episode1 悪魔《Sacrifice》
共同生活
「さあ、入った入った! 今日からここが、あなたとあたしが住む家だよ!!」
「あ、えっと……おじゃましま~す……」
ドラフィルとの戦いから三日後、仁は花音に連れられて『C.R.O.S.S.』が所有するマンションの一室へとやって来ていた。
伊作から与えられた試練である、悪魔との戦い。三体の悪魔を討滅するというその試練に本格的に挑むことになった彼は、『光の家』を出て生活することになったのだが――
「あのさ、本当にいいの? 君と僕がその、同じ部屋で一緒に暮らす、だなんて……」
「別に! 異論なんてないよ! むしろ同じ空間で生活した方が話し合いとか楽でいいじゃん!」
そんな能天気にも程がある花音の返事を聞いた仁が緊張とも不安とも呼べない感情に顔を顰める。
一体全体、どういう流れでそう決まったのかはわからないが……仁は、彼女と同じ部屋で共同生活をすることになっていた。
これが大きな家ならばまだよかったのだが、自分たちに与えられたのはほぼワンルームのマンションの一室だ。
風呂もトイレも共用だし、ベッドも同じ部屋に備え付けられているという状況で、まだ若い男女が二人きりで生活するというのはマズいのではないかと、仁が思う。
花音は全く気にしていないようだが、自分の方はそうはいかないぞと……内心でドギマギしながらも荷解きをしていく彼の背へと、緊張の元凶である彼女が声をかけてきた。
「あなたの方こそ、本当によかったの? ご両親のことを探るためとはいえ、悪魔との戦いに身を投じるだなんて……」
「……覚悟の上だよ。何も知らないままだったならまだしも、点々とはいえ自分の出自に繋がる手掛かりを得た今、僕は自分が何者であるかわからないまま生きたくはない。聖騎士の一族だとか、蒼炎騎士だとか……そういう自分のルーツを辿っていけば、両親がどうして僕を捨てたのかもわかるかもしれないんだ。だったら、命を懸けて戦う価値はある。子供たちやシスターの生活も約束してもらえるしね」
「……そっか。そうだよね。ここまで巻き込まれちゃったなら、もう引き返すも何もないか。どうせなら思いっきり巻き込まれて、自分の知りたいことを追い求めた方がすっきりする人生だもんね」
仁の言葉に納得したように頷いた花音が一歩前に出る。
Tシャツとホットパンツという、初めて会った時とは打って変わったラフな格好をしている彼女は、そのまま仁へと右手を差し出すと、笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ、もうこれ以上は何も言わないよ。一緒に協力して、三体の悪魔を討滅しよう。これからよろしくね、仁くん!」
「こちらこそよろしくお願いします。あ~、えっと……」
「花音でいいよ。っていうか、それ以外に呼ぶ名前ないしね」
花音が差し出した手を取り、彼女と握手を交わす仁。
随分と身長差がある二人ではあるが、これから共に試練に臨むパートナー同士として信頼を築いていこうと彼が考える中、いたずらっぽく笑った花音が言う。
「それじゃあ早速だけど、仲を深めるために一緒にお風呂でも入る? 背中を流しっこしたりなんかしちゃえば、すっごく仲良くなれると思うんだけどにゃ~!」
「ぶへっ!? ごほっ! ごほっ! は、はぁっ!?」
唐突にも程があるその発言に驚愕した仁が大きく咳き込んで顔を真っ赤にする。
ニターッ、と笑う花音はというと、小柄な体に見合わない多くな胸を強調するように前屈みの体勢を取りながら、こちらへと試すような視線を向けていた。
「どうする~? 一緒にお風呂、入る~? あたしはどっちでもいいよ~!」
「ばっ、馬鹿なことを言うんじゃありません! 若い男女が一緒にお風呂だなんて、破廉恥にも程があるでしょうが!!」
「にゃはは~っ! 真っ赤になっちゃって、面白~い! 仁くんは度胸が足りませんな~! まあ、これから生きている間はずっとチャンスがあるわけだし、気が変わったらお風呂に突入してきちゃってよ!」
仁に怒鳴られた花音であったが、そんなことまるで意に介していないように彼をからかいながらバスルームへと向かっていく。
荒い呼吸を繰り返しながら彼女の背を見送った仁は、暫くして聞こえてきたシャワー音を耳にして不埒な妄想を働かせると共に、勢いよく首を振ってその妄想を頭の中から放り出した。
「こ、これから、こんな生活が続くの……?」
自由奔放かつ何を考えているかわからない花音との共同生活は、想像以上に大変そうだ。
下手をすればこっちの方が悪魔よりも手強い相手なのではないかと思いながら、がっくりと肩を落とした仁はとにもかくにも荷解きだと自分を叱咤激励し、作業を続けるのであった。
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