最終話.幼馴染美少女と俺は〇〇になりまして。
初凪に綺麗にツギハギしてもらい、さあ「病院へ行くよ」と声をかけられた時だった。
バタバタ足音と共に初凪の美人母ちゃんが慌ててノックもなしに部屋に入ってくる。
初凪は慌てて愛でていたぬいぐるみの俺をさっと傍らに隠した。
洗面所で洗ってるのも多分お母さん気付いてるぞ、おまえ俺に超話しかけていたじゃないか。隠してるつもりなの可愛いな…
「どうしたの、お母さんっ」
「初凪、大変よ。耀太君の容態が急変してるって!車で一緒に行くわよ」
「!!よ、よう…たが…そ、そんな」
「初凪、しっかり!ちゃんと立って」
俺もフリーズしたが、初凪は震えて足に力が入らないようだった。
もう隠す余裕も無いのかぬいぐるみの俺を抱きしめて、「やだ。こわい。こわいよ…やだよ、耀太」とぽろぽろ涙をこぼす。
嘘だろ。
大丈夫だって、初凪。だって俺はここに…
「耀太…耀太ぁ!」
「初凪、行くわよ!」
「う、うん…っ」
初凪と初凪の母ちゃんに連れて行かれ車で病院に近づきながら、俺は今まで能天気だった自分を悔やんだ。
夢だと思いたいまま、ここまで来てしまったのか。
これが夢だとして、夢で死んだら現実でも死ぬ可能性があるんじゃないだろうか。
なんでもっとちゃんと対策を考えなかったんだ、初凪が可愛いとかそんなことばかり考えてもうかなりヤバいんじゃないか俺の身体…
車が走ってる音と初凪のひっくひっくと泣いてる声が胸に刺さる。
このままでいてもいいと何度か思いそうにはなった。
でもさ…今の俺が初凪の支えになってるのか?
ただ愛でられてるだけじゃないか。
これじゃ俺は何も出来ない。
一ツ橋の時だって、結局ハプニングみたいなもんで初凪が俺を助けてるじゃないか。
このまま、初凪を泣かせたままぬいぐるみに甘んじてていいわけがない。
俺は何としてでも元に戻ってやる!と強く思った。
思った。が、どうしたらいいのかが分からない。
魂が戻る方法…必死で思い出して念を送ったり、意識を飛ばしてみたりとやってみたがたかが一高校生にはそんな力無かった。やり方も知らないからな…
無情にも時間が過ぎ、車は病院に着く。
俺のいる病室には確かにバタバタと人が慌ただしく行きかっており、俺の家族が「耀太!耀太!」と呼びかけてくれていた。
「子供が親より早く死ぬんじゃない!」
親父。
「耀太!しっかりしなさいよ、あんたは本当にもう!」
母さん。
ごめん、俺親父と母さんの事考えてなかった。ガキだよな、目先の事ばっかりで夢だから何とかなるとか…バカだ、俺…
初凪が俺の身体のそばに駆け寄ったので、俺は俺の身体に触れた。
触れたら戻れるんじゃないかと思った。だが俺の視界は顔色が悪く目を閉じた俺が無気力に横たわってる光景のままだ。
なんで。
なんで、俺心臓マッサージされてるのかな。
ここにいるって…なあ、神様がいるなら、戻してくれよ。
俺はここにいるのに、
なんで皆俺を呼んで泣いてんだよ。
全てがスローモーションだった。
音も、ぼわんとしか聞こえない。
「手を握ってあげてください」と声が聞こえて、初凪がぬいぐるみの俺をほっぽってだらりとしてる手を握る。
ぬいぐるみは床に落ちた。バウンドして、痛くないはずなのに心が痛い。
床、硬いな…
「耀太。耀太…起きて。ごめんね。私、もう意地悪なんてしないから。ずっと優しくしてあげるから、何でもしてあげるから…私は…ずっと…耀太が…」
初凪が俺の身体に語り掛けてる。
ぬいぐるみじゃない。俺の身体に。
……もどらなきゃ、なのに…
意識が…なんだかおかしい。床に落ちたからかな。
詰んだのかな、これ。
最期まで情けない自分に嫌気がさす。
俺が初凪に人間だった時、最後なんて言ったっけ…
親父には、母さんには。
なんて言った?
なんでもっと大事にしなかったんだろう。こんなことになるなんて、思わねえよ。
なんで他の奴は学校行って普通に帰宅して今頃家で…って時に俺は…こんな。
……
結局どうしたらよかったのか、これからどうなるのか分からない。
俺はダメなままだった。後悔しかねえよ、あと少しで何が出来る?
