第104話 “災害”の名を冠する中層の番人

 「「竜ー!?」」


 おれが口にしたその中層のボスに、華歩かほ夢里ゆりが同時に驚く。


 まあ、無理もないだろう。

 今までの魔物から考えても、一番ファンタジー感があって一番強そうだ。


「そうだ。かけるの言う通り、第20~第30層を指す“中層”、その最奥には竜が待っている」

「【ディザストロドラゴン】ね」


 れいさんと妖花あやかさんが付け足すように話してくれる。


 【ディザストロドラゴン】、“災害”の名を冠した大きな竜の魔物。

 異世界では、おれたち勇者カケルパーティーが初めて撤退を考えたボス魔物で、かなり苦戦したのを思い出すな。


 そうして最後は、の覚醒で見事撃破した。

 幸い、その彼女は話せる所にいる。

 後で話をしておくか。


 異世界から現代こちらに来る時に、何故か難易度が上がっているダンジョン。

 その中の【ディザストロドラゴン】か……あまり想像したくはないな。

 見た目はすごくかっこいいけど。


「それは……」

「またすごい魔物ですね」


 その情報に、一年生女子の二人も少し戸惑っているよう。

 

「私達も対抗戦が終わったら本攻略するつもりでいた。もし翔たちが来てくれるというのなら大変助かる」

「そうよね、色々パーティー構成も考えたいもの」


 麗さんをはじめとする三年生の学園トップ集団。

 おれをはじめとする学園の新進気鋭集団。


 それが合わされば、麗さん達ですら攻略を躊躇ちゅうちょしていた【ディザストロドラゴン】の攻略も、糸口が見える。


「そうですね。では、第30層ボス【ディザストロドラゴン】攻略を目標として、それぞれ準備する期間に入りましょう。おれ達も、とりあえずは第29層まで進めないといけないので」


「そうだな」

「それがいいわ」


 麗さんと妖花さん、


「了解だよ、かーくん」

「賛成!」


 華歩と夢里も同意を示してくれる。


「お前も知恵を貸してくれよ、フィ」

「高くつくわよ」

「なんで急に金取るんだよ!」


 そんなこんながあり、おれ達は第25層を突破してこの日は帰還する。

 ならば、あの人にも声を掛けておきたい。







 ダンジョンから帰還し、ハーレムパーティーを惜しくも解散した後。

 おれは再び学校に戻っていた。


 彼女に会うためだ。


七色ななしきさん」


「天野くん」


 七色さん……シンファに用があって訪ねていた。

 彼女は凪風なぎかぜ豪月ごうつきと同じ国探の寮生で、コンタクトも取りやすい。


 おれは七色さんを通して、彼女の中にいるシンファに、第30層攻略に向けて動くむねを話す。 


「そういうことなら……」


「!?」


 すると突然、七色さんがうっとりとした顔で俺の腕にそっと触れてくる。

 なんだ、このいやらしいボディタッチは……!

 って。


だまされるか。お前シンファだろ」


「いやんっ」


 いつの間にか入れ替わっていたらしい七色さんとシンファ。

 だけどおれは、それを確信して手をひっぺがす。


「だから七色さんの体で変なことするなって、散々言ったよな?」

 

「もう、にしかしないわよ」


「七色さんはおれにもしないんだよ」


 とまあ、いつものやり取りは置いといて。

 そんな空気を読んだのか、シンファも真剣な目に戻す。


「で、来てくれるか?」


「あの時は私の覚醒で撃破したから?」


「それは……そうだけどさ」


 ふふーん、というドヤ顔をこれでもかと見せてくるシンファ。

 ああそうだよ、あの時は、シンファが覚醒したから突破出来たんだ。


「正直、対【ディザストロドラゴン】には支援系が必須だ。とても生身だけじゃ、あの強力な攻撃の数々は受けきれない」


「そうよねえ。私の力が欲しいわよねえ」


「うぐっ……そうだよ」


 なんて素直じゃないんだろう。

 その上、見た目はあの落ち着いた七色さんだから、こっちは混乱してしょうがない。


「でも、そういうことならに聞くのね」


「あ、おい」


「……すみません。お騒がせしました」 


「七色さん」


 相変わらず見た目に変化はないけど、なんとなく分かった。

 あの胸を大胆に張るような、自信たっぷりの姿勢から普通の姿勢に戻ったからだ。

 今思えば、七色さんの胸も中々の……。


「天野くん」


「はっ、はい!」


「今の話なんだけど」


 あぶねえ、シンファあいつのせいで七色さんを見る目が変わってしまうところだった。

 シンファ、頼むから自重してくれ……。


「私にもぜひ協力させて」


「! いいの?」


「はい。力になれるなら、私もなりたいので」


「七色さん。ありがとう!」

 

 シンファとの話でもあった通り、対【ディザストロドラゴン】には支援が必須。

 おれの周りには頼もしい人がたくさんいるけど、みんな攻撃だったり殲滅せんめつに特化したような役職だ。


 剣、拳、『魔法』……。

 今までは攻撃でゴリ押ししてきたけど、この先はそうもいかない。


 元から支援系の召喚を使える七色さん、どれほど本来の力を使えるか分からないが内在するシンファもいれば、一安心は出来る。


 快く了承もしてくれたし、相談してみて正解だったな。

 そういえば、凪風と豪月の奴は、結局大空そらさんと探索に行ったのかな。







<三人称視点>


 時は少しさかのぼり、翔たちが第25層以降を進めていた時。 

 豪月・凪風・大空は三人での探索の為、少し難易度を落として探索をしていた。


「そうそう! そんな感じ!」


「大空さん……僕も子どもじゃないないんだから」


 今回は探索メインではなく、鍛えることが目的のようだ。

 大空が凪風に<スキル>を教える中、動きが良くなってくると大空は大げさに拍手で褒める。


「はっはっは! つばさも甘やかされているな」


「うるせえなあ」


 そんな微笑ほほえましい光景には、あの豪月もちゃかすようだ。


「ていうかお前のほうこそ出来たのかよ」


「はっはっは、そんなに見たいなら見ていろ」


 ただ大空も豪月を放っていたわけではなく、しっかりと<スキル>を教えていた。


「これが、新たな<スキル>だ!!」


 ドゴオォォ!

 豪月の<スキル>が発動。


 その攻撃でダンジョンの壁が破壊され、二人が固まる。

 まさか壁が破壊されるとは思っていなかったのだろう。


 だが、それ以上の発見があったよう。


「お、おい、豪月……」

「それ……」


 凪風と大空、二人が指した先には、


「ん?」


 どこかへ続きそうな通路があった。

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羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~ むらくも航 @gekiotiwking

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