第131話 エピローグ
リンゴに乗って飛び込んだ光の先には、手を伸ばす笑顔のアリシアがいた。
「良かった!ちゃんと約束通り、引き戻したぞ」
アリシアは僕を軽く抱きしめ、すぐに離すと、すっと横にズレる。すると、彼女の後ろにいたミーリアが思いっきり飛びついてきた。
「レ~ン、良かった!」
彼女の勢いで後ろに倒れそうになるが、何とか踏みとどまる。脱出ゲート近くで待機していた仲間の連中が、クライドを羽交い絞めにしているのが見える。
抱き着いて来た彼女の背中をポンポンとしてから、そっと離す。どうやら、ゆっくりしている時間がないようだ。
「ありがとう!詳しくは後で教えて。とりあえず、まずは急いでここから逃げよう!」
僕とリンゴが深層世界から戻ると、このダンジョンの崩壊が始まったようだ。僕たちは急いで皆が待つゲートへと走って行った。
◇◇◇
僕たちが最後の間から消えた後、邪神と
ただ、後で聞いた話によると、アランさんが攻撃を始めようとした瞬間、邪神がこちらを向いてニヤリと笑い、一瞬動きを止めたように見えた。それは、明らかに無抵抗な状態のように見えたのだとか。
何気に気味が悪く、アランさんは慌てて攻撃を止めようとしたが、勢いあまって間に合わず。その一撃が何故か会心の一撃となり、それが決定打となって決着がついてしまった。
アランさんは、少し後味が悪く、中途半端で納得いかないと……。
「もっと戦え!コラ!勝手に消えてんじゃねー!!!」」
消えゆく邪神に向かって、散々、駄々をこねるアランさんを止めるのに苦労したのだとか。
そして、消滅した場所には次元の裂け目が出来、その先にこちらに手を伸ばす僕たちの姿が見えたのだとか。それを、皆が必死で引っ張ってくれたらしい。
ダンジョンから出た先は帝都の城の庭で、そこを徘徊していた魔物は、到着していたラティア辺境伯らが率いた帝国軍や冒険者たちによって、すでに一掃されており、僕たちが無事に戻るのを待っていてくれたようだった。
僕たちがダンジョンを脱出し、邪神を倒した事を報告すると、大喝采が沸き起こり、その噂はあっという間に帝都中を駆け巡った。
帝都の状況は酷いもので、その復旧や後始末にはかなりの時間がかかるようだ。が、まずは危機が去った事の祝杯だと、帝都中がお祭り騒ぎとなった。
◇◇◇
モントヴル王国から帰還したルキウス主催の晩餐会がラティア辺境伯の別邸で開かれる事になり、僕たち一行が招待された。帝都を救ってくれた感謝の気持ちを込めてと言うことらしい。
今宵は堅苦しい礼儀を抜きにして、思いっきり楽しんでほしいと言われ、特にオッサンとフランソワさんが中心で多いに飲んで騒いでいた。
お酒が飲めない僕は、夜風にでも当たろうと、盛り上がっている皆を横目に宴会の席をこっそりと抜けて庭へと出た。そして、庭のベンチに座り夜空を見上げる。そこには大きな二つの月と星々が輝いていた。
「綺麗だな……」
満天の星を見つめていると、星が流れ、後を追うように、もう一つの星が流れた。
夜空を眺めながら、あの流れ星が二人の神の姿と被ってしまった。
「ははは、女神様、しっかり追いかけちゃってくださいね。逃がしちゃだめですよ」
きっと今も二人は一緒にいるのだろうか? 男神はなんだかんだと女神に頭が上がらないんだろうなと思いつつ、夜空に向かって呟く。
「女神様頑張って! あいつが暴走しないように、ちゃんと手綱は引いておいてくださいよ」
そう言うと、夜空の星が一瞬点滅した気がして、女神様がギャルピースしてる様に思えて、ついつい笑ってしまった。
「何やら一人で楽しそうだな」
後ろから誰かが声をかけてきたので、慌てて振り向くとそこには月明りに照らされ幻想的とも言える美しさを纏うアリシアの姿があった。アリシアは僕の横にすっと座ると、同じように夜空を見上げた。
「実はな、レン。お前と出会ってそんなに時間は経ってはいないはずなのに、ずっと一緒にいたような気がしているんだよ。なんでだろうな?」
そう思うほど濃密な時間を共にしたのだなと、今はそんな風に思っているのだとアリシアは微笑む。そして、僕の方を向くと……。
「この世界に来てくれてありがとう!お前が居なければこの世界は救えなかった」
そして、満点の星を見上げ……。
「女神様、レンをこの世界に呼んでくださって本当に感謝します!」
アリシアは天に向かって感謝の祈りを捧げると、「初めてレンに会った時の衝撃は今も忘れられん」と言いつつ、僕を横目で見てウィンクをする。
