第9話

トヨタさんを観察すること。って、何?何したらいいわけ?

会社来て現場出て処理して帰社して報告書まとめてでは失礼いたします、それが人生な私たち会社員。

そんな判で押したような毎日を観察して、一体何が出てくるっての。


「トヨタさん、ちょっと相談したいことがあるんですけど」


ってわけで、もう面倒なので飲みに誘っちゃいました。

若い女の部下から誘われたら断る上司なんかいやしねえだろっ!


「すいません、勤務時間外はちょっと」


っておい、お前は最近の若者か!!!


「え、えと、じゃあ、会議室とかでもいいんですけど」


「ああ、じゃ空いてる会議室取っちゃってください、ヨナっち」


というわけで、トヨタさんに素面で何かを相談しなくちゃいけなくなりました。


「で、ヨナっち、相談というのは?」


私は本心を覚られないよう、伏し目がちに応えた。


「私のキャリア、このままでいいのかなって」


「ほう。それは…。なるほど」


「現場に出るのは好きなんですけど、それをずっと続けていけるのかなって思うんです。プライベートも考えると」


「ほう。それは…。なるほど」


「将来的にはやっぱり家庭持ちたいですし、子どももとか考えちゃうと」


「ほう。それは…。なるほど」


あれ?何このリピート。ひょっとして時間巻き戻してリピートで乗り切ろうとしてない?


「あ、ちょっと失礼します」


ここで用意していたお茶を一口。

で、バチャーン!!


「あ、ごめんなさい」


「あ、いえ、だいじょうぶですよ」


トヨタさんを見ると、確かに少ししかお茶はかかっていない。

絶対私、頭からかぶるようにいったよね?


「まああれですね、ちょっと上とも相談しますんで、返事は待ってもらえますか?」


あれ?この流れって、私異動したいみたいになってる?


「いや、そうじゃなくて。私はここがとっても気に入ってて、いやそれほどでもなくて。いや、どう言ったらいいんだろ。とにかくトヨタさんと働きたいです!!」


?なトヨタさんの顔を見ながら私は席を立った。

あれ?なんで私、動揺してんの??

トイレの鏡の前で頬っぺたを一張りすると、また会議室に戻った。


「これこれ。うまく撮れてますでしょうか」


遅滞魔法を仕込んでもらった携帯のカメラ。

トヨタさん、絶対に時間戻してた。

この証拠を見せて、ほんとのこと明かしてもらおうっと。


すぐに家に帰り、私はデータを確認した。

お茶をこぼした瞬間の動きを1コマごとに送り続け、そして運命の1コマが。

見ぃつけた!!


ズキュウウウン


全私が鼓動した。

誰この美少年!?イケメンってよりこの紅顔の美少年は!!?

はあああああああああ????

トヨタお前いい加減にしろよ!!

顔が、顔が、顔が良すぎるだろがおい!!!!!!

一体全体、どうなってんだ!!!!!!!!!

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