第18話 メッセージ
「この間さ、カルバーニが教官室で腕立て伏せ1000回やらされた話聞いた?」
「いいや。カルバーニのやつ一体何やったんだ?」
サッチは食堂でA定食の魚のフライをほおばりながら、思い出し笑いを我慢している様子である。
「なんだ?全然分からないぞ。」
リコは天井を見上げながら首をかしげている。
「もみあげが長いから。でしょ?」
「正解!モモは良く知ってるなぁ。ついさっき本人から聞いたばっかりなのに。」
サッチは感心した表情で言う。
どうですかと言わんばかりの涼しい顔でモモが続ける。
「当り前よ。学生手帳201ページの服装要綱に記載があるわ。男子学生のもみあげは耳たぶを超えて伸ばしてはならないってね。カルバーニはいつも伸ばしているから、いつか指導が入るんじゃないかって思っていたのよ。」
「ページまで覚えているのか・・・。」
リコはまるで何か怖いものを見るかのように隣のモモを見た。
「そういう誰かさんも、もみあげ伸びてきたんじゃない?ロキ教官に言いつけちゃおうかしら。」
「やめろって。」
「リコはロキ教官の担当学生だもんね。」
サッチが同情するように言った。
学生達にはそれぞれ担当教官がいて、一人の教官で約15名の学生を担当している。生活面の指導を行ったり、毎日の体調確認や訓練の反省などを記載した日誌の確認や添削などが主な業務で、教官ごとに厳しさが若干異なる。リコは特に厳しいことで有名なロキ教官の担当学生であった。
「そういえばさ、ロキ教官最近日誌の添削が少しおかしいんだよな。」
思い出したようにリコが言う。
「忙しいからじゃない?この間の試験の結果をまとめたりさ。僕の担当教官なんかだいたいいつも判子だけだよ。」
訓練日誌の添削は、教官ごとに個性が出るところであり、原則判子だけでも良いのだが、書き方のアドバイスや、日々のメッセージを書く教官も多い。
「どんな風に変なの?」
「ロキ教官は、いつも何かメッセージを書いてくれるんだけど、いつもと言い方が違うというか、語尾がおかしいというか。うーん、うまく説明できないな。」
「ちょっと見せてよ。リコの部屋に行きましょ。」
「そうだね。じゃあ早く食べちゃおう。」
三人は残りの食事を手早く済ませ、リコの部屋へ向かった。
「で、どんな風におかしいの?」
モモはまるで自分の部屋かのようにリコの部屋のベッドにどっかりと腰を下ろして言った。
「まあ落ち着けって。最近続けてなんだよな。例えばこれだよ。」
リコは日誌のページをめくり、二人に見せた。
「僕には普通に見えるけどな。文章もおかしくはないし。ちょっと考えすぎじゃない?」
サッチは冷静な顔で言った。
「文章におかしいところはないわね。いたって普通。でも、何かロキ教官の言い方じゃない気がするの。」
「なんとなくオレもさ、それが言いたかったんだ。」
リコはモモの話にうなずきながら言った。
「ちょっと前の日誌も見ていい?それにしても汚い字ね。小学生じゃないんだから、もう少し綺麗に書けないの?」
「うるさいなぁ。母さんみたいなこと言うなよ。」
「二人とも、ケンカはやめてさ、一緒に考えよう。ね。」
サッチはまるでボクシングの審判のように、二人の間に割って入った。
モモはページをめくっていく。
「?」
「どうしたモモ?」
「・・・。ねえリコ、メモ用紙と紙ある?」
「よしきた、これ使ってくれ。」
リコは慌てて机の中からノートの切れ端とペンを出してモモに手渡した。
「分かったのか?!」
「ちょっと静かにして。集中してるから。」
モモは真剣な表情でページをめくりながら、ノートの切れ端に何かを書き記していった。
「これは、、、たぶんケルトの古い暗号よ。おばあちゃんから聞いたことがあるの。すべての文字を一度数字に変えて、一文字にする暗号。昔戦争の時、おばあちゃんがおじいちゃんに暗号で手紙を書いたそうなの。・・・たぶん、できたわ。」
「ジ・ラ・ル・ディ・ニ・キ・ヲ・ツ・ケ・ロ」
「ジラルディーに気を付けろ。じゃないかしら。」
三人は顔を見合わせた。
リコの栄光 紫蘇ジュースの達人 @ryogon
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