もう前が見えなくなってきた。
どうしようもない。どうしようもないけどさ。
これだけは、伝えたい。
「「…ありがとう。おれも、すきだよ」」
真っ暗になった。
音はかすかに聞こえる気がしたんだが、もう俺は覚悟を決めてしまっていた。
暗い。
怖い。
……ふと。小さい頃お化け屋敷の中ではぐれて二人きりになった時を思い出す。
なんで…
「初凪。先に進まないと出られないよ?」
「こ、こわ、くなんてないわよ…ただ足が動かないだけ…」
「怖いの?」
「こわくない!うるさい!」
「いてえ。叩くことないだろ…おぶってあげるからさっさと出よう」
「……」
「お父さんとお母さん、どこかなあ」
「耀太」
「なに?」
「……ずっと一緒にいてくれる?」
「ん、いいよ別に」
「ほんと?」
「うん」
…はは。あの頃の初凪は素直なとこあって可愛かったな…
今でも可愛いって、充分分かったのにお別れとか人生上手くいかねえな。
……
今度こそ、意識が遠のいていく。
眠るように。落ちていくように。俺は暗闇の中へ…
最後の一瞬。
初凪が拾ってくれたのか、かすかに温もりを感じた。
____
「……というのがお父さんの体験だ」
「うそだー!ぜったいうそだー!つくりばなしだ!」
「作り話ならもっとカッコいい主人公にするっつーの!とにかく家族はいつも大事にすること!お父さんからの教えだ!」
「あら、あなた何してるの?」
髪をまとめてシンプルだがセンスの良い部屋着姿の嫁がぴとっと背中にくっついてくる。
「おとうさんがいきかえったつくりばなし!」
「作り話じゃないって!なあ、初凪。本当だよな」
「あら。ふふ…お母さんあの時はしんどかったから思い出したくないわあ」
「う、ご…ごめんな。散々心配かけて泣かせて…」
「泣いてないわ!私は人前で泣きません!」
「あ、はい」
結婚指輪をして、胸が更に大きくなっためちゃくちゃ可愛い初凪。
俺の嫁です。
俺に毒舌攻撃とタックルしてきてるのは息子。
毎日なんでおれこんな美人な嫁がいるんだろうという気持ちになっている。
あの時、
ぬいぐるみだった筈の俺の「ありがとう」が病室にいた皆に聞こえていたこと。
俺の容態はそこから一気に怖いくらい安定したことを聞いた。
俺が身体を持って意識回復したのはその翌朝だった。
何がきっかけだったのか分からないが、奇跡的回復を経て俺はここにいる。
初凪に迫られたんじゃなく、俺から告白してスピード結婚して…ら、ラブラブな色々をして子供にも恵まれた。
あのぬいぐるみの話は、あまりにバカバカしいので初凪にも結婚前日一回しか話してなかった。初凪には「そんなわけないでしょ!」と大いに怒られて封印していたのだが、息子が「いえでしてやるー」なんて最近反抗期だから聞かせてやったのだ。
結果は見ての通り。ただ俺が恥ずかしくなっただけだ…
「しかしなんで急に反抗し始めたんだ?前までは良い子だったのに…」
俺がしょんぼりしていると、初凪が耳に顔を近づけてくる。
「…ライバル心かも?」
「ライバル心?なんでだよ」
「赤ちゃんに」
「…!!!」
「病院で確認してきたよ」
フリーズしてると、初凪が「嬉しくない…?」しょぼんとして言ってくる。
俺は慌てて首をバターになるんじゃないかってくらい振った。
「嬉しいに決まってんだろ!そっか…ふたりめ…ふたりめかぁー」
「わあ、デレデレね、だらしない顔」
「おとうさんのバカ」
「ええー」
あのぬいぐるみの日々はなんだったのか分からない。
初凪はあれからもツンツンのまま。
俺が「実は裏でにこにこしてんだろ」とポジティブ思考になれたといえばそうだが、初凪はぬいぐるみを愛でてなんかないと言う。
でも初凪と暮らし始めた時に「絶対に開けないで」と言われた箱。
その大きさがそのものなんだよな…
息子に聞いてみると、「おかあさんたまに三つのぬいぐるみで僕と遊ぶよ」と教えてくれた。
ぬいぐるみの俺も相変わらず愛でられてるらしい。
その内ちゃんと見せてもらいたいな。
こうして、俺は幼馴染美少女と夫婦になりまして。
可愛い嫁と子供に囲まれてます。
どうにかなるんじゃないかってくらい、幸せだ。
end.
幼馴染美少女の愛玩になりまして。 るぅるぅです。 @luuluu
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