墓所

 収容所のほぼ中央にあるひらけた場所に、捕虜や囚人の亡骸をまとめて放り込む墓所があった。


 正しくはあるらしいとしか知らず、入ったことはなかった。


 ここは看守の間では呪われているらしく、滅多に近寄らない場所だった。


 つまりは無法地帯、捕虜にとっては楽園に思えるがしかし、実際は暴力の支配する地獄だった。


 看守の監視が無ければ強いものがやりたい放題、集団で一人を連れ込みリンチなどに使われていた。


 ましてや今はこの有様、移動に便利なショートカットながら近寄るのには勇気が必要だった。


 そして生き残るのには、それほど勇気は必要ない。


 前を通るだけで迂回する。


 それだけで中から悲鳴、呻き声、そして潰れる音、現在進行形で殺人が行われているらしかった。


 ……捕虜を殺すのにはメリットとデメリットはある。


 メリットは何よりも恩赦を狙うライバルが減ること、死体から道具などを剥ぎ取れることがある。


 デメリットは看守の監視が強まること、現行犯なら独房なこと、それと殺されると分かれば相手も抵抗してきて痛手を負う。即死狙いで背後から襲う手もあるが、死体が覚えてる情報は二度と手に入らない。


 いずれは殺すことになるだろうが、タイミングは大事だ。


 考えていると看守がぞろぞろ、引きずるように運ぶのは鶏のような男の亡骸だった。死因は恐らく鈍器による頭部へのダメージだろう。


 運び運ばれて墓所に消えて行くのを見ながら、廊下の猿の男もここに放り込まれてるのだろうと確信した。


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