第3話『モノクロームがうろつく』

かがやかしいアクアマリンと深みのあるタンザナイトがまじりあっている。海面。と呼ばれる場所。空と海の境界線上にわたしはいた。

空のちかくには、なにかにくにくしいものが飛んでいる。かもめ?なぜ今なまえがでてきたのだろう。


わたしはタンザナイトと平行に移動する。すおーんとあるいて?いる。


ほどなくして、わたしのほかにもなにかがあることに気づきかけた。が、その他にはなにもわからなかった。

あたまがぼんやりする。海のむこうのアクアマリンの線はモノクロームのなにかによってぼやけている。

モノクロームのなにかは、なにかをぶつぶつつぶやいていて、それがいらいらして、また月長石のなみだがながれた。

共鳴するようにして、モノクロームたちはなみだを一緒にながす。


「そ。そ。そ。そ。そ。そ。」

「たす。たし。たす。たし。」

「まま。まま。まま。ま。」

「お、お、お、お、おか。」


なにかの断末魔のひめいのような(しかしなぜそう感じたの?)声を上げながら、モノクロームたちはいっせいにすすり泣き、すすり笑いをする。

わたしもかなしくなった。月長石のなみだをともにながしながら、いっしょにすすり泣きをしたかった。かれらのように言葉を出そうとする。脳みそ(脳みそ?なんだそれは?)から必死にしぼりだし、声をあげようとした。


出ない。でない。


いくらしぼりだそうとしても声がでない。なみだならばいくらでも出すことができるのに。のど?がせきとまってつまっているかのようにわたしの器官だけからは声がでなかった。カンラン岩のように身体がおもくなる。おもくなった身体からはなみだすらでない。モノクロームたちからまきちらされる月長石は泡飛沫となって海に溶け込んでゆく。


いたたまれなくなって、モノクロームたちからはなれた。かれらにはわたしとちがう、なにかがあった。例えるなら。帰るべき場所のようななにか。

わたしもそれがほしくなった。わたしではないものは、帰るべき場所であって、ここにあるモノクロームたちではないような気がした。

再び海に身体がしずんでゆく。


ゆあーん、ゆおーん、ゆあゆおーん。


いつだったか、こんなふうに海にのみこまれたことがある気がする。それがいつだったかはおぼえていないけれど、とてもなつかしく、そしてなぜか冷たく感じた。

どこまでもつづくアイオライトが視界に広がる。

マフィックの砂底は見えず、足下にはよくわからないふよふよした肉が浮いていた。


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