ep.2 私の立場と意気込み

「お嬢様!ルヴィローズお嬢様!!」






ハッ!!!





次にハッキリと前世の記憶を思い出した時、私…ルヴィローズは5歳になっていた。




でもルヴィとしての5年間の記憶もしっかりあって、過去の私(名前は思い出せないけど…)の記憶と混ざり、胸の空いた隙間にストンと落ちて私が私になったような気持ちになった。





「お嬢様!!!」



「ナナ!どうしたの?」



使用人のナナが心配そうな顔で私に目線を合わせようと前かがみになりこちらを覗き込んでいる。




「どうしたって、突然お庭でしゃがみこんで話しかけてもお返事して下さらないから…具合が悪いのかと心配になったもので…」





「大丈夫よ!ほら!少し疲れちゃっただけ!」



私は元気そうにスカートを翻(ひるがえ)しクルッと回ってみせた。




それを見てナナもほっとした顔をしてスッと綺麗な姿勢に戻り、私用の日傘を差し直す。



ナナは子爵位を持つれっきとしたお嬢様だけど、私の家、トワイライト侯爵家に侍女として仕えてくれている。


まだ16歳なのに侯爵家長女の侍女の地位にあるのは凄いことだ。

きっと並々ならぬ努力でここまできたのだろう。


今までわがまま放題だった自分を恥じて改めよう…。






この世界は中世ヨーロッパに近い設定で、トイレやお風呂などは近代的なのに貴族階級が根強く残る、魔法も使えちゃう流石はゲームの何でもアリな世界観で、やっぱり現実では無いんじゃないか…という思考に駆られる。




いや、でももう5年もルヴィとして生きてるし、前世を思い出したから混乱しているだけだろう。と、自分に言い聞かせナナと庭の散歩を続けた。







庭を覆うように張り巡らされた水路に、清く澄んだ水が流れている。





そう、我がトワイライト侯爵家は水の魔力に長けていて、その力でこの領地を水害や魔物から護っている。




森に囲まれとても気候が良く、近隣は農業も盛んで、殆どの収入は王都や隣国への作物の輸出や伐採された木々で成り立っている為、水の力は無くてはならない物だ。




侯爵家領の本邸は王都に近い所にあるが、私が住んでいる別邸は、少し離れた田舎にある。


前世もド田舎育ちだった私は、改めて新鮮な空気を胸いっぱい吸い込み、何処か懐かしい気持ちになりながら伸びをした。





トワイライト家の庭はとても広く、様々な花が咲き誇っている。



自然の豊かさと恵を知らしめる為に、庭には力を入れていると、庭師たちが話しているのを聞いたことがある。





私はいつもの散歩コースをてくてくとまだ短い足で歩いた。





「ねーナナ、この庭には薔薇が沢山咲いてるのね?」




「ええ、お嬢様方のお名前ですので。」







そう。



私が生まれた1ヶ月後。


ゲームの通り腹違いの妹が生まれた。




名前はシエルローズ。


青色の薔薇…



水の魔力に長けている者が、お父様の深い海のような綺麗な瞳の色をしている。


この世界では瞳の色で使える魔力の適性が分かる。


魔力持ちの殆どが貴族で、平民はみな等しく茶色の瞳をしている。

ごく稀に平民でも魔力持ちがいるそうだけど…実際には聞いたことがない。




シエルローズの瞳もお父様譲りの澄んだ青色で、水の魔力持ちだ。



髪はお父様に似た少し癖のあるふんわりとしたブロンド。


正しくあの乙女ゲームの主人公の容姿で、特徴はお父様なものの、メルフィーナ様の可憐さを受け継いた、誰もが認める絶世の美少女だ。



それに比べ私は、お父様の金髪は受け継いだものの少しくすんでいるしストレートヘア。


瞳はお母様譲りの赤。しかもお母様にもお父様にも似ていないキツく鋭い目。




そしてお察しの通り、私は水の魔力が使えない。


でも、炎を操る魔法には飛び抜けた才があると自負している。




それも当然だ。

お母様は火の魔力を糧としている近隣国の4番目の王女だった。



しかし多くの土地が砂漠で出来ており、資源には恵まれていても作物や水は心許ないものであった為、砂漠の国の王(私のお爺様に値する人ね!)と、この国の王との間でお互いの利益関係の為だけに半ば強引にお母様たちの婚姻関係が結ばれたらしい。



