第10話

このくたびれ切ったおじさんがあの子だったのかあ。

魔物討伐の依頼地へ二人で歩きながら、薄い頭髪のトヨタさんを横目で見て、私はつい溜息をついた。


「何かありましたか?」


「あ、いえ」


「ここに来て1カ月ですか。もう慣れましたか?」


「はあ、まあ。そういや、トヨタさんって最初からこの部署だったんですか」


「いえ、最初は管理部門で。5年くらいいたかな。当時は渡辺さん課長だったんですよ」


「あの嘱託の。へー、あの人が上司だったんだぁ。トヨタさんって、今おいくつなんですか?」


「今年で49ですね。ヨナっちとは二回り違うんですよね」


「二回りですか。なるほど」


うんうんとうなずく私の頭上を、トヨタさんが見つめた。

同時に凄まじい熱量を頭頂部に感じ、私は叫んだ。


「あっつっっ!!!!!」


「マツキヨッ!!!!!」


「ぎゃうんっ!!!!!」


バッシューーーーーン!!!!!


全ての音響が重なり、空気が共鳴した。


えっ、何?何が起こった。


魔膜を張りつつ振り返った私の目に、巨大な火球が映し出される。


あ、魔物。しかもかなり凶悪な。


と判断する間もなく、敵の攻撃が私を捉える。


吹っ飛び、倒れる私。

切られた。死んだ。マジ死んだ。

思わず目を閉じ、訪れる死をただ待つ。


あれ?死なない。これって…


恐る恐る目を開けると、そこには。


「ト、トヨタ少年!!!!!」


「とにかく余裕がありません。このママで対処しますので、とりあえず魔膜張ることだけに集中しておいてください」


言葉を終える前に少年は飛び立ち、そして勝った。

私の今まで見たこともない魔法で。光系?それくらいしか分からない、超高難度っぽい戦闘魔法で。


「トヨタさん、ですよね?」


「ええ、トヨタ魔導士、47歳です」


いやもうね、マジで顔がいい。そうなんです。この世で一番顔がいい。


「ありがとうございました」


「上司ですからね。とりあえず、今日の報告は会社には私からしときますので、帰宅していただいて結構ですよ。あ、怪我とかなかったですよね?そう、それはよかった。ではまた」


「ちょっと待ってください、トヨタさん。その、トヨタさん、若返ってませんか?」


「いえ、そんなことはありません。では私は会社に帰りますので。マツキヨ」


トヨタ少年は消えてしまった。

私はただ、呆然と立ち尽くすのみだった。

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魔法使い(正社員/女)は邪悪な人事部長に復讐したかったけど新しい上司がまさかの推しになりそうでこれはこれでよかったのかと さらや @kenta-ta

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