キツネとタヌキの友情の風船
アほリ
キツネとタヌキの友情の風船
今は風力発電の風車が立ち並び、1面にメガソーラーパネルが敷き詰められた自然エネルギー発電所と化した山々。
数年前には、ここは野生生物達が思い思いに暮らしていた緑豊かな里山の風景が拡がっていた。
「変わっちまったね、ポンキチ。」
「うん。変わっちまったね・・・コンタロー・・・」
ホンドギツネのコンタローと、ホンドタヌキのポンキチは在りし頃の自由な里山の自然の中で、動物仲間と一緒に暮らしていた日々を思い出し、うっすらと涙を流した。
「どこら辺だっけ・・・僕が脚を滑らせて谷底に落ちそうになったのをカモシカのアモに助けられたとこは・・・」
「ここら辺かな・・・ノウサギのピョンサクを追いかけたら、いきなり反撃してきて僕の鼻を噛んできた切り株の草原は・・・」
お互い在りし日の森の日々に話を弾ませる度に、お互いの目から涙が止まらなくなり遂に大声で泣きじゃくった。
「何でこうなっちゃうんだよ~~~~~
~!! 」
「人間どもは余計な事ばかりしやがって~~~~~!!森を返せぇーーーー!!」
お互いの涙が枯れて、木が伐り倒されて剥き出された土の上でお互いは寝っ転がった。
「ねぇ・・・持ってきた?ゴム風船。
僕は赤い風船。」
キツネのコンタローは、萎んだ赤い風船をタヌキのポンキチの目の前に差し出した。
「無論、僕も持ってきたよ・・・緑色の風船。」
タヌキのポンキチは萎んだ緑色の風船を、キツネのコンタローの目の前に差し出して、寂しそうに笑った。
「じゃあ、風船膨らまそうか?」
「うん。あの黒いイノシシおじいさんを思い出しながらね。」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、息を胸いっぱいに吸い込むと、
キツネのコンタローは、赤い風船。
タヌキのポンキチは、緑色の風船。
お互い風船の吹き口をくわえるとゆっくりと、赤い風船と緑色の風船を持った黒く優しい顔の大イノシシのおじいさんの姿を思い出しながら息を吹き込んで膨らませた。
ぷぅ~~~~~~~~・・・
ぷぅ~~~~~~~