『天ノ川連邦見聞録』余話
苫澤正樹
『天ノ川連邦見聞録』余話
◎どの作品について話しましょうか。
表題にもあります通り『天ノ川連邦見聞録』です。
(https://kakuyomu.jp/works/16816927861839936457)
全二十八話の長篇、ジャンルは「SF」で異世界転移もの。
当初のジャンルは「異世界ファンタジー」でしたが、余りにもSF要素が強いために途中でふさわしくないと考えたこと、そもそも異世界転移ものでSF要素ありという作品がほぼ「SF」に入っていることから変更しました。
◎どんな人に見てもらいたい作品?
取り立てて想定していないんですが、あえて言うならば転移転生ものを知っている方ですかね。好きでも嫌いでもどちらでも構わないです。
「このジャンルにここまで盛大に枠からはみ出した作品があるのか」とまずは思っていただき、その上で読んで感じてもらえるところあれば幸いだと考えております。
あとそれだけでなくもう一つ感じ取っていただきたいことがあるのですが、これは裏の主題として仕込んだ隠し要素となっていますので明言はしません。
もっともちょくちょく地の文でほのめかされる上、第十五話でヒロイン・
◎思いついたきっかけや経緯とかある?
寝る前などに暇潰しで妄想をするという遊びをすることがあるんですが、それで考えた物語から発生しました。この物語を令和二年九月に非公開で書き起こしてみたのが発端です。
これが思いのほかきちんとした物語となったため、同年十一月に公開作品に切り替え設定を整えて書き直すこととなりました。
翌三年五月に脱稿。以降全文四回、細かい修正を含めれば十九回の補訂を経て公開に至っております。
◎ズバリ、この作品の見所は?!
一つは作中で起こる大事件と陰謀をいかに解明し、黒幕の牙城を崩して行くかというミステリー要素です。
元々事件そのものが複雑である上、終盤では証言や証拠資料に関する問題の発生や法律との兼ね合いなどでなかなか黒幕の逮捕状が取れない状況が続きます。さらに黒幕側の捜査攪乱からまた事件が発生するなど、とにかく一筋縄では行きません。
一方でちょくちょく黒幕がしかけて来るのを返り討ちにしたり、こちらから撃破したりする話もあります。
異世界転移の被害者である主人公・
二つ目は「等身大の人」として異世界転移の被害者をとらえ、その苦しみや悩みや努力を書いたところです。
異世界転移は言うなれば絶対に抗えない力による拉致事件、もしくは異郷への強制移住です。その被害者となった上、戻れず末は異域の鬼となるしかないとなれば、人はどうなってしまうのか。
この世界は異世界転移の被害者が各世界から長年何人もやって来ているという設定なのですが、帰れないことに烈しい衝撃を受け、何とか生きて行こうと苦悶し懊悩する人ばかり。思いつめて自殺に至った例もあり、実際に登場人物の中にも自殺未遂を図った過去を持つ被害者がいます。
啓一もまた苦しみ悩みもがき、不安に震え愚痴を言い自嘲しと迷いながら自分の生き方を探ることになります。その「等身大の人」としての姿をご覧ください。
見ていて反感を覚えたりすることもあるでしょうが、絶対自分がこうならないという自信があると確実に言い切れる方は誰もいないのではないでしょうか?
なお勘違いされると困るのでここで言っておきますが、本作は異世界転移ものに対するアンチテーゼとして書かれたものでは一切ありません。単に作者が興味からこのような書き方を選んだだけの話です。
◎気に入っているキャラは?
ヒロイン・サツキの幼なじみである
刑事というミステリーに欠かせない役どころということ、また今回探偵役もある程度まで兼ねているということで、レギュラーの枠を超えて事実上の準ヒロインと化しております。
◎どんなところが気に入ってる?
