第4章 制覇編

第101話 東京ダンジョン制覇を目指す

 “東京ダンジョン”、異世界名は“アウレリアダンジョン”。

 おれ達国探生をはじめ、関東圏の多くの探索者が主とするダンジョンだ。


 おれ達の最高到達階は第21層。

 到達と言っても、麗さんを呪いから救い、一対一で戦った直後に少し潜っただけ。


 その後には、華歩かほの『魔法』を探しに行ったり、すぐに東西対抗戦がきたりして、ほとんど探索は出来ていない。

 

 第3層~第20層を表層、第20~第30層を中層と言うように、第21層からは難易度が段違いの為、断念していた場所だった。


「ふぅ……」


 そして、今の最高到達階は第38層だという。


 東京ダンジョンが誕生してからは、約十年。

 それでも、今の探索はようやく第38層。


 思ったより……というか、本当に進んでいない。

 なぜなら、このダンジョンは第50層まで存在するのだから。


「……」


 その考えられる主な理由は、おそらく二つ。

 

 一つは、単純に難易度が高いこと。

 第31層以上は、中層のさらなる次の段階、いよいよ“深層”となる。


 そこは、一言で言えば未知の世界。

 何が起きるか分からず、今までの常識がまるで通用しない。


 さらに、現代では異世界と違って情報が全く足りない。

 二十年前からダンジョンが誕生したとは言え、千年・二千年ダンジョンのある世界で暮らす異世界とは、まるで難易度が違うのだ。

 

 そしてもう一つ。

 それは多分、それが人間のさがだから。


 というのも、今の深層の報酬をほんのたまに持ち帰るだけで、現代では大富豪も大富豪だ。


 ただでさえ、情報という一番頼りになるものがない中、今の生活が一瞬でなくなるリスクを負ってまで、さらに深くを目指す者が少ないのだと思う。


 最深部を攻略するときの死亡率なんて、30%を超えるという話だしな。

 おれのように使命を持ったり、期間付きのデスゲームのようなものでもなければ、わざわざそんなリスクは負わない。


 おれはその先にすごい物がある、さらにはフィという優秀な情報屋、おれの異世界の知識があるから進もうと思っている。

 だが、今の生活に満足するトップ探索者はその限りではない。


 ダンジョンの発掘物はすごい。

 だからこそ、これ以上の物が想像つかなくて、先へは進もうとしないのだろう。

 

「なに、難しい顔してるの? かーくん」


「──! 華歩」


 と考えを巡らせていたところで、華歩が後ろからコツンとしてくる。


 場所はいつものダンジョン街、いつものカフェ。

 おれたちはつい先日、あの東西対抗戦を終えたばかり。


 それでもモチベーションの高いみんなは、またこうして東京ダンジョン街に集まっていた。


「ちょっと考え事をね」


「それ、私たちにも関係ある話ー?」


 続いて、夢里ゆりも入ってくる。

 その後ろには、凪風なぎかぜ豪月ごうつきも見える。


 ま、一年A組のいつメンだな。


「天野君はいつもとんでもない事を考えるからね」


「オレは天野のそういうところは好きだがな」


「お前ら……」


 みんながこの先、おれに付いて来てくれるとしてもそうでなくても、おれは自分の行動指針を話そうと思う。

 みんなの協力があって、ここでも成長できたわけだしな。


「みんな」


 四人とも席に着いて個室の扉を閉めたところで、改めてみんなの顔を確認した。

 しっかり聞いてくれる目だ。


「おれは東京ダンジョンを制覇することを目指そうと思う」


「「!」」


「わお」

「ほう」


 女子二人は目を見開いて、凪風と豪月はそれぞれ、ぽい反応をした。


「かーくん、どうして急に?」


「どうしてって、また上を目指す分には当然だろ?」


「そうだけど……」


 とは言いつつも、華歩の聞きたい事は分かる。


 けど、今回の話は少々重い。

 シンファから聞いた、この世界の真実についてはまだ話すべきか悩んでいる。


 だが、


「まーたそんな顔して。翔はいつまで一人で背負いこむの?」


「なっ」


「バレバレだっての。何か理由あるんでしょ?」


「そ、それは……」


 夢里にはお見通しだったらしい。


「おれ、そんなに分かりやすいかな?」


「いやいや、私じゃなくても」

「わたしも気づいてるよっ!」


 華歩もぷくっと頬を膨らませた。

 どころか、


「呆れたね。ここに来てまだ隠し事かい?」

「はっはっは! このオレでも分かったぞ!」


 凪風と豪月にもかよ。


「ははっ、まじかあ」


 頼もしいのやら、悔しいのやら。

 まあ良い意味で、仲間だからと思うことにしておくか。


「実はな──」





 おれは、迷っていた全てを話した。

 七色さんの事も含め、この世界の真実までも、もう何も包み隠さず。


「ダンジョンが……そうなんだ」

「うーん、自分から聞いておいてだけど……」

「思ったより厄介らしいね」

「そうか」


 ここまでの内容とは思っていなかったのか、四人は素直に明るくとはいかない。


 おれにとっては、異世界で勇者としてやり残した事が原因かもしれない。

 けれど、彼らは言ってしまえばただの高校生だ。


 軽く受け止められるものじゃない。


「それでも、かーくんは制覇を目指すんだよね?」


「うん、おれは行く。もちろんレベル上げはおこたらないし、次の階層へは安全を考慮して進む。それでも、最終第50層までは止まらない」


 これは、今ではほとんどいない、最深部攻略者になるという意思だ。


「天野君、一ついいかな」


「なんだ? 凪風」


「天野君は異世界の知識もあるから、他の人より有利に進められる。それは分かるんだけど、どうしてそこまで東京ダンジョンにこだわるんだい?」


 あ、そうだった。

 肝心な事を言ってなかったか。


「東京ダンジョン以外で、もっとレベル上げに良い場所はないの?」


「そうだな……まずは、この世界に来ているダンジョンは全部、難易度は高くない」


「えっ」


「けどそれは異世界での話。明らかに異世界の時より魔物は強くなっているんだ」


「じゃあとりあえず、レベル上げでそこまで差がつくようなダンジョンは存在しないと」


「そういうことだ」


 凪風の奴、相変わらず要領が良くて助かるな。


「その上で、どうしておれが東京ダンジョンに拘るのか。それは……」


 これこそが、その最大の理由。


「東京ダンジョン、第40層以降は『魔法』の宝庫だ」

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