第100話 この世界の真実。最終目標と次に目指すもの

 勇者カケルパーティー。

 異世界では、おれが“カケル・アマノ”と名乗っていたことからそう呼ばれるパーティーだ。


 勇者カケルパーティーは、おれが異世界転移をした後、四年の時を経て魔王を討伐した最強のパーティー。


 そのメンバーは、誰をとってもみな英雄と呼ばれていた。


 最前衛で鉄壁を作り、盾でぶん殴って反撃するという脳筋なスタイル。

 パーティーの精神的支柱であった頼れる兄貴面、オルディン。


 俺に次ぐ火力役アタッカーで、速さで言えばおれよりも上。

 異世界でも随一の疾風と呼ばれ、異世界で初めて出来た親友のソシリス。


 中衛で全員の攻撃を援護しつつ、支援役サポーターを一人で守り続ける仕事人。

 一番年下のくせに一番偉そうな可愛い妹役、サティア。


 そして、支援系の『魔法』を唱えさせると右に出る者はおらず、幾千の『魔法』を操ると言われた歴戦の魔女。

 おれの目の前で七色さんの姿をして話す年上のお姉さん、シンファ。


 ここに勇者という使命を授かったおれが加わることで、おれたちは言わずと知れた異世界最強の英雄たちだった。

 自分で言うのは少々照れるが、魔王を討伐して平和をもたらしたのは事実だ。


 そんな勇者カケルパーティーが、


「残っているのが……おれとシンファだけ?」


「ええ、そうよ。死んだわけではないのだけど、それに近いと言っていいわ」


 突然そう言われても、とてもすぐに信じられるものではない。


 だが、シンファは少しうつむき、おれと目を合わせずに話す。

 冗談を言っているようには見えない。


 それでもやはり、信じ切ることが出来ない。

 おれ一人抜けたからと言って、簡単にやられる奴らでないことは、おれが一番分かっているからだ。


「すうー、ふうー」


「カケル?」


 深呼吸をして、心の準備を整える。


「……教えてくれ。おれが戻ってから、みんなに一体何があったのか」


「わかったわ」

 

 シンファの話は、勇者カケルパーティーに限った話だけではなかった。

 それどころか、この世界、このダンジョンによって回る世界を揺るがしかねない話だった。





「なっ……」 


「信じられないかもしれないけど、全て事実よ」


 現代で、二十年前より勃興し始めたダンジョン。


 結論、ダンジョンは異世界からきたものだった。

 それは言わば、異世界から片道切符で来た船のようなもの。


 おれが異世界から受け継いだ<スキル>や『魔法』。

 見た事のあるダンジョンや、その他の資源。


 色々と微妙に違う点はあるものの、あまりにも酷似している。


 考えたことがないわけではない。

 それでも、実証できるものがなくて、目を逸らしていた。


 そもそも、ダンジョンが異世界からのものだったなんて。


「そして私たちは、その違いによってやられたの」


「どういうことだ?」


「こちらの世界には、<ステータス>ってあるでしょう」


「あ、ああ……」


 <ステータス>は、この世界特有のもの。

 異世界には存在しなかったものだ。


 おれは<スキル>と『魔法』を受け継いでいたから、帰還後に成り上がれた。


 だが、そもそも<ステータス>の概念があったから、元々は無職業ノージョブという絶望も味わったんだ。


「私達はあるダンジョンに潜っていた。けどその時に、ちょうどダンジョンがこちらの世界へ転移されてしまったの。そして、<ステータス>が付与された。けど、その時点では」


