同日、午後十二時前。現代日本に似つかわしくない、バロック形式に似ているが少し違う広い部屋の中。

 夜だというのに満足な灯りも点けず、三つの人影が集まって、密かな談合を繰り広げていた。

 一人は長い黒髪をそのまま流した屈強な美丈夫。その顔の造形は整ってはいるが、頬には目を背けたくなるような深く痛々しい火傷痕が残っており、右目は眼帯で隠されている。その分厚い唇から、腹に轟くようなバリトンボイスが低く響いた。

「例の件、準備は出来ているだろうな」

 問いというよりは確認に答えるのは、片眼鏡と白衣を身につけたひょろ長い男。その瞳は人間ではあり得ないメカニカルな光を灯しており、いかにも人工物らしい様相だ。彼は楽しげにくくっと笑い、芝居がかって片眼鏡を持ち上げた。

「勿論。君から案を受けた時から、いつでも『この時』が来てもいいように準備は完了しているよ。これ以上ないスポンサーもいるわけだしね」

 義眼がぎょろりと動いて、もう一人の人物──紅の和服に身を包んだ黒髪の女に向く。彼女は沈黙に徹するままだが、白衣の言葉は美丈夫にとっては満足のいく回答だったようだ。彼はほう、と深く長い息を吐いた。

「ついにこの時が来た。もう少し。もう少しだ……」

「行仁(ゆきひと)、さま」

 白衣には何も返さなかった女が、長髪男の腕に手を添える。よく見ると彼女の顔にも男と同様に痛々しい火傷の痕があり、やはり右目は眼帯で覆われていた。

 行仁、と呼ばれた長髪男は、雰囲気に似合わぬ柔らかな笑みをして彼女の手を握り返した。

「案ずるな、導(しるべ)。我が計画に穴はない。貴様の類い希なる知識と、生まれ持った魔力のお陰だ」

 導と呼ばれた女はその言葉に安堵以上に満たされたように、行仁の腕に添えた手から力を抜く。その傍らで、白衣男が自分の携えたダッシュボードを開き、中に詰め込まれていた紙束を一式行仁に差し出した。行仁はそれを受け取り、ぱらぱらと中身を確認しながら淡々と独りごちる。

「民主主義……法治国家、か。所詮は人々の善意に依存した国家体制だ。それでいて、少数者に手が届かないのは我々の国と変わらない」

 彼の眼光が貫く紙束には、「極秘」の文言と共に老若男女様々な人物の顔写真が印刷されている。その中には──愛沢泉結という女子高生や、鹿川一純という少年の名前と顔も表示されていた。

 行仁が懐から短剣を取り出し導に目配せをすると、その先にぽう、と赤く火が灯った。紙束に燃え移ったそれは、いとも容易く数々の顔写真を真っ黒な炭に変えていく。

「待っていろ。アントレッド王家……この俺が、必ず……」

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スーパーダーリン大戦 若島和 @waka1012_nbl

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