そりゃまあお父様も愛のない結婚を無理にさせられて、しかも、お母様はお父様よりも3つ年上だし、王家同士の重圧で立場も無かったわよね…。




そこに現れたのが、舞踏会で出会ったメルフィーナ様。


お父様より5つ年下で、爵位は男爵位と位は低いものの、今にも折れそうな護ってあげたくなる可愛らしい見た目が、多くの男性から注目を浴びていたそう。



無理にあてがわれた姉さん女房より、守りたくなる可憐なドールを選んだ訳ね。



とまあ話しはそれだけど…




お父様の寵愛をウケるメルフィーナ様とシエルローズは本邸で暮らしていて、シエルローズを爵位の高い男性に嫁がせる為常に花嫁修業をさせているみたいで…





私はと言うと…


この別邸で使用人と暮らしている。



お母様は去年流行病で亡くなってしまった。




こちらの世界でもお母様を失うなんて…


記憶が戻ったことにより、悲しみが込み上げたがルヴィの性格が悪役令嬢だからなのか、あまり塞ぎ込むことはなかった。




どうやらお父様は一応は私を当主にしようとしているみたいだけど…


まあどうせお父様が選んだ男性と結婚させられて、見掛け倒しの当主になるのが関の山ね。






そんなの、真っ平御免だわ!




この5年、まだ記憶を取り戻していなくて愛情不足でメイドや執事に当たり散らかしていたけど…



このまま悪役令嬢に成り下がって断罪なんて真っ平御免よ!!!




私は自由になって旅に出て、居るかもしれない獣人族を探しに行く!!!






「ねえ、ナナ。獣人族っているのかしら?」



「…っ!お嬢様!いつそのようなおぞましい種族の名を…!!あんなもの、いてもらっては困ります!!200年以上前に人族を大量虐殺した挙句龍と手を組み、この辺一体を一面焼け野原にしたとか…。奴らを対峙すべく集まったのが当時の魔力持ちの方たちで、見事龍や獣人族たちを殲滅!!そこから魔力の種類に分かれて貴族派閥が出来た、と聞き伝わっておりますわ。」




「殲滅?!絶滅しているってこと?!」



「え、ええ。そうなりますわね!当然の報いを受けたまでです!なので、安心してくださいませ!あんな野蛮な生き物はもうこの世にはおりませんので…っ!!」




ナナは私が余りにも落胆した顔をしているので、恐怖に怯えていると捉えたのか、励ますように私の手を握った。






全滅…



信じられない。





そりゃ親友がプレイした時にも出てこない訳だし、私が説明書読んだ時だって何も書いてない訳よ…。



親友がストーリーに少し出てきたって言っていたのもどうせ、歴史上の何かの話しに過ぎないだろう…。






私が更に絶望した顔をしたので、ナナが慌てて私を屋敷へ連れ帰った。










しばらく自室で落ち込んでいたけれど、こうしている間にもゲームは進んでいくし、プレイもしてない私はこれから起こることにの予知や予防が出来ない。




こんな事ならちゃんとプレイしておくんだった…!!!!







とりあえず、誰のことも虐めたり冷たく当たらない!


優しく穏やかな令嬢を演じる!


断罪されるのはなるべく避けて、もし断罪されてもされなくても、1人で生きていけるように生活能力と知識は身につけ、財源確保にも務める…っと!





私は一通りやることを誰にも分からないように日本語で書き綴った。






この世界の言葉は話せるけど、文字は全く違うのでそちらは今勉強中なのだ。





さてと!こうしてはいられない!!




まずは図書館で筆記と、この国のことを勉強ね!!!






元々頭は悪くない方だったのと、獣人族が滅ぼされているという事実を忘れる為のように私は何かに取り憑かれたかのように勉強に没頭した。




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