詰んだ悪役令嬢は断罪後、滅ぼされた推し種族にその身を捧げます。
@uzinomiyarelfy
ep.1 待って、また詰んでない?
「はー。」
「どうしたの?ため息なんかついて。」
心配そうに私の顔を覗き込んできた親友。
「いやー、なーんか満たされないな~と思ってさ。」
「何それ~!彼氏までいるくせに贅沢な奴~!!!」
そう、私は家族、心許せる親友。学校で人気者な彼氏がいる、十分に幸せなリア充JKだ。
なのに、毎日満たされない。。。
自分でも贅沢を言っているのは分かっている。
でも、自分自身の心がそう言っているのだから仕方ない。
「ねーねーっこの前貸したゲームやってくれた?」
眉間にシワを寄せている私を見兼ねてか、親友が最近ハマっている乙女ゲームの話を振ってきた。
「あー、ごめんやってない。」
「なんでー?!!」
「だって、どうせまた金髪碧眼の王子様がヒーローでしょ?」
「もちろん!!!出たばっかりなのにもう人気トップ10入りしてるし、悪役令嬢の断罪もスカッとして、本当に面白いんだから!絶対やるべきだよ!」
「いやー、私には人間はちょっと…。」
「また獣耳属性じゃないと萌えない!とかどうせ言うんでしょ?」
…よくご存知で。
そう、私は獣人族。正確には人間の見た目に獣耳としっぽがついている獣耳っ子にしか萌えないケモラーなのだ!!!
いくら王子様が金髪碧眼であろうが、宝石のような瞳の公爵様がいようが、氷のように綺麗な騎士様がいようが、まっっったくそそられない。
私が毎日満たされないのはこの性癖…に近い萌え要素が日常には無いからかもしれない。
もちろん、獣人族が出てくるラノベや漫画や同人誌は読み漁ったし、ゲームもやった。
でも…どれも獣人族は脇役ばかりで、攻略対象では無かったり、ほとんど獣の姿で登場されたり…
はたまた人外だからと迫害されたり奴隷にされていたり…
やーーーっと見つけた獣人族との恋愛小説は、全然恋愛に発展しなくてモヤモヤするわ、獣姿で抱いてくるわで、もう全っっっ然萌えない!!!!
現実世界で獣耳に触れ合えない分2次元くらいは私の心を満たして欲しいものだ。
「ちょっと?聞いてる?!」
「っ!あっごめん全然聞いてなかった。」
「もう!すぐ自分の世界入るんだから。」
「ところで彼氏にはその性癖は打ち明けたの?」
「えっ打ち明ける訳ないじゃん!気持ち悪がられて終わるよ。クラスメイトにも言うつもりないし!あーあっ高校も同じだったら良かったのに!」
私のこの性癖を知ってるのは中学からのこの親友しかいない。…あと家族も気付いてるけど。
彼氏にはもちろん、親友以外誰にも打ち明けるつもりはない。
彼氏はバスケ部のキャプテンで、みんなからちやほやされているし、私の友達も派手な子が多い。
私は隠れオタクとして、リア充の中に紛れ込んでいる状態だ。
「福祉課そっちには無かったんだもん!仕方ないよー!家は近所だしさ!こうしてたまに一緒に帰れるんだから文句言わない!」
「はーい。」
不貞腐れた私を見て親友はクスッと笑うと、すぐ真顔に戻った。
「でもさ、真面目な話し…好きなことを隠して付き合っていくって、息が詰まらない?」
…正直、息が詰まる。
好きなものは好きと言いたいし、何なら彼氏にケモ耳付けてもらって…おっと、また妄想が始まるところだった。
でも、好きなものが好きなものだけに、今の自分の地位とか考えると言いずらい。いや、絶対バレたくない。
「心配してくれてるのは有難いんだけど、言うつもりはないかなー。隠し通して今の生活してたらさ、いつか充実してるー!!って感じるかもしれないじゃん?」
「…そう?まあ自分で納得してるならいいけど…」
と、親友は少し複雑そうな顔で笑った。
「んー、まあ、何だ!とりあえずそのゲームやってみて!隠しキャラいるっぽいし!私は推しのエドワード王子しか興味なくて全クリしてないけど、獣人族の話しはチラッと出てたし、もしかしたら獣耳王子出てくるかもよ?」
「だといいけどー!前もそう言ってクリアしても獣耳どころか犬1匹すら出てこなかったじゃん!」
「ごめんごめんっアハハ~!」
いつも通りの他愛のないやりとりをし、親友と別れ、私は帰路に着いた。
帰宅し、言われたゲームをやろうと画面を付けた。
画面にOP映像が流れる…
~ロマンスガーデンで貴女に送る1輪の花~
「何だこのだっっさいタイトル。」
タイトルで既に萎えてしまったけど、親友のゴリ押しを思い出し、電源ボタンに向けた指を引っ込めた。
んー、、やっぱりキャラクターは金髪碧眼とか短髪ムキムキ騎士とか在り来りなキャラ設定ばっかりだ。
でも異世界ファンタジーっぽいし、獣耳の可能性にかけてみるしかないかな…
何何?