キャラクター性の異様な濃さです。
見た目は、ほんとにゲーム・アニメ・漫画の萌えキャラみたいな格好のかわいらしい中学生程度の少女なんです。それこそ美少女ゲームにいてもおかしくないというくらいの。
ですが実年齢は換算三十歳、職業は天ノ川連邦連邦警察本部の刑事、階級は警視で管理官という課内三番目の地位、取り締まり対象は主に反社会的勢力と闇社会。
捜査は本来指揮する側のはずなのにほぼ単独で足で稼いで行い、場合によっては自分で犯人を屠って逮捕。
運動能力抜群で全速力で走れば百メートル八秒フラットをたたき出し、戦闘能力もすさまじく大人の男相手でも徒手空拳で瞬時に何人もぶちのめすわ、銃弾をはたき落とすわ受け止めるわ、ナイフも刀も通じないわという化け物ぶり。
善悪の二分法をよしとせず、その境目に生じる灰色の部分があることを理解し悪の存在もある程度まで容認するという善悪観の持ち主。度し難い悪にはとてつもなく厳しい一方で、ごく小さな悪や斟酌すべき理由のある相手には非常に優しい。
趣味も能や歌舞伎など伝統芸能好きで好きな演目は『
腹一杯どころか「もうやめてください腹が破裂してしまいます」と作者も言いたくなるぶっ飛びぶり、自分でもよく作ったものだと思います。
でもここまで濃いと逆に楽しいというのも事実。特に中学生のちみっこい女の子が平然と
そんなわけで、すごいキャラと思いつつ何だかんだと気に入っていますね。
◎書きやすいキャラは?
ヒロイン・サツキの先輩である
事件の鍵を握る重要人物という立ち位置ですが、それとは対照的に性格は面倒見がよく優しい普通の女性で、この作品の登場人物の中で一番癖がありません。
悪役含め全員一癖も二癖もある中でこれなので、一番書きやすかったといえば書きやすかったです。ただし余りに癖がないので、会話をしている時に埋もれやすくなったりするうらみがありましたが。
ヒロインのサツキも天才である以外は普通の女性ですが、どうしても主人公と一緒にいていろいろ立ち回ったり考えたりすることが多いこと、そして何より終盤である事件により別行動を強いられ戦いに身を投じることから書きやすいとは行きませんでした。何より幼なじみが濃すぎるにもほどがありますので……。
◎書きにくいキャラは?
黒幕の
この男は「頭のいいふりをした馬鹿」「何でも何があっても責任転嫁する利己的な人物」「歪んだ支配欲の持ち主」「空想と現実の区別をつけようとしないサイコな異常者」という下衆も下衆なのですが、悪役でもこれだけねじ曲がっているとなると単純に獰悪な人物という描写だけでは済みません。
しかも本作ではどういう人物なのかを主人公側に解析させたいと考えたため、本人が直接的に姿を見せしゃべったり行動したりする場面を意図的に少なくしてあります。このためその性格は、一部を除いてこの男が裏から糸を引いて起こしている事象や事件、証言や証拠によって表現するしかないのです。
さらに基本が異常者であるため、その行動や動機をある程度まで矛盾させたり意味不明にさせたりしなくてはなりません。単に滅茶苦茶にしただけでは説得力がないので、ある部分では理屈が通っているがある部分では通っていないというようにバランスを考えながら書く必要があり、極めて難しいものがありました。
◎実際自分が一人会えるなら誰に会いたい?
