1981年殺人事件

鷹山トシキ

第1話 夏

 1981年7月16日深夜、N県赤座町のドライブインからパワースタッフ経営者、赤座一郎の娘、海子(当時6歳)が姿を消した。赤座署が自宅を調べたところ、女児が寝ていた寝室の窓が動かされた形跡があり、庭には足跡があった。翌日から近隣住民たちによって行われた捜索の結果、ドライブイン裏手の山中の林から女児の遺体が発見された。遺体は処女膜が損傷していたが、体内から精液は発見されなかった。さらに遺体には溺水の跡があったが、司法解剖の結果によると死因は頸部を紐状のもので絞められたことだった。


 赤座署刑事課の海老原治警部は、取調室で赤座一郎に聞き取りをした。

「何か恨まれるようなことはしていませんか?」

「心当たりならない」


 同年8月7日

 赤座町に住む、夜遊び好きな女子高生、風原皇子が帰宅すると、両親が交通事故で死亡したと知らされる。 身寄りがなくなった皇子とその弟だが、倹約家であった両親の遺産で将来の心配なく暮らしていける事を顧問弁護士から知らされる。弁護士は、両親の遺言として、養父母となる赤座夫妻を紹介する。海岸沿いに建つプール付きの豪邸、ガレージに並ぶ高級車など、2人は裕福な生活をしていた。

 しかし、やがて皇子は夫妻に不審を抱く。


 赤座町在住の久井計くいけいは、通信傍受の権威で、自らのプライバシーの保持に異常に気を使っているがために、孤独な私生活を送っており、彼とより親密な交際を求める恋人とも別れる羽目になってしまう。そんな彼にとって唯一の心の支えは、厳重に外部から隔離された自室で、ピアノを演奏することだった。


 久井はある日、『アガレス商社』の取締役からの依頼を受けて、雑踏にまみれた赤座駅西口のラブボで密会する若い男女二人組の会話を盗聴する。一見すると他愛の無い世間話に見えた二人の会話だが、そこに不審なものを感じた久井は依頼人の補佐役に対し、録音したテープの受け渡しを拒否する。依頼人のオフィスからの帰り道に久井は、公園で盗聴したカップルに遭遇する。例の二人組は、実はその会社に勤めていた社員であり、女の方は依頼人の妻だったのだ。


 8月22日 - 台湾で遠東航空103便墜落事故発生、作家の向田邦子ら日本人18人を含む乗員乗客110名全員死亡。

 久井はサイレンサーを持ってアガレス取締役、小宮山三郎の地下室を訪れるが、久井はサイレンサーを落としてしまい、逆に小宮山に殺されそうになる。なんとか地下室を脱出する久井であったが、地下室を出たところでついに小宮山に追いつかれ、灰皿で頭を殴られて意識を失う。


 8月26日

 阪神の江本孟紀投手が「ベンチがアホ」発言。

宇野ヘディング事件。 (同試合で中日の富田勝が全12球団からの本塁打を記録している)

 

 霧深い赤座町に、ある鹿野夫婦が暮らしている。夫の杉蔵に「物忘れや盗癖が目立つ」と指摘された妻、節子は自分がおかしくなったのだと思い込み、不安に苛まれるようになる。しかし、それは杉蔵がそう言い聞かせることで節子を精神的に追い込んでいたからだった。そこにはかつて園子という裕福な女性が殺害され、宝石が盗まれた事件が関係しており、その犯人はまだ捕まっていなかったという事実があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

1981年殺人事件 鷹山トシキ @1982

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る