主人公は…シエルローズ・フォン・トワイライト…ん?名前変えれないんだ!
恋敵…あー、悪役令嬢ね。
は、ルヴィローズ・フォン・トワイライトか…
ん?ここ姉妹?え、でもプロフィールの生年月日1ヶ月しか違わないし…
何かすんごい既視感なんだけど。
他の悪役令嬢は…リコリス、リリィ、マーガレット…
ふーん、、花の名前がメイン所な訳ね!
だからタイトルがガーデンなのかな?
男の名前は…まあいいや覚えなくて。どうせ獣耳じゃないし。
あーこのいけ好かない金髪碧眼が親友の言ってたエドワードだっけ?在り来りな、いかにもイケメンですこと。
なんてことをブツブツ呟いていると…
コンコンッ
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はーい。」
キィッ
ゆっくり扉が開いた。
「あら、またゲーム?」
呆れ顔の母が部屋には入らずドアの隙間からこちらを覗いた。
いや、正確には継母だけど。
本当の母は私が10歳の時に病気で亡くなった。
中学までは父子家庭でお父さんと仲良くやっていたのに、高校に入ってから急に父が再婚。
しかも、再婚早々お父さんは転勤で単身赴任になるし、再婚相手の継母は自分の連れ子の娘しか可愛がらない。
その娘も私と同じ歳で、私みたいに隠れオタクでも無い完全なる陽キャ。
ゲーム漬けの私を親子揃って心底気持ち悪がっている。
まあ、高校卒業したらこんな家出て行くし、嫌われようがどうでもいいけど。
「はあ…そんなゲームやってること絶対にバラさないで頂戴ね。娘の進学にも響きますから。」
娘…。一応私も娘なんだけど?
「分かりました…」
はあっ!と強めのため息をつき継母は扉を閉めた。
その数分後…
バタバタッ
バン!!!!!
「ちょっと!あんた青木くんと付き合ってんの?!」
今度は妹(私のが1ヶ月早く生まれたからそう言うことにしてる)が、ノックもせずドアを蹴破る勢いで開けた。
「そうだけど?」
「はあ?!マジで有り得ない!!青木くんとかうちらの学校でもカッコイイって写真回ってくるレベルなんだけど!」
「え、そうなの?」
正直、イケメン…という部類に入るのは分かっていたけど、3次元の男にさほど興味もなくて、とりあえず青木はクラスでも目立つから、告られて断りずらくて何となく付き合ったんだっけ…
そんな噂になるほどだとは知らなかった…面倒…
「そうなの?って…白々しい。回ってきた写真見たらあんたが写ってたから!青木くん、高校も近くで最寄り駅も同じだしたまに駅で見かけて良いな~って思ってたのに!!!」
「それ私に言ってどうなるの?」
「はあ?!喧嘩うってんの?!なんであんたみたいなオタクが青木くんと付き合ってる訳?!!」
「そんなの、青木に直接聞いてよ!どいてくれる?私下行ってお風呂入るし。」
私の頭は既に切り替わっていて、早くお風呂入りたい~だとか、さっき見たゲームの姉妹もどうせうちらみたいに仲悪いんじゃないの?なんて、呑気なことを考えていた。
「マジでクソムカつくお前!!早く出てけよ!!!」
ドンッッ
「え…?」
「あっ!!!」
妹が私を突き飛ばし、私は階段の1番上から一気に転げ落ちた。
「キャー!!!」
妹も流石にここまでするつもりは無かったらしく、青ざめた顔で狼狽えている。
「何なの?!わっっ!!!」
声に驚いた継母がリビングから走ってきた。
シワだらけの顔が恐怖で更にシワクチャになっている。
………
視界がボヤけて意識が遠くなってきた。。
ふふふ…
最後に見るのがこの2人の慌てふためく顔だなんて…
いい気味。いいもん見た。ふふ。
あれ?
