第8話
そもそもなぜ装置の測定値で「i」が出てくるのか。
元々装置を作ったのはジョイで、レイチはただその設計データを譲り受けて再現しただけだから詳しいことは分からない。
でも推測するに、魔魂の測定の際の時間変化で虚数値になる場合を想定して、「i」も出るようにしていたんじゃないかとのこと。
たしかに、普通ならエラーになるはずなのに、虚数値が測定値として出てくるなんてまああり得ないよね。
ジョイは元々魔磁気系の分野から魔工学系にきたから、ついくせで「i」も設定してたんじゃないかとのこと。
そのおかげで、ジョイはある可能性に気づいた。
ある日のこと。
ジョイが測定を始めようと装置を見ると、なんと値が「0.001i」になっている。
装置の中をじっくりと見ると、そこにいたのは体長3㎜ほどの数匹のユキマシムシ。
その瞬間、ジョイは覚った。ユキマシムシは時間を移動して敵から逃げるのだと。
「ユキマシムシって、あの白いやつ?砂掘ったりしたらいて、急に見えなくなるやつ」
「そうそう、よく知ってるね。あれすごい速さでジャンプして逃げるから見えなくなるって言われてるけど」
「時間移動してた、ってこと?」
「ほんの少しだけね。せいぜいマイクロ秒単位で過去にずれるみたい」
「ほんとに?まじで?どうやって調べんの?てか、調べたの?」
「カメラに遅滞魔法かけて、それで録画してコマごとに調べたみたいだよ。したら、そのデータが捏造されたものだってことでジョイは追放されたんだよ」
「遅滞魔法ってそんなに細かく撮れるの?」
「ジョイの使ったのは1コマ100ナノ秒、つまり1千万分の1秒単位で撮れるカメラ。だからマイクロ秒単位でいなくなるっていったら、コマ数的には10コマ単位で撮れるわけだから間違いようもないわけ。」
「100ナノ秒ってあんた。そんなすげーの、今の遅滞魔法」
「いや、全然。最高強度の遅滞魔法だと、1コマ2ピコ秒、つまり1兆分の2秒単位で撮れるらしいよ」
「ふへー」
私の全然知らない世界だ。
機械と魔法の融合した比較的新しい学問である魔工学は、近年急速に発展しており、学生の間でも従来の魔法学をはるかに凌ぐ人気を得ている、というのは聞いたことはあるくらいだ。
「でもジョイだってそんな確かな結果出てるんだったら、なんで反論しなかったんだろう」
「反論する前に消えちゃったもんね。学校からだけじゃなく、みんなの前から」
「そうなんだ。ねえ、ジョイの実験ってさ、ユキマシムシが跳ぶ瞬間を撮影するじゃん。その映像見ると時間移動してるって、どうして分かるの?」
「それは、コマとコマの間であり得ないところに移動しているから。例えば空中に飛び出して電球に衝突すると思った次のコマで地面に移動してたり、水面に落ちる次のコマでやっぱり地面に戻ってたり」
「物理法則に反してるってことか。でもそれって、瞬間移動なんじゃないの?」
「でね、すべての場合でユキマシムシは、何か危険なことにあいそうなときはその次のコマで元の運動始める前の位置にもどってたんだって」
「自分の時間だけ逆戻ししてるのかっ!」
「そう、よくすぐ理解できたね。やるじゃん」
自分の時間だけ戻す能力。
なんかctrl+Zって感じ。
「でもさあ、それって使い続けると周囲よりもどんどん若返ってくんじゃないの?」
「あ、たしかに。それは気づかなかったな。なるほどぉ」
「トヨタさん、そんなに若くは見えないけどなあ」
「本人が能力に気づいてない可能性もあるしさ。とにかくその人のこともっとよく調べてよ」
トヨタさんを観察し、結果をレイチに伝える。
なんだか面白そうじゃないですか。
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