016 感情

最近親と電話していて怖く思えることがある。

大体月に一度のペースで会話するのだが、一方的に近況を聞いていることが多い。その月にあった面白かったこと、イラっとしたことなどを報告してくれる。こういった会話はもしかしたら普通のことなのかもしれない。でも、私にとっては少し怖く思える時がある。

それは、面白かったことを話し終えた後、イラっとしたことへ話が急に変わることがある。それまで笑って話していたのに、急に怒気を帯びることがあり、電話越しではあるが、その豹変ぶりが怖い。雑談といえばそれまでだろうし、私が意識していないだけで、雑談とはそういうものなのかもしれない。しかし、どうしてそんなに、そんなことにイラっとできたり怒ったりできるのか、私は理解に苦しむこともある。

雑談なので、具体的な内容は電話が切れるとすぐに忘れてしまう。忘れてしまうのだが、何となく母にとっていい話だったのか悪い話だったのかということはぼんやりと覚えていて、どんなふうに聞いていたかも何となく覚えている。

しかし、いったい何に怒っていて、何が地雷なのかが怖い。何を考えているかがわからない。


実家に帰ると、母に「感情移入できるようになった?」と聞かれることがごくまれにある。私は、幼いころから物語の登場人物に感情移入することが苦手だ。それは私も自覚しているところではあり、自分の致命的な欠点であることも理解している。それゆえに、「自分がしてほしくないことをしない」「自分がしてほしいことを他人にする」という法則が自分には直接適用できないこともよくわかっている。

その訓練も兼ねて、いろんな小説を読み漁ったことがあったが、少しずれてしまう。見当違いな回答をしてしまうことがある。そのうち、そういうものかと飲み込んで理解を後回しにしてしまうようになった。そう考えると、どれも新鮮で面白い感情だった。

今日もまた、いらいらしながら主人公一同がひどい目にあう喜劇を妄想している自分を見て、笑っている。

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