二度目の大学生活は女子大生と///

シャナルア

2度目の大学生活は、女子大生と……

 大学生には、いろんな人種がいる。


 真面目に勉強してるやつもいれば、そもそも大学に来ないやつに、歩きたばこをするようなやつ。


 自分はその中からことさら特別なやつだった。


 なんと俺は、社会人から出戻り、2度目の大学生をやっていた。


 俺がこうして学び直すことを決断したきっかけは、社会の厳しさについていけず、無職に転落したからである。


 こうした決断をするのに要した期間はおよそ1年。


 失業保険を給付してくれた行政と、実家の家族には、感謝するほかない。


 そして、大学に戻った俺が、真っ先に思ったことがある。


 女子大生が可愛いということだ。


 いや、もとから女子大生は可愛いのだが、自分が学生だった時の感覚とはまるで違っていた。


(目に入る女子大生、全員可愛いんだけど!?)


 人間には、異性の美醜を判断する悪癖がある。


 あの子は可愛い。


 あの子はそうでもない。


 あの子は論外。


 そういう感覚で、異性を区別してしまう。


 10年以上前の自分は、口にこそ出さないものの、やはりそういう目で校内の女子を見分けていた。


 しかし今は別だ。


 なぜなら、女子大生の全員が可愛いのだから。


(ああ、これがおっさんになったということなのか)


 しみじみと思う。


 夜遅くまで起きれなくなるし、学生食堂の大盛は多すぎる。


 何より、自分は生活習慣病なんじゃないかと不安が芽生え始めたほどだ。


 年を重ねれば、もっとそういう不安も出てくるのだろう。


 というか、同期の仲間は家庭を作って、子供までいるやつもいる。


 俺だって、別の人生を送っていれば、彼女作って、プロポーズしててもおかしくないのだ。


(女子大生と仲良くなって、付き合ってみるか……?)


 およそ18~22歳が女子大生の年齢層だ。


 28の俺から見れば、一番離れて10歳ほどの年齢差がある。


 相手から見れば気になるかもだが、俺から見たら気にならないどころか、素晴らしい年齢である。


(ぐっへっへ、夢があるねぇ)


 自分は低俗な妄想こそするものの、結果、この半年特に何もなかった。


 現実、自分は童顔で、20歳で通しても問題ないほどだった。


 おっさんなのに外見は子供。


 大人の魅力を醸せない中途半端な男が俺だった。


(そもそも勉強をしに大学に入ったのだから、これでいいんだけどさ)


 基本的に、大学はボッチでも自由だ。


 自分の好きなように過ごせばいいし、プライベートなら一人でなんら気にする必要性は無い。


 ……まあ、将来のことを考えたなら、絶対に仲間づくりに励んだ方が有利なのだが。


 とはいえ、女子大生と全く交流がなかったわけではない。


 ある試験の勉強会にて、グループワークをしたときだった。


 3人組を作ったとき、一人は眼鏡をかけたインテリのような細い男で、もう一人は待望の女子大生だ。


 声ははきはきしていて、ショートヘアが可愛らしく、男二人相手に囲まれても気にした様子の無い子だった。


 はっきり言って、魅力的な女性だった。


(めっちゃタイプの子と会ってしまった)


 とはいえ今は授業中。


 俺は組になった二人と談話し、短時間で打ち解けあう。


 そしてすぐに学習課題に取り掛かった。


 そしてあっという間に時間は過ぎる。


「ねえ、なに学部ですか?」


 残りの余った時間、その女子大生は話題を持ちかけた。


 すぐに答えたのは、もう一人の男の方で、法学部だそうだ。


「この分厚いのはもしかして」


「六法全書、これが毎日必要なんだ」


「へぇ」


 そして、同じ質問が俺に飛んでくる。


 そのとき俺はチャンスと考えていた。


 なにかきっかけさえあれば、名前を聞いて仲良くなれるかもしれないと考えていた。


「俺は工学部の○○学部」


「○○学部って、何するんですか?」


「パソコンのプログラム関係で——」


 この会話を聞いていた法学部の男がピクリと反応する。


「え、プログラムって言語何してるんですか?」


「あー、C言語とJAVAかな」


「Pythonはしてないんですか?」


「俺はあまりPythonをしてないな……」


 俺は女子大生のほうを見る。


 ぽかん、である。


 一ミリも話を理解できてなさそうだった。


「ええと、プログラムには言語ってのがあってね」


 その子は俺の説明を聞いて、スマホで検索する。


「ああ! つまり映画でよく見るようなやつなんですね!」


 正直、可愛らしすぎて惚れた。


 が、直後


「それじゃあエディター何使ってるんですか!」


 法学部の彼からの質問攻めが止まらない。


 彼の目はキラキラしていた。


「さ……サクラエディタかな」


「サクラつかってるんですね! いいですよね!」


 女子大生、またポカンである。


「君はかなりプログラミング詳しいね……」


「はい! 勉強しましたから!」


 多分、彼とプライベートで話すならかなり仲良くなれただろう。


 というか、女子大生とは別ベクトルで可愛いと思うタイプだ。


(けどな、女子大生と仲良くなりたいんだ! 男同士で仲良くなってどうするんだ君は!)


 いやまあ、彼を疎むつもりなんてないし、正直仲良くしたい。


 ただまあ、俺たち2人だけにしか分からない話をするのはよそうぜ、とは思う。


 そして今、残り時間はわずかだ。


 おそらく性の方向性とは合わない彼と話を切り上げ、話題を変えた。


「君は何学部?」


「スポーツ学部です!」


「へえ! どんなことしてるの?」


「走ったり、いろいろかな。他に部活にも入ってるんですよ」


 彼女の体はすごく締まっていた。


 スポーツをしていたのは明らかだ。


「部活って、弓道部とか?」


 印象で予想する。


 腕は太いし、礼儀正しいし、何より似合うと思ったからだ。


「違いますよ。バスケ部です」


 ん?


 バスケ部?


 俺は嫌な予感を感じた。


 そして俺は一つの質問をした。


「身長って、どれくらい……」


「166ですよ」


 俺は笑顔のまま、心のうちで絶望する。


「身長……おっきいね……」


「ええっ? そんなに変わんないじゃないですか? 何センチですか?」


「……163」


「あ、そうなんですね」


 言っておくが、俺は身長の高い女子は好きである。


 けれど、身長の小さい自分を見てどう思うのか、をどうしても考えてしまうのである。


(ああ、女性って、身長の低い男とは付き合いたくない傾向にあるんだろ……だったら俺じゃダメじゃん……辛い……)


 こうして微妙な心もちのまま、授業は終わり、二人と別れる。


 次の勉強会は9月ごろになるので、再開は遠い。


(いやまあいいけどさ。一授業ですぐに仲良くなれるわけじゃないし、あんなに可愛い子だったら彼氏ぐらいいるだろうし)


 そんなこんなで、心の中で言い訳しつつも、ほくそ笑む。


(女子大生を見るだけでも癒されるんだから、それはそれで問題ないな)


 おっさんになると、女子大生を見るだけで幸せになるのだから、とても単純である。


 2度目の大学生活は始まったばかり。


 彼女を作れるかどうかは分からないが、希望はまだある。


(テスト準備をするか)


 そしてゆとりのある幸せを噛みしめるのであった。


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