あの人

奈那美

あの人

 今日は金曜日。

週に一度、あの人に会える日だ。

 

 10年前に初めて見かけた時に、恋に落ちた。

分不相応だと言いたければ、言えばいい。

誰かを好きになる、それのどこが悪い?

 

 あの人の魅力は、他の人にはわかるまい。

みんな節穴だからな。

あの人の優しさ、気配り。

他の奴らの、誰が同じレベルでそんな優しさを供してくれる?

みんな我関せずでスルーじゃないか?

 

 そろそろ、あの人が来る時間だ。

今日こそは、あの人にアピールしたい!

いや、しなきゃいけないんだ。

ここに居るって、知ってもらわなければ!!

 

 パタン……

 

『せんせえ〜。この本が棚から落ちて来たよ?」

「あら、ありがとう。うーん、この本、あちこち傷んでるわね。おまけに日焼けもしてるし。閉架に回しちゃおうかな」

 

あの人はバーコードリーダーを手にする。

ピッ(蔵書確認)

ピッ(所蔵区分)

ピッ(閉架)

 

ボール箱の暗闇で思う。

 

学校司書には、惚れるもんじゃない。

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あの人 奈那美 @mike7691

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