第103話 誰もが羨むハーレムパーティー

 本日も学校を終えて放課後。

 れいさんが教室に訪ねて来ると言っていたので、廊下で待っていたんだけど……


「きゃー!」

「オーラやばすぎ!」

「眼福だわ~!」


 廊下にはかなりの人だかり。

 それもそのはず、


「“三傑”の三人で来るとは聞いてないですよ……」


「別に良いではないか」


 麗さん、妖花あやかさん、大空そらさん、この学園で最も人気のある三人、三傑がこぞって現れたのだ。


「翔くん、元気してる~?」


「ええ、まあ……」


 そして相変わらずギャルノリの彩花さん。

 戦っていない時の彼女は、パーマをかけた金混じりの茶髪を振りまいて、ただのギャルにしか見えない。


「それで、今日は私と探索に行ってくれるのだろう?」


「はい、そういう約束でしたが……」


 麗さんとは約束したのだがパーティーの人数制限はどうしたものか。

 その中で、大空さんが手を横に振る。


「あ、私はつばさと行くからいいわよ」


「はぁ!? 聞いてないぞ姉さん!」


「だって今言ったんだもん」


「本当に毎度、毎度……!」


 と、凪風なぎかぜもまんざらでもなさそうにしているので、あちらは任せておこう。

 豪月ごうつきもおそらくあちらへ入るだろう。


「じゃあ私とかける、そこに妖花を入れて──」


「わたしも行きます!」

「私も!」


 麗さんに続いて立候補してきたのは華歩かほ夢里ゆり


「よし、決まりだな」


「え、ちょっと……」


 そうして、とんとん拍子で決まってしまった今日のパーティー。

 となるとメンバーはおれ、麗さん、妖花さん、華歩、夢里。


 おいおいそれって……ガチでハーレムパーティーじゃないか!


「あの野郎」 

「天野……」

「翔……」


「ひぃっ!?」


 悪寒おかんを感じて周りをきょろきょろする。

 この会話を聞いていたであろう周りの人だかりから、おれに嫉妬しっとする声が聞こえてくる。


 こ、これはまずい!


「じゃあ早速行きましょう!」


「? 何をそんなに急いで──」


「おれの命が持ちません!」


 言わずもがな大人気の麗さん・妖花さん、人気急上昇中の華歩と夢里。

 その四人とパーティーを組んだ男となれば、命がいくつあっても足りない!


 なんとかその場を脱出したが、これは後日、しっかりと学校中の噂になってしまうのであった。







 東京ダンジョン第25層。

 なんとか命を危機は脱して、いよいよハーレムパーティーで潜る。


 ハーレムパーティーとは言っても、力はもちろん学園内でも最強クラス。

 豪月と凪風がいる時は立ち回りが違ってくるが、広範囲の殲滅せんめつりょくならこちらの方が上かもしれない。


 昨日開通した第24層は楽々突破し、第25層の最奥に位置する中ボス部屋にまでやってきた。


「各自、対策は頭に入れたな?」

「アタシの言う事を聞いていれば間違いないんだから!」


 すでにここを攻略しているらしい麗さんと、フィの知識。

 初めてとはいえ、心配はしていない。


「行きましょう」


 俺と麗さんがぐっと扉を押して開いていく。


 視界に広がるのはただの暗闇。

 そこに、ここまで来た道のりの明かりがかすかに入り込んで、少し中の様子がうかがえる。


 その中で、


──キシャアアァァ!


 カッと金色の両眼が光ったかと思えば、ボスが咆哮ほうこうを上げた。

 準じて、中ボス部屋内に明かりが灯っていく。


「あいつが……」

「第25層中ボス【バッドノイズ】ね」


 大きな黒い翼を広げ、おれ達をにらむように金色の眼光を向ける魔物。

 超音波を操って探索者の苦しめるコウモリの魔物【バッドノイズ】だ。


 そして、


──シャアァァァ!


 その周りには取り巻きの【バッドノイズ】の大群が飛び交う。

 一匹一匹が高い能力を持つ上に群れる習性を持ち、通常ならかなりの難易度を誇ると言われている。


 だが、


「『中級魔法 雷陣』」

「『上級魔法 聖者せいじゃの光』」


──ギャヤヤヤァ!?