ヒロイン・真島サツキです。
いきなり啓一を保護して同居という流れから異世界転移もののお約束の性格かと思われてしまうかも知れませんが、彼女は会った途端に異様な好意を示して甘やかすような男にとって都合のいい女性ではありません。
中盤を過ぎるまでは異世界転移によって生じた啓一の様々な懊悩、殊に役に立たないことで他人から冷笑されるのではないかという恐怖への対応に困り果てる場面の方がむしろ多いです。そして悩みに悩んだ結果、第十五話でいつまでも恐怖を引きずる啓一をしっかりと叱りつけて言い聞かせ、その後も第十八話で同様のことを繰り返し励ますという対応に至るのです。
こうなるのは、この世界に「他人への不当な冷笑は人道にもとる」という考え方があるからです。他の現地人もみなそれに従っているのですが、彼女は殊にその傾向が強い女性として設定しました。
我々のいるこの現実世界では、現在ネット社会を中心に「冷笑」が熱病のごとく流行しています。しかもこれが一般人ならまだしも、有名人が率先して実行しているというありさま。これに疲れ果てた人も多いでしょうし、作者もその一人です。
このようなこともあり、会えたとしたらまず彼女しかあるまいと思いました。こちらの世界に対する意見を聞きたいものです。
もっとも、狐娘に会いたいという趣味的な部分も多分にあるのですが。
◎お気に入りのシーンは?(ネタバレ具合はお任せします)
これと一個に絞ることは出来ず、いくつか存在しますのでそれでよければ。
一つ目は第十五話、冷笑への恐怖を引きずり続ける啓一をサツキが一喝、「あなたは生きているだけで価値がある、誰かの支えになれる」と泪混じりに言い聞かせる場面。ちなみにこの話では啓一と同じ世界=我々の世界から転移した人物が登場しますので、その点でも重要です。
二つ目は第十八話の最終盤、黒幕に与する武装集団に対して二日がかりのハッキングをしかけた際、一旦帰宅していた啓一が拠点となっている家を訪う場面。庭で「人の弱さ」に関する話をするとともに、途中からサツキも加わって「悲しむ人がいるのだから絶対に生きて」と励まします。
三つ目は第二十一話中盤、啓一が『平家物語』の一ノ谷の合戦で行われた奇襲作戦・逆落としを参考にサツキ・清香とともに崖下の武装集団に真上から襲撃をかけ、三人で暴れに暴れて潰す場面。「無双」のかけらもない啓一が、ある手段で他の二人とともにほぼ無双の状態となります。
最後は第二十七話終盤、黒幕が追い込まれ逮捕が秒読みとなったたところで啓一が対決し、最終的にその心を折る場面。一番最後の黒幕に対する扱いには意見が分かれるでしょうが、私はあの方がむしろ侮蔑心が露骨に出ていいと思っています。
◎この作品を書いていて難しい(かった)ところは?
ミステリー要素があるため、事実が矛盾しないようにかなり気をつけなければならなかったところです。また伏線張りやその回収にも恐ろしく気を使いました。
あと一同が事件の事実を解明して行く中、事実の判明が唐突にならないようにしたところです。実際にはそういう部分も作らないと進まないのですが、そこは見えないよう工夫しないといけません。
殊に難しかったのは第十六話の最後、啓一が黒幕・松村徹也の持っている特殊な経歴を言い当てる場面です。ここはそもそも判断した根拠や理屈がややこしい上、本人が以前違和感を覚えたのをきっかけに考えに考えた末到達したということにしないといけないという厄介な部分でした。
◎気に入っている設定は?
人体改造技術関連の設定です。
アンドロイド技術が完全確立して百数十年という世界のため、その応用で当然のごとく人体改造なぞ朝飯前。改造人間が普通に作れるんですね。
しかしやはりこうなると、悪用する輩が出るのが世の常というものです。やろうと思えば人を自由自在にいじっていいようにおもちゃに出来るわけですから、歪んだ支配欲や征服欲、異常な性的嗜好の持ち主にはたまらないでしょう。あとは人であろうが何であろうが商売道具としか考えないような闇社会の人間にも。
このような想像からもし人体改造技術が実現してしまったら社会はどうなるのか、どう対応するかということを考えてみたわけです。
その結果法制面でものすごい設定が生まれてしまいましたが、作者としては人権の観点からあのやり方になるのも当然と思っています。
◎気に入っているキャラの名前は?
