いい人たちだったね~! 晩御飯もご馳走になっちゃったしさ~!」
「そうでしょ? みんな、僕の自慢の家族なんだ」
『光の家』からの帰り道、二人で歩く仁と花音は、夜空を見上げながらシスターや子供たちについて話をしていた。
家族同然に過ごしてきた施設の面々と久しぶりに会えて嬉しそうにしている仁の横顔を見つめ、自分もまた微笑んでいた花音は、軽やかな足取りで歩きながらこう続ける。
「シスターさんの怪我もすっかり治ってたし、戦いで壊れた家屋も修繕されてた。『C.R.O.S.S.』もきちんと支援をしてるみたいだね」
「そのことに関しては感謝してるよ。本当に、助かった」
「あたしたちが仁くんたちを巻き込んじゃった尻拭いをしてるだけなんだけどね。でも、仁くんの家族が元気に暮らせてて、本当によかったよ」
あれだけの戦いに巻き込まれてしまったというのに、今ではもうすっかりその痕跡が消え去っている。
特に子供たちはあの戦いどころか悪魔の存在すら知らずに今日まで『光の家』で過ごしているわけで、そう考えると彼らが非現実的な日常に巻き込まれなくて本当によかったと思う花音の言葉には、相応の重みがあるように感じられた。
「でも、ちょっと申し訳なくもあるかな。あの子たち、あそこで人が死んだことを知らないまま過ごしてるんだもんね」
「………」
そう、悲し気に笑いながら呟いた花音へと、なんとも言えない表情を向ける仁。
彼女が戦死したダバへと手を合わせる姿を見ていた仁は、まだ花音の心の傷は癒えきっていないことを理解すると共に慰めの言葉を口にする。
「本当に……ダバさんのことは残念だと思う。でも、あれは誰もどうしようもなかった。僕がもっと早くに聖剣を手にしていれば、もしかしたら彼のことを救えたかもしれないけど、それでも――」
「――仁くんが気にする必要はないよ。でも、ありがとう。気遣ってくれてさ」
いつもとは逆で、自分が仁に励まされるという状況におかしさを覚えながらも、彼の気遣いに感謝する花音。
深く息を吐いた彼女は、顔を上げるとこれまで黙っていたことを彼へと話し始める。
「……ゼラって覚えてる? あたしとダバとチームを組んでた、もう一人の女の子」
「ああ、覚えてるよ。彼女の容態はどう? 命に別状はなかったんでしょ?」
「うん……体の傷はもう癒えた。でも、心の方がね……」
「……無理もないよ。自分の目の前で仲間が悪魔に食い殺されたんだ、トラウマにもなる」
「それもあると思う。でも、話を聞く限り、ダバはゼラを庇ってドラフィルに殺されたみたいなんだ。それに、ゼラとダバは恋人ってわけじゃあなかったけど……お互い、大切に想い合う関係だったからさ……」
「え……?」
初めて聞いたその情報に、目を丸くしながら花音を見つめる仁。
寂しそうに顔を俯かせる彼女は、下を向いたまま話を続ける。
「
何も言えずにただ黙って花音の話を聞き続けていた仁もまた、ゼラが抱えているであろう苦しみが想像できた。
もしもあの場で死んだのがダバではなく、施設の子供たちやシスターであったのなら、自分もまた彼女と同じ後悔や絶望を抱えていたはずだ。
大切な人を失うというのは、言葉にできないほどの苦しみと悲しみを味わうということ。
ゼラが心に負った深い傷が癒えるまでには、まだまだ時間がかかるのだろうと思いながら、仁は花音へと問いかける。
「これから彼女はどうなるの? 僕たちが悪魔を討伐すれば、彼女も卒業試験を突破したことになるの?」
「……わかんない。その部分は詳しく聞いてないし、仮にそうだったとしても、ゼラが戦線に復帰するまでには時間がかかるだろうから。だけど……ゼラの家族は、彼女が悪魔祓いの使命から逃げ出すことを許さないと思う。そこの部分は、どの家も同じだと思うけどさ」
「……大変なんだね、悪魔祓いの一族って」
「聖騎士の方がもっと大変だよ。家同士のいざこざとか、悪魔祓いとの確執とか、後継者の育成とか、もっともっと面倒なことが多い。仁くんもその内、そういった面倒事に巻き込まれていくと思うから、覚悟しておいた方がいいよ。……さて、お喋りはここまでにしようか」
なんだか不穏なことを言うだけ言った花音が強引に話を切り上げる。
そうしながら自分の胸の谷間へと指を突っ込んだ彼女の姿を見た仁は、なんだかもうこの光景も見慣れてしまったなと思う自分自身に奇妙なおかしさを覚えていた。
彼が見守る中、胸の谷間から花音が取り出したのは……金の印が捺されたあの封筒だった。
ひらひらとそれを揺らして仁へと見せつけた彼女が、緊張を感じさせる面持ちを浮かべながら言う。
「来たね、二件目の指令。じゃあ、今回も張り切っていきましょうか!」
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