 妖花さんの得意とする『雷魔法』、華歩の『浄化魔法』で、周りの取り巻きは一瞬にしてその数を大きく減らす。

 さすが、国探の美少女『魔法』コンビの名は伊達じゃない。


「任せて!」

 

 そこにすかさず狙いを定めるのは夢里。


<拡散弾><精密射撃><ヘッドショット>


──ジャアアァァ!


 中衛に出た位置から、大規模『魔法』をくぐり抜けてきた取り巻きを、全て正確に射抜く。

 

 撃つ弾を拡散させる<拡散弾>は特性上、狙いが定まらずに精密さが落ちてしまうが、それを夢里は<スキル>で上書きして全弾命中させる。

 

 おれに積極的に<スキル>を聞いて、誰よりも練習する夢里。

 習得した数で言えば、今ではおれの次に多く持つだろう。


「んじゃま、カッコよく決めちゃってよ。お二人さん」


 妖花さんのゆるーい言葉で、おれと麗さんが前に出る。

 

「はいっ!」

「うむ!」


 残る標的は一匹、本命の中ボス個体だ。

 おれに先導して、麗さんが<スキル>を放つ。


「はあああっ!」


五角細突剣ペンタゴン・レイピア


──ギィヤァァァ! 


「!」


 麗さんは<スキル>補正の乗った、突き差すような五連撃を見せる。

 ついに五連撃<スキル>を……!

 今までは<四点斬撃クリスタル・アーツ>の四が最高連撃だったはず。


「翔、お前も見せてくれるのだろう?」


「どこまでお見通しなんですか!」


 麗さんの言葉にふと笑った顔で返答する。

 そう、今のおれの<ステータス>と【ミリアド】の性能をかんがみて、おれもやろうとしていたのだ。


「──うおおっ!」


煌星・剣舞ステラ・フォーンラム


──ギャヤアァァァ!


 大きな星形を描く五連撃。

 麗さんによってすでにダメージを負っていた中ボスは何も出来ずに散った。


「やったね!」

「ナイス翔!」


 華歩と夢里、続いて麗さんと妖花さんも歓喜の顔で寄ってくる。


「麗も翔くんも、まさか五連撃とはね~。これは恐れ入った」


「ぶっつけ本番だったのだがな」


「え、麗さんもぶっつけ本番で?」


 おれの五連撃は、今ここで初めて使ってみた。

 麗さんに感化されて限界だった四連撃を突破したのだが、麗さんもだったのか。


「なんとなく、翔がやろうとしているのが分かってな」


「それだけで限界突破されたら敵わないですよ……」


 本当に、周りには驚かされてばかりだ。


 おれが勇者時代に使っていた最高連撃は七。

 北斗七星をモチーフにした<七星光剣グラン・シャリオ>だ。


 <スキル>においてもあの頃に近づきつつある。

 中ボス苦戦することはなかったが、おれを含め、みんなとしても第25層は大きな収穫となった。





 その後、第26層の転移装置ポータルを解放して、時間も時間なので今日はここまでということになった。

 第26層の安全エリアで、休憩も兼ねて雑談をする。


「そういえば麗さん達って、どこまで探索進んでいるんですか?」


「私と妖花、あと大空も第29層まで進んでいる」


 第29層……第20~30層を指す“中層”制覇まであと一歩ってところか。

 おそらく、ボス部屋がある第30層を前にして止めているのだろう。


「やはり第30層のボス部屋は強力なんでしょうか」


「いや、一度として行ったことはないよ」

「あそこはねえ……」


「?」


 麗さんと妖花さんがあまり良い顔をしない。

 第30層ボス、どんなやつだったけなあ……。


「もう相変わらず記憶力がないわね、カケル」

 

「お前がありすぎるんだよ」


 会話にその辺をふよふよ浮いているフィが入ってくる。


「まあ、麗たちの気持ちもわかるけどね」


「どういう意味だ?」


「アタシたちも苦労したじゃない。ほらあの、めっちゃかっこいいやつ」


「……あ。ああ!」


 フィが体をくねらせてなんとか伝えようとしてくる。

 意外にもそれが分かりやすくておれはようやく思いだす。


「麗さん達でも躊躇ちゅうちょするわけですね」


「ああ。対抗戦などもあったし、無理をするのは良くないと思ってな」


 うん、それならば納得。

 まさに“中層”最後の魔物としてはふさわしいな。


「かーくん?」

「なになに? なにが待ってるって言うの?」


「大きくて、くねらせた長い体を持った……竜だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る