「レベルは1だった……?」


「そう。<スキル>や『魔法』はたしかに確認できた。それでも、パラメータというものに惑わされ、私達は本領を発揮できなかった」


 おれが帰還して、はじめてダンジョンに潜った時と同じだ。


 おれも、初めて潜った時は低ステータスに惑わされ、せっかく知っている<スキル>や『魔法』を、しっかり扱うことが出来なかった。


「そうね。さらにはそれが最高難度ダンジョンだったこともあって、私達はあっけなく散った」


「そんな……」


「けど、さっきも言ったように死んではいない」


「!」


「ピンチになった私達は、全員のその時点の魔力を結集して私に託した。そうして私は発動させたの」


 シンファの目が一層強くなる。


「『時空跳躍魔法』をね」


「それは……!」


 『時空跳躍魔法』。

 異世界でもシンファにしか使えない神話級の『魔法』で、異なるダンジョン間を跳躍する『魔法』。


「けれど、やはりそれを発動するには魔力が足りなかった。その欠乏が原因となって、私は記憶と体が分離した」


「それで、どこかへ跳んだ体の部分を、たまたま俺たちが見つけたってことか……」


「そうね」


 そんなことが裏で起こっていたのか。


「でも死んでいないというのは?」


「私達は視覚にも捉えられない安全地帯を作って、魔力を私に集めた。だから今も、あのダンジョンで眠っているはずよ」


「どのダンジョンだ?」


「分からないわ。私達も見たことのないダンジョンだった。この世界で探しても出てこなかったわ」


 未知のダンジョンか。

 たしかに、この世界でも見つかっているダンジョンは約半分と言われているしな。


 何より、彼らは一応死んではいない。

 少しほっとしたような感じはある。


「ええ、だから一安心よ」


 そんな言葉を口にするも、まだ暗い顔のシンファ。


「まだ何か……あるのか?」


「……そうね。どちらかと言えば、こっちの方が本題かもしれない」


「俺は大丈夫だ。全て話してほしい」


「信頼するわ。一言で言えば──」


 この世界に、“魔素”が漏れ出している。

 シンファの話は、またも俺を驚かせた。


 魔物を生み出し、おれたちの身体能力を向上させる魔素。

 それが漏れ出ているとなると、地上に魔物が出現する可能性がある。


 そしてそれこそが、異世界からこの世界にダンジョンを転移させる本題だったのだ。


「何者かは分からない。けれど、異世界のがこの世界を侵食しようとしているの」


「まじ、かよ……」


「随分遠回りしてしまったわ。だから私が本当に伝えかったこと。それは……」


 今までで一番真剣なシンファの目を前に、ごくりと唾を飲む。


「カケル・アマノじゃない。天野あまのかける、ひいてはその仲間達が、この世界を救う勇者パーティーとならなければならない」


「……っ!』


「もちろん私も協力は惜しまない。いつまでも、七色ななしきちゃんの体にいるわけにもいかないしね」


 いきなりの事で、正面からは受け止められない。


 この世界に危機が迫っている。

 それを防ぐためにはおれが……。


 プロ探索者に相談……出来るのか?

 こんなデタラメな話。


 おれを信頼してくれる人には話す価値がある。

 だけど、全てを任せる事は出来ない。


 異世界で全てをやり切ったと思っていたおれが、その何者かを見逃してしまっていたなら。

 おれがやらなくて誰がやるんだ。


「この世界に危機が迫るのを知ってるなら、それを止めないわけにはいかないよな」


「カケル……!」


「でも、みんなを巻き込むかは考えさせてほしい。みんなはただの高校生なんだ。最悪の場合は、おれと協力してくれる人でやるしかない」


「それは、そうね……」


 それに、もう一つ致命的な問題がある。

 レベルだ。


 おれはプロなどと比べると、とても最上位レベルとは言えないだろう。


「シンファの予想だと、地上に魔物が出現し始めるまでどれぐらい時間が残ってる?」


「二、三年……いえ、もしかしたらもっと早いかもしれない」


 いつからかは分からないが、二十年も漏れ出ていたなら、もう時間がなくても納得出来るか。


「分かった。最終目標は世界を救う事。でもその為には」


 今すぐに欲しいものは、レベルとさらなる強さ。

 だから俺は、自分に言い聞かせるよう宣言する。


「まずは東京ダンジョンを制覇する」





───────────────────────

~後書き~

これにて、第3章飛躍編は完結となります。

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更新が滞る時期もありましたが、ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございます。お陰様で、こうして第100話まで到達する事が出来ました。


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