あ、そうだ、最初にアリシアに会った時、恐怖で泣きじゃくった姿を見られた事を思い出して、恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。
「ああ、あの時の事は忘れてください」
「今となっては懐かしい思い出だ。あれ以来、お前には驚かされてばかりだけどな」
僕はもう勘弁して下さいと言う感じで懇願するが、アリシアはそれを聞いてクスクスと笑うだけだった。
それから暫く沈黙の時間が流れた後、不意にアリシアが口を開いた。
「私たちの長い長い
そう言いつつ彼女の顔は厳しいかな前を向き、明日を見つめているようだった。
「そうですね。これからは新しい時代が幕を開けるんですよね」
神たちが望んだ世界。賽は投げられたのだ。
良くも悪くも、これからの、この世界の全ての裁量を任された事に、その大変さをこの世界の住人がどれほど理解しているかは知らないけれど。たぶんきっとアリシアは分かっているのだ。
困難な状況が待ち構えようとも、人々が諦めず前に向かって進む限り、満点の星は輝きを決して失わず、照らし続けるだろう事を知っているのだ。
◇◇◇
お祭り騒ぎが一段落し、この世界でのそれなりの地位を持つ者達を集めた会議が開催された。
そこで女神は男神と共に去った事を伝えた。神たちが去った事で、神の加護はもう受けれない事も伝えたのだ。それを聞いた者達は、最初は絶望で大混乱を起こしたのだが、その内にそれにも当然のように慣れ、今後は自身で生きる道を見つけなければいけない事を享受していくのだろう。
神の加護が無くなったとは言え、王都の『望みのダンジョン』の本来の仕様も分かった事で多くの人々がここを目指し賑わうだろう。それに、転職の神殿は再建される事となり、神獣としてリンゴがその神殿の守り手として、ここに参拝する者たちの力量を図る役目を担う事になる。
この世界、これからは天性に左右されず、努力が報われる世界になると言う事が世間に知れ渡るだろう。
それと、精霊樹の森はエルフたちによって今後も守って行くと言う。長老様には女神からの啓示があったようで、女神の加護は無くなったけれど、精霊樹がこの世界に存在する限り、この世界に生きる人全てを見守り、その恩恵はこれからも続くとの事だった。
帝国はルキウスが皇帝を引き継ぎ、ハウザーと二人で国を立て直す事になった。周辺国とも和解し、これからは覇権は止めて互いに共存共栄での道を見つけるとの事だ。
そして、一段落すればハウザーは写生の旅に出るとのこと。ようやく夢が敵えそうだと爽やかに笑っていた。
そしてここが一段落したら、
◇◇◇
そして、少し時は経過して……。
僕は、ここの世界とダンジョンで繋がっている間は地球と行き来しての生活を続けている。ヴォーバルニャに行った時は転職の神殿にいるリンゴと合流し、世界各地のダンジョン攻略を楽しんでいると言うわけだ。
恋愛? ですか? 今は冒険が楽しくて、なかなか進展しませんが、それはその内にです。男の子ですから、やる時はビシッと決めますから。うん、たぶん……。
そう言えば、例の疫病神である金森ですが、今は大人しくなって、変に絡んではきません。と言うのも、彼の父親が表向き依願退職と言う形で省を追われた事で、JDSAでの影響力を完全に排除された模様。どうも、特捜が動いているようで、今後どうなるかは分からないと、神田さんがほくそ笑んでました。何気に怖いです。
最初は色々嫌な事もあったけど、今はとても充実した人生。そして、これからも波乱万丈なのでしょうね。
ダンジョンシーカーに栄光あれ!
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ようやく完結しました。長い間お付き合いくださりありがとうございました。
今後は、新作「アキトが見る景色-空の彼方に続く世界-」を書いていきます。章毎での読み切りですので、書きあがった段階で一話づつアップ予定です。
今後ともよろしくお願いします。
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執筆の励みにもなりますので、どうかよろしくお願いします。
異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。 辛島 @karashi_p
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