真島サツキと大庭シェリルの幼なじみコンビです。
本作では旧美作国(岡山県北部)に相当する地域の駅名や地名を苗字に採用しており、「真島」「大庭」は現在の真庭市に相当する真島郡と大庭郡から取っています。この両郡は隣同士(「真庭」は両者の合成地名)なので、幼なじみ設定としてはよかろうと決まりました。
名前ですが、「サツキ」は好きなゲームのヒロイン名から拝借していますので、最初から気に入ってます。「シェリル」は外国風の人名をつけるのが苦手な私が、奇跡的に超安産でうまいのをひねり出せたというのが理由ですね。
◎一番お気に入りのエピソードは何話?(エピソードタイトルでも)
実に難しいですね。もうあれもこれもという状態なので。
選ぶとすれば全ての決着がつく第二十七話でしょうか。
実は黒幕の逮捕に乗り出した後の展開はこの前の第二十六話から続いているので、この話だけつまみ出すのも問題があります。しかしやはり先に述べた通り最後の啓一が黒幕を完全に観念させる場面が気に入っているので選びました。
◎小説の中では書けないけど、ここで作者として伝えたい事とかある?
本作を偶然見かけられた方やご覧になられる方への注意のようなものを。
本作は「異世界転移もの」ではありますが、どうかそれだけで忌避なされないことをお勧めいたします。苦手な方や嫌う方もかなり多いと聞きますので。
「異世界転移」というものに対し、本作は「理不尽極まりない事故」としての扱いを行っております。その観点から被害者や転移先の世界の人々の思考や言動を描くことに関心を傾けておりますので、その描写は恐らく通常の「異世界転移もの」のイメージとはかけ離れていると思われます。
またそれ以外の人間ドラマやミステリー要素を含めての作品ですので、この看板だけに惑わされずご覧になって行ってくだされば幸いです。
またレイティングが「性描写あり」となっており、これも忌避する方がいらっしゃるかも知れません。カクヨムでは昨今「性描写あり」を標榜して密かに成人向け作品を書くというけしからぬ輩が増えているとのことで、広く「性描写あり」=「エロ」という固定観念が広まっているとも聞きます。
ただし本作の「性描写あり」は、黒幕に与する反社会的勢力がしのぎのために作った風俗街が登場するために附与したものです。
しかもここが本作で起こる事件の前哨として起こった事件と深く関わるとともに、裏で渦巻く陰謀を暴き出す鍵の一つを握っている大切な場所なのです。
また前哨で起こった事件も現在では不可能な架空の犯罪ながら、その性質上このように醜い人の欲望が闇にたむろする場所でこそ起こり得ると解釈しています。
このためむしろ本作ではエロは市民に害なす存在であり忌むべき悪、いや吐き気のする邪悪というとらえ方で、悪役以外の登場人物たちからも唾棄されています。
ただそのようにネガティブな扱いながら、話の流れ上そのような世界に一部首を突っ込む形となるのは避けられておりませんので、最終的にお読みになるか否かはみなさまの判断におまかせいたします。
そして本作は、一話一話が極めて長文です。腰を据えてお読みください。
◎この作品にかけている熱い想いをどうぞ!
本作は、はっきり言いますが「異端作」です。
何せ内容が「SF」+「異世界転移」+「未来世界」+「人間ドラマ」+「ミステリー」というはて鵺かキメラかというものなのですから。
内容ばかりではありません。一話の長さが最低一万字、最高四万字近くというカクヨム含むWeb小説らしからぬスタイルもそうです。
しかし作者としてははみ出し者でも、一切後悔はしておりません。
裏の主題を含めて本作で書こうとしたことは、こうでないと伝わらないからです。かなり設定を練り込み事件の内容もややこしくしてあるので、通常行われている短文連続投稿は出来ません。
投稿している以上読まれないのはひどく寂しいものがありますが、最近では「はやる要素が一切ないのだからしかたあるまい」と肚をくくっています。
本作はいつでもカクヨムのサイトの片隅で、目立つでもなくぼんやり席を温めています。気が向いたらお読みいただければ、それだけで作者としては幸いです。
<了>
『天ノ川連邦見聞録』余話 苫澤正樹 @Masaki_Tomasawa
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