最後なのに意外と冷静なもんだな…
あ…でも…親友にだけはお別れ言い…た…かっ…た…………
「…く…さま…」
「はあ……はあ…」
「…ご…ざい…す…」
「はあ…はあはあっっ」
「奥様…おめでとうございます!元気な女の子ですよ!!」
ん?!あれ?!
目の前にはシワクチャの継母…
ではなく、、透き通ったツヤツヤの肌に栗色のサラサラの長い髪、しかも深く綺麗な深紅の瞳のとんでもない美人が、息を切らしてこちらを愛おしそうに見つめていた。
その女性の燃えるルビーのような赤い瞳をじっと見つめると、そこには小さな小さなフランス人形のような愛らしい赤ちゃんが映っていた。
目をぱちくりすると、瞳に映る赤ちゃんも大きな目をぱちくりする。
試しに手を動かすと、自分の動かした方に小さくておもちゃみたいな手が現れた。
えっこれって…
流行りの異世界転生?!ファンタジー?!
「オギャーーーーーッッッ」
「ふふっ可愛い私の赤ちゃん。」
奥様、旦那様がお見えです。
ガチャッ
「アイリーン。」
「リーヴェルト様…」
どうやらこの2人が私の親らしい。
後ろにはメイドがズラっと控え、広すぎる部屋もかなりの装飾品で埋め尽くされているし、恐らく貴族の家だろう。
「はあ…女か。」
「え、ええ。でも黄金の髪は貴方譲りで…」
「女に興味は無い。」
「そ、そんな…」
「メルフィオナも来月出産だ。そちらが男なら後を継がせるのは…言わなくてもこの意味が分かるな?」
「は、はい…申し訳ごさいません。」
フンッとすまして父らしい男は出て行った。
「妾のメルフィオナ様のお子が男の子だったら本妻のアイリーン様は…」「シッ聞こえるわよ。ただでさえ旦那様はメルフィオナ様の方がご寵愛してるんですもの。…ねぇ。。」
メイドたちの隠しきれないヒソヒソ話しがこちらにまで聞こえた。
「うぅっごめんなさい…ごめんなさい…」
母らしき美女は泣きながら、私を優しく抱きしめた。
「ルヴィローズ…貴女の名よ…私は貴女を愛しているわ…」
ルヴィローズ…
私の名前…
あれ?私って前世何て名前だったっけ…?
って、ちょっと待って!!!
ルヴィローズって、、あのルヴィローズ?!!
説明書チラッとしか読んでないけど、、あのゲームの悪役令嬢の!!!!
私は自分の名前は思い出せなくなっているのに、ゲームのことだけはハッキリと覚えていた。
…それにしても神様……
せっかく転生したのに!!!!
何これ?!
私OPと説明書見ただけだし!!!
全然内容知らないし!!!
獣耳出てこないかもしれないし!!!
しかもまた1ヶ月違いの妹ができる訳?!!
じゃあ私、いつか断罪されてざまぁされちゃうの?!!!!
何て思いながら、私は自分の物とは思えない程の大きな目を閉じ、眠りについた。
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