第102話 それぞれの決意

 「『魔法』の宝庫……!」


 その事実に、一番に反応するのは華歩かほ

 なんたって、うちのパーティーの一番の『魔法』使いだからな。


「ダンジョンにはそれぞれ特色がある。おれが【ミリアド】の素材を採りに大阪ダンジョンへ行くよう言われたのも、鉱石系の物が多く採れるからだ」


「じゃあ、東京ダンジョンの特色って」


「そう。本当は『魔法』の書が多く獲得できるダンジョンなんだ」


「そうだったんだ……」


 おれと話す凪風なぎかぜと同じように、みんなも驚きの顔だ。

 そりゃそうだ、何しろこれは第40層以降の話。


 そこまでは至って普通、悪く言えば平凡のダンジョン。

 それゆえ、最もオーソドックスなんて言われるのだろう。


「でも、かーくんは『魔法』もいっぱい持ってるでしょ?」


「いや、東京ダンジョン深層にあるのはその程度のものじゃない。『上級魔法』はもちろん、『最上級魔法』だってある。おれはその辺、軒並みシンファに譲ったから持ってないんだ」


「なるほど、シンファさんに……」


 だからこそおれも、東京ダンジョンには一人でも行く価値があると踏んでいた。


「「「……」」」


 そこまで聞いて、みんなは何かを考えるように黙りこくる。

 各自、自問自答しているのだと思う。


 探索者であるからには上を目指す、当たり前の事だけど、それが最深部となっては話が別なんだ。


 そんな中、最初に口を開いたのは


「オレは付いて行くぞ、天野あまの


豪月ごうつき!」


 腕を組んだ偉そうな大男。


「はっはっは、オレには『魔法』はいらん。だが、探索者とはひたすら上を目指すもの、違うか?」


「そりゃそうだけど……」


「それとも、オレがいては足手まといだとでも?」


「それはないよ!」


「ならば連れて行ってくれ。お前の目指す、第50層とやらまで」


「豪月……」


 凛々りりしい顔は、とても冗談を言っている顔には見えない。


 こいつは、バカのようで頭は良い。

 しっかりと己の事を考えた上で、無謀かもしれない事について来ようと言うんだ。


 ならば、


「ああ、行こう。豪月!」


「ふっ、それでこそだ。兄弟」


 謎の関係、兄弟とは最後まで一緒に行こうじゃないか。


 そして、


「わたしも。……、!」

「私も。……、!」


 女の子二人も。


「ふふっ。ハモッたね、夢里ゆりちゃん」

「華歩もそう言うと思った」


 相変わらず可愛い二人だけど、覚悟は本物のようだ。


「僕も連れて行って、天野君」


「凪風!」


「なんだい? その意外って顔は」


「……いいや」


 こいつはクールなようで、実は誰よりも熱い男だ。

 付いて来てくれると思った。


「みんなの覚悟が聞けて嬉しい。これからは、おれも勇者の時のものを出し惜しみなく全て伝えたい。最終第50層まで、付いて来てくれ!」


「うんっ!」

「うん!」

「おうよ」

「了解!」


 ここに、一年A組、次なる勇者パーティーの決意は固まった。







 東京ダンジョン第21層。

 ここからは“中層”と呼ばれる領域となる。


 久しぶりに踏み入れたこの地は、びっくりするほどに相手にならなかった。


 目の前には複数体の【ダークスケルトン】。

 盾による堅いガードの上、驚異の再生力を誇る黒色の骨の魔物だ。


「凪風くん! 合わせて!」

「了解!」


<精密射撃><ヘッドショット><五点バースト>

風三剣刃フォン・トゥリア・ラミナ


──ギャヤァァ!?


 夢里が手足・頭の正確な五点を撃ち抜くことで、腕が上がらない状態に。

 合わせた凪風が速すぎる太刀で切り裂く。


 あまり見た事ないコンビでこの仕上がり。

 みんな、思った以上に……!


 と思えば、同時に逆サイド。


「豪月くん!」

「任せろぉ!」


『上級魔法 豪火炎』

<憤怒の拳>


 華歩の杖からは特大の火球。 

 それを豪月は、熱さも感じさせない渾身の拳で、火球の勢いを何倍にもして前方に放つ。


──ギィヤアァァァ!


 二人の合わせ技にも【ダークスケルトン】は成すすべ無し。

 華歩と豪月、この二人もあまり見なかったコンビの印象だけど、いつの間に。

 ていうか、豪月も何気に新<スキル>じゃねえかよ。


「みんな、すごいな」


「翔だけじゃないんだから!」

「かーくんが大阪に行ってる時も、東西対抗戦の前にも、チーム練習はたくさんしたからねっ!」


 そうか、これが東西対抗戦の成果なのか。


 対人戦でレベルは上がらない。

 けど、ダンジョンで最も必要な“連携”というものを、お互いに学べる場が対人戦なのか。


 これは正直言って、頼もしい。


「行くぞ、天野」

「この辺はザコだよね」


「ああ……!」


 おれたちはこの日、何事もなく進み続ける。

 フィのダンジョン内情報もしっかりと使い、第24層まで来たところで探索を終えたのだった。







 その日の夜。

 自宅の寝室にて。


 おれは、通話を繋ぐ。

 相手はれいさんだ。


「もしもし」


かける、どうだった?」


「みんな、おれと一緒に第50層を目指すそうです」


「ふっ、だろうな」


 おれは事前に、いつメンに今回の事を話すべきかどうか相談していたのだ。


 なんとなく、受けとめてくれると思って、麗さんには全てを話していた。

 華歩や夢里、彼女達よりは幾分か大人な麗さんは、こういう時に相談するとすごく頼りになる。


 あとは、本当におれたちが現代を救うとなった時、間違いなく麗さんの地からも必要になる。

 だから、先に話しておきたかった。


「私も、父に話したよ」


「! それで、なんと……」


 麗さんの実家、“清流せいりゅう家”と言えばダンジョンで有名な実家だ。

 麗さん自身はもちろん、清流家の信頼があったからこそ、おれたちは秘密裏に侵入がバレた時の行動を免除されたのだ。


「父も動くそうだ」


「それでは……!」


「翔は安心して、みんなとしっかりと自己研鑽に励むんだ。いずれ来るかもしれない、厄災の時の為に」


「はい!」


 少し汚い話だが、麗さんを頼ったのはこういう面もある。

 だが世界の危機なんだ、そんなことは言ってられない。


「それでなんだが……翔」


「は、はい」


 なんだ、急に女の子というか、甘めの声になったぞ?


「私とはいつダンジョンに行ってくれるんだ?」


「あ、えっとー、いつでも大丈夫なのですが」


「そういうことを言ってるんじゃない!」


「え、えぇ?」


 なんだ、一体どういう事だ?


「いつ、翔から私を誘ってくれるんだ、と言っているんだ」


「あー……」


 そういうことですか。

 そうえいば、いつも一緒に潜る時は麗さんから誘ってもらってたし、あんまりおれから誘った事ってないかも。


 ダンジョンじゃないけど、「模擬戦をしてください」って言ったぐらいか?


「じゃあ明日、行きますか?」


「良いのか!」


「はい、まあ」


 いずれ第50層まで登るとは言ったが、それは全てを捨ててまでではない。

 決意はしたが、普通の高校生しても良いじゃないか。


「では、明日だな。放課後に教室へ寄るからな。おやすみ」


「おやすみなさい」


 なんだか嬉しそうだったなー、麗さん。


 だが、この時のおれは知らなかった、これが国探でさらに噂になる、とんでもないパーティーを招くという事を。

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