第57話「戦勝会(了)」
「いやーキツかったな! 死んだかと思ったよ」
「私は一度死んだんですがね……」
メアリーの言葉にヴィルトが声をかける。
「リザレクションを使ってあげたでしょう?」
「でも今回の討伐のMVPはフォーレとメアリーだよな」
ファラデーがそう言った。
「そうだな、そもそも魔王の無耐性タイムを見つけたのも大概すごい話だ」
マクスウェルがそこで声を上げた。
「戦勝祝いのビール頼むけど飲む人!」
「はーい」
全員の声がハモって、その答えを予想していたのだろう。マクスウェルはビールの大箱を一つ課金していた。
皆で仮想アルコールを有効にしての酒盛りが始まった。
「いやー! 勝った後のビールは最高ね!」
「ゴチになります、マクスちゃん!」
「ボス戦上がりの一杯はこの上なく美味いな!」
「本物のビールより美味いぞ」
「しかし俺たちが実装初期のラスボスを倒すとはなあ……攻略法が見つかってない敵を倒したのは初めてじゃないか?」
「そうだな、wikiで攻略情報を予習してから戦ってたもんな」
しかし俺たちは勝利したのだ。確かに勝ち目の無さそうな相手に全力を出して挑み、勝利した、今はそれだけが事実だった。
「やっぱり勝利って言うのは最高の調味料ですね!」
俺たちはラスボス討伐初期組としてサーバのログに残される。名誉以外には何にもならないが、俺たちの名が刻まれるというのは気分の良いものだ。
「ところでこのギルドはどうするんだ?」
「「え!?」」
フィールズの言葉に俺とフォーレは驚きの声を上げた。
「いや、ラスボスは倒したわけだしさ、次のあるかどうかも分からない追加コンテンツのためにギルドを残すのか? ハウジングは立派な課金要素の一つだぞ」
それについては考えていなかったな……しかしゲームにはエンドコンテンツという物がある。俺たちの次の戦場は……
「俺たちの次の目標はこのギルドの名前をサーバに知らしめることだ。それまで皆には付き合ってもらうぞ!」
「しょうがねえなあ……」
「ここにいるのなんて全員廃人だろうが、そこを目指すのは当然だろ」
「楽しそうね」
「私はもっと強くなりたいですね」
「私はギルマスともっと長くこのゲームをプレイしていたいです!」
ファラデーは口を開けて笑った。
「なんだよ、ラスボス倒しても誰一人やめる気はないのかよ、このギルドらしいな!」
「俺たちの戦いはどこまででも続いていくんだよ、サービス終了まではな……」
俺はビール二缶目を開け一気飲みしてこのギルドがまだまだ続く宣言をした。
「ギルマスって案外戦闘狂ですよね。いつも雑務ばかりしてるのに」
ヴィルトがそう俺に問いかけてきた。
「ギルドを続けるのが最優先だからな。俺だってギルドを作る前は野良で戦い続けてたんだぜ?」
「お、ギルマスの意外な一面か?」
「馬鹿ね、ギルマスだってこのゲームを始めたときからギルマスってわけじゃないわよ」
「しっかし想像がつかねえなあ……ギルマスが好戦的だったとはなあ……」
そしてギルドの夜は更けていく。しかし今回の宴会は二箱目のビールをファラデーが課金したので続行となった。やはり仮想アルコールがあると話が終わらないな。
「ギルマス! 昔話を聞かせてくれよ!」
「楽しい話じゃないぞ? 外人勢とも構わず組んでFワードを連発した話とか聞きたいか?」
「結構気になるわねそれ」
「そういえば肝心なことをしていなかったな」
「どうした?」
「挨拶だよ、今回のラスボス撃破を祝って、乾杯!」
「かんぱーい!」
全員で乾杯をしてその日は皆が酔い潰れるまで飲んだのだった。仮想アルコールなので二日酔いはないが、寝不足程度ならあるだろう。
俺は気分よくヘッドセットを外してこれから先のことを考えた。きっと上手くいく、なんたって俺には最高の妹と仲間がついているのだからな。
俺は大仕事を終えた気分で学校へと向かうことにした。少なくとも今は確かにノンリアルファンタジーオンラインは俺の第二の人生を歩む場と化してしまっていることを理解して、次のコンテンツに期待をしながら朝日の中に飛び出したのだった。
――了
ノンリアルファンタジーオンライン~ダメ人間×ネトゲ廃人の世界は電子の海の中にある~廃人ギルドの日常風景 スカイレイク @Clarkdale
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