ep.3 一歩前進!

前世の記憶を取り戻して早半年。



まずこの国のことを猛勉強した。



政治や貴族階級の繋がり、市制のことなど、将来侯爵家を追い出されたとしても自分で生きていけるように、抑えられるところは抑えたい。




記憶があるとは言え、この乙女ゲームは結局プレイしなかったし、日本とここじゃ何もかもが違う。


不思議と前世の私の名前や自分に関することは忘れているけど、身の回りのことや親友のこと。腹違いの妹や継母のことはハッキリと覚えていた。



これも私がルヴィとして生きていく為に、過去の自分に今の私が上書きされている証拠なのだろうか?





そんなことをブツブツ呟きながら書斎で本を読み漁っていると、、



トントンッ


「お嬢様、失礼致します。そろそろ休憩なさってはいかがでしょうか?」



と、ずっと書斎にこもりきりの私を見兼ねてナナがお茶を持って来てくれた。





記憶を取り戻す前の私は、穴があったら入りたい…と思う程ワガママ放題だった。





このドレスは着たくないと選び直させて最初のドレスを着たり。

紅茶が温いと入れ直させたのに一口も飲まず。

野菜は食べたくない、不味い、と何度も料理を作り直させた挙句気分じゃ無くなったからもう要らないと…エトセトラ…




本当に5歳?!って疑いたくなる程、ワガママレパートリーに富んでいた。


逆にこうも悪口やワガママに頭が回るなんて、この体、やっぱりスペック自体凄いんじゃないか…




なんて感心したくなるけど、散々ワガママを言っていた私が急にしおらしくなったことに使用人たちは驚いて、頭を打ったんじゃないかと医者を呼んだり、呪いをかけられたんじゃないかと解呪師を呼ばれたんだっけ。



結局何も無かったので、母を失って心を痛めた私が当たり散らかしていただけで、元はとても優しく、自分の立場をちゃんと理解し勉学に励まれる聡明なお嬢様が本来の姿だ。


などと、私ががいると知らずナナたちが話しているのを聞いてしまった。


感動して泣いている者もいたし、過大評価と罪悪感で居た堪れなくなった。








「お嬢様、今は何をお勉強中なのですか?私で良ければ少しは知識があるので聞いて下さいね!」



傷心から立ち直り、心を入れ替えて頑張っていると思い込んでいるナナが、張り切ってこちらを見つめた。





確かにナナは男爵令嬢で、学園にも行っていたしお茶会や夜会にも参加していて、ある程度の知識はあるはずだ。








ふと、前世の親友の話しを思い出す。




『エドワード王子の制服姿が萌え過ぎでさー。悪役令嬢さえストーカー並に現れなきゃもっと沢山笑顔スチル頂けたのにさー!!』





制服…


ということは、王子やシエル、私や他の悪役令嬢は学園に通っていたということになる。






「ナナ、学園とはいつから通うのかしら?」



早速質問をした私に、ナナが待ってましたと言わんばかりの笑顔で丁寧に説明してくれた。




「私たちが暮らしているこのリズモンド帝国は、12歳まで家庭教師や独学で勉強をして、13歳から16歳までは、才や財があるものは学園に通うことが決まりになっております。主に貴族が通うのですが、中には魔法や学力に秀でた平民も国からの支援で通うこともあるそうですわ。」





ということは、12歳以降に断罪されるということ。



よくある乙女ゲームの設定だと、卒業パーティーで、主人公を虐めた悪役令嬢が、婚約者の王子に断罪される…っていうのが主流だし、となると断罪は16歳…11年後?




いや、でもまず私は跡継ぎとして婿をとることになっているはず。


だとしたら王子の婚約者にはならないはずだし…






「私って、いつ頃婚約者を宛てがわれるのかしら…?」




「ルヴィローズお嬢様のご婚約についてはまだ何もお伺いしておりませんが、シエルローズ様とエドワード第二王子の婚約を漕ぎ着けた…と旦那様が仰っていたのを、本邸の使用人が耳にしまして。」




え、シエルがエドワード王子が婚約者候補?


ってことは、元々ゲームでも虐める必要ないし、断罪ポイント何処?


婚約者のシエルを私が虐めてるのが許せない、とかそれだけのシナリオ?



「それは正式な発表はまだですの?」



「ええ、もし正式に決まりましたら、お披露目パーティーもあるでしょうし、ルヴィローズお嬢様にもお呼び出しがかかるかと。」



「そう…」



「あ、でも!お嬢様にもきっと素敵な婚約者様を選んで頂けるに決まっていますわ!こんなに可愛らしくありますもの!!」




どうやら、お父様に大切にされていないと落ち込んでいるように捉えられてしまったらしく、ナナが励ますように私の手を握りしめた。





きっと記憶を取り戻す前の私だったら、落ち込んでいただろう。



でも今は前世の記憶も相まって、婚約者やお父様なんてものは死ぬ程どうでも良く感じていた。




今一番大切なのは、この世界が現実で、ここで生きていて、死ぬのももちろんこの世界で…



断罪されるかは分からないけど、とにかく幸せに暮らしたい。



前世では幸せを感じられなかったから、今世では五月蝿い継母や妹から離れて静かに平凡で良いから好きな人と暮らしたい。




ただそれだけ。



その為にはやっぱり、勉強あるのみだ。







「ありがとうナナ!私は大丈夫よ。それよりも、魔法についてなんだけど、貴族は魔力持ちばかりなのよね?適正値や、発動の仕方はいつ頃教えて頂けるのかしら?」




「お嬢様はもう魔法の適正能力などご存知なのですね!なんと聡明なのでしょう。。」



ナナは、ほう…っ溜息をつき恍惚した眼差しで私を見た。





あれ?魔法について知っているのはマズかったかな?


使用人の噂話やここ最近読み漁った本で何となくは魔法のしくみを分かったけど、使い方や詠唱ばかりで、発動条件や適正年齢など細かに書かれたものが無かったので、つい聞いてしまった。





「えっと…たまたまフィルが魔法で水やりをしていたのを見たのと、使用人の皆が瞳の色と能力が関係するっていうのを聞いて、気になって調べたの。」




フィルはトワイライト家専属の庭師で、たまに魔法で広大な庭の水やりをしている。



瞳の色の話しも、立ち聞いたのは本当だ。





「そうなのですね!では、僭越ながら私が魔法についても説明させて頂きます。あ、えっと…」



ナナが私の瞳をじっと見て、口元に手を持って来て何やら言いずらそうにしていた。




「あ、もしかして私の瞳の色のこと?私、気にしてないから続けてくださる?」



「は、はい!失礼致しました。お嬢様ももうご存知とは思いますが、私達貴族には魔力持ちが多いです。かつてエルフや獣人など、魔力を持つ生き物は他にもおりました。人間が魔力持ちになったのも、そのような亜人族と交わったものがおり、そこから魔力を持つ人間族が増えていったと伝わっております。」




エルフ…!!!!!!


かつて、ということはエルフも絶滅してしまったんだ…





「200年前の厄災で人間以外の種族は滅んでしまいましたが、私たちの血にもそのような血が流れているというおぞましいことには今後触れないように致しますので、どうか怖がらないでくださいね?」




いや、私の中にももしかしたら獣人様の血が流れてるかも…って思ったら、ご飯10杯はイケます!!!!!





「それで、お嬢様の瞳は赤色ですので、炎の魔力持ちになります。母君のアイリーン様の故郷は炎使いの方が多かったですので、その力を色濃く引いております。」




「そうなのね!」



私はいかにも初耳!という顔をしてみせた。



実際には、私がまだ言ってることが分からないだろうと、あれこれ使用人が身の回りの人の素性や主に噂話をしてくれたせいで、お母様が亡くなるまで聞かせて貰った話し以上に色んなことを知っていた。






「シエルはもう水の魔法を使えるのかしら?」





もう、暫くお父様やシエルに会っていない。


メルフィーナ様が遠ざけているのもあるが、お父様はまず私に興味がないので来ないし、シエルと遊ばせてあげようなどとこれっぽっちも思わないのだろう。




最後に会ったのは去年、お母様が亡くなった時なので、もう1年近く前になる。





シエルも5歳。


乙女ゲームの主人公といえば、チート並の魔力持ちで、何をしてもずば抜けた才能の持ち主。と決まっている。








「まだシエル様も魔法を発動されたというお話しは聞きませんね。それに、5歳では魔法は使えません。」



「あら、そうなの?!」



「はい、正確には、魔力があっても5歳で発動させてしまうと、体がついて行かず耐えきれないですし、まず発動するのに必要な知識も足りません。」



「体がついて行かない…?耐えられないとどうなるの?」



「使った瞬間に体が弾け飛びます。」




「ひっ!!!!!」



想像すると余りの衝撃に私は体が仰け反った。





「怖がらせてしまって申し訳ございません。それで、早くから魔法に触れさせないように決まっているんです。徐々に魔法を使う知識を付けて、それと同時に体も成長しますので、使えるようになる頃にはそのようなことにはなりません。」



「そ、そうなのね。ちなみに、何歳頃から使えるの?」




「うーん、人それぞれなので大まかな話しになってしまいますが、大体10歳前後、ということろでしょうか。私は12歳に発動したので、少し遅く、家族から能力の有無をとても心配されていて、発動した時には両親が平民に落とさず済んだ、と安堵しておりました。」



「魔力持ちの平民が貴族に養子になる話しは聞いたあるけど、貴族が平民に落ちることもあるの?」




「まあ!お嬢様はそのようなこともご存知なのですね!流石ですわ!」





あ、しまったまた余計なこと話しちゃったかも…




「実際平民落ちした者は私の周りでも数人おります。魔力が全く無い、ということはあまり無いのですが、使い物にならないレベルだと、家の面汚しだなどと、 言って廃嫡してしまう親族もいるのです。なので、私も両親はそんなことはしませんが、一族でも力のある叔父が父を目の敵にしていたので私が廃嫡される可能性があり、とても心配されていました。」




「ナナも大変だったのね…」



「はい、、でも、今こうして聡明なルヴィローズお嬢様にお仕えさせて頂いておりますし、優しくして頂けて、とても幸せですわ。」






幸せ…



こんな私といることを幸せと言ってくれるなんて…




私が優しくするのは前世の記憶が無かったとはいえ、今まで意地悪をしてしまった罪滅ぼしだし、断罪に繋がるようなことは避けたいと、なるべく人に辛く当たらないように心がけているからなだけであって…



きっとナナの心が綺麗で、とても優しいからそう思えるのだろう。



前世で幸せという気持ちに無縁だった私には、ナナがとても眩しく、羨ましく見えた。







しばらくナナへの質問は続き、気付くと夕食の時間になっていたので、ナナは慌てて仕事へ戻って行った。






ナナのお陰で色々と分かったのと、これからの大凡の目星が付いたので、断罪回避に向けて一歩前進した気持ちになり、私は今まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、気が付くと書斎で本に埋もれ眠ってしまっていた。



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詰んだ悪役令嬢は断罪後、滅ぼされた推し種族にその身を捧げます。 @uzinomiyarelfy

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