第11話 死に戻りの魔法(ルシアンサイドのお話)
王都のはずれにある、白いレンガでできた近いうちにカフェになるであろう家。そこから王城まではあまり遠くない。
ものすごく後ろ髪を引かれつつエステルと別れ、自室に戻ったルシアンは側近を呼んだ。
「クロード。話がある」
呼ばれた側近は軽い足取りで窓から部屋に入り込む。
「なんだ」
「明日から、エステルの護衛についてほしい」
「何だっけ。“顔だけ聖女”のあの子か」
ルシアンは、そう表現することに全く悪気のなさそうな側近を鋭く睨みつけた。睨まれたクロードと呼ばれた側近は、艶やかな黒い毛の生えた体を机の端に擦り付ける。
「おーこわ。で、オレ、人間の姿と猫の姿、どっちで護衛すればいいわけ?」
「……猫だろうそれは」
「なんで?」
「俺は、人間の姿をしたクロードとエステル嬢が並んでいるところを想像しただけで、王都ごとお前を消せる自信がある」
「お前ってそういうやつだよなぁ」
くつくつと笑う猫の姿をした側近にルシアンは不快感を隠さない。
ルシアンの側近・クロードはルシアンの闇属性魔力によって生み出された使い魔だ。
主人であるルシアンに忠実で逆らえないはずだが、ルシアンが闇属性の魔力を目覚めさせた頃から一緒にいる二人の関係はほぼ友人に近い。
「当の本人に本音が筒抜けなんだ。もう、体裁を気にしても仕方がないだろう」
「それにしてもすごいな。『死に戻りの闇魔法』を使ったヤツを初めて見たけど、禁呪なだけあって呪い返しもすげーのな。まさか、意中の相手に本音垂れ流しになるとかどんな鬼畜の所業? ていうかセンスありすぎだよな……っくくく」
「……黙っててくれるか」
ルシアンはゴロゴロと床を笑い転げる黒猫をじろりと睨む。しかし、クロードはどこ吹く風でさらに笑い転げている。
呪い返しとは、強力な魔法を使ったときに自分の身に返ってくる代償のことである。
数日前、ルシアンは禁呪を使って一年後から死に戻った。目的は、エステル・シャルリエの運命を変えるためである。
(今から一年後、エステルは義妹が差し向けた賊によって殺される。事前に何か動きがあったのかは定かではないが……。少なくとも、今回はエステルが気がつく前に何とかしたい)
両親から一方的に聖女の交代を言い渡されたことも、シャルリエ伯爵家で居場所がなかったことも、死に戻り前のルシアンが知るのはだいぶ先のことになる。
(今度は先回りを。そして、エステルには望む未来を)
「……今度はあんなことには絶対させない」
――ルシアンは、自分だけが死に戻っていると信じていた。
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