運命
「ウリア? 聖剣? 何を言ってるんです、あなたは?」
意味深な伊作の言葉に顔を歪め、そう尋ねる仁。
そんな彼の顔を真っ直ぐに見つめる伊作は、予想していた反応だとばかりに自身の言葉の意味を語り始める。
「聖遺物についての情報は聞いているな? 神の祝福を受けし聖なる品々である聖遺物は、悪魔に対抗し得る力を持つ。その中でも最も強いと言われているのが、聖剣と呼ばれる武具たちなのだよ」
伊作の手から自身の物である十字架を受け取った仁は、それをまじまじと見つめながら彼の話を聞き続けた。
銀色と、薄っすらとした蒼色の輝きを放つそれを目を細めながら眺める彼は、再び顔を上げると表情で伊作へと話の続きを促す。
「聖剣は、ただの武器ではない。かつて神の使徒として悪魔と戦った戦士たちは、聖剣を用いることでそれぞれの神の祝福を受けた鎧を身に纏い、転身することができた。聖なる剣を振るい、鎧を纏って、悪魔と戦う戦士たちはいつしか聖騎士と呼ばれるようになり、その存在は現代に至るまで脈々と受け継がれている。『C.R.O.S.S.』にも多くの聖騎士やその候補生たちが所属し、日夜悪魔たちと激しい戦いを繰り広げているのだよ」
「……僕が、その聖騎士の一人だと? あなたはそう仰るんですか?」
「その通りだ。しかも、君は三百年間存在が確認されなかった蒼炎騎士の血筋を引く者だ。既に系譜は途絶えたと思っていたのだが……まさか、こんなところでその血を受け継ぐ者と出会えるとは、驚きだよ」
「騎士たちはね、それぞれに称号と名前を与えられて、聖剣と鎧と共にそれを代々受け継いでいるの。その中でも闇を照らす炎を象徴する称号を与えられる聖騎士っていうのは、特に強い存在だって証で……あなたはそんな強い騎士の一族であり、聖剣の正統な継承者ってことなんだよ」
伊作の説明とそれを補足する花音の話を聞いた仁が改めて手の上に乗る十字架を見つめる。
シスターは、この十字架は『光の家』に捨てられていた幼き日の仁が手にしていた物だと言っていた。
その情報と、今聞いた話を組み合わせると……自分の両親は、悪魔と戦う聖騎士の一族であったということになる。
「……先に説明した通り、我々も蒼炎騎士の血統は既に途絶えたと思っていた。三百年もの間、その存在が確認されなかったからだ。だが……君は聖剣を用いて鎧を召喚し、第三位の悪魔を討滅してみせた。もはや、疑いようはない。君は蒼炎騎士ウリアの名を受け継ぐ、聖騎士の一人だ。そして――」
「僕の父か母も、聖騎士の一員だった……」
「そうだ。どうして君のご両親が身を隠し、息子である君をこの施設に預けたのかはわからない。だが、君にこの聖剣を預けたのには必ず意味がある……少なくとも、私はそう思っているよ」
あまりにも現実離れした、伊作の話。
しかし、昨日の戦いが、実際に遭遇した出来事が、それが紛れもない真実であると証明している。
今の今まで、何もわからなかった両親に繋がる手掛かりが出現した。
自分自身が何者なのか? どうして両親は自分を捨てたのか? 幼少期から幾度となく思い悩み続けていたその問題の答えに繋がる手掛かりである十字架……いや、聖剣を見つめる仁に対して、伊作が言う。
「知りたくはないか? 自分の
「……!!」
ゆっくりと顔を上げた仁が真っ直ぐな視線を伊作へと向ける。
彼の瞳の中に蒼く燃える炎を見た伊作は、大きく頷くと共にこう続けた。
「久遠仁……これから君に、三体の悪魔を討滅するという試練を課す。この試練を突破できたのなら、君を『C.R.O.S.S.』所属の聖騎士見習いとして認めよう。そうなった場合、この施設の運営や子供たちの進学に必要な資金は我々が面倒を見ることを約束する。君自身も、『C.R.O.S.S.』が経営する高等学校に特待生として招き入れよう。そこで訓練を積み、研鑽を続け、一人前の聖騎士として成長を遂げれば……悪魔との戦いの中で、君のご両親に関する情報も得られるはずだ」
今度は、仁が伊作の言葉に頷く番だった。
突如として自分の前に出現した、両親に繋がる手掛かり。
それを追い、過酷な戦いへと飛び込む覚悟を決めた彼の表情を目にした伊作は、椅子から立ち上がると共に傍に控えていた花音へと言う。
「花音、命令だ。戦死したダバと負傷によって戦線離脱したゼラに代わって、彼とチームを組め。蒼炎騎士ウリアの名を継ぐ者と共に、三体の悪魔を屠るのだ。それをお前の卒業試験とする。わかったな?」
「はい、わかりました」
「詳しい命令は追って通達する。今日は帰還し、体を休めろ、以上だ」
伊作からの命令を深々と頭を下げた状態で了承する花音。
全ての話を終えた伊作が去った後、仁の方へと振り向いた彼女は、少しだけ複雑そうな笑みを浮かべながら彼へとこう告げた。
「というわけで……今日から相棒としてよろしくね、蒼炎騎士さん。今はまだ混乱してる部分もあるだろうから、また改めて色々と説明させてもらうよ。それじゃあ……またね」
別れを告げ、外套をはためかせて、伊作の後を追うように花音が部屋を出ていく。
彼女を見送った後、深く息を吐いた仁は、手の中にある十字架を改めて見つめると共に、自分の運命が大きく動き始めたことを感じ、拳を握り締めるのであった。
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