017 神様

『どこでも祭壇キット』という概念を聞いたことがある。かつてとあるサイトで公開されていたものの、現在では見れなくなっているらしい。なんでも、祭壇の作り方と贄の捧げ方が説明されていて、果てはご神体の用意方法まで記載されているらしかった。

つい先日、これを使った少年の話を小耳にはさんだので紹介する。

彼は両親と一緒に来たキャンプで、自由研究の一環として、この『どこでも祭壇キット』を使ったのだという。こうして祭壇を築き、ご神体として流木を拾い、その日釣った魚のうちの一匹を祭壇の上で手順通りに焼いたのだそうだ。

その夜、祭壇について記録した彼は早々にテントで眠ってしまった。今回持ってきたテントは狭く、両親とは別のテントで弟と一緒に寝ることになったらしい。

こうして眠っていた彼だが、夜中に足音を聞いて目覚めてしまった。両親がまだ外にいるのかと思い、再び寝ようとしたのだが、「おい」という声──両親のどちらの声でもない──によって眠気が吹き飛んでしまった。

「聞いているだろ」と声は続ける。「直にここは増水して沈む。今すぐに荷物をまとめて出ていけ」と言ったらしい。しかし少年は、夜中に、知らない男がテントの外にいることに恐怖を覚え、外に出られないでいたのだという。

どんどん大きくなる声におびえて動けないでいると、大きな音とともにテントに衝撃が加わり、彼はテントごと流されてしまうこととなった。

後日、捜索隊が流木につかまって浮いている彼を発見し、救出した。彼の両親と弟はついぞ発見されなかった。

あの声はきっと神様で、指示に従っていれば両親も弟も死ななかったのではないか──彼は今でも悔やんでいるという。

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百物語(青行燈遅刻中) ふたつかみふみ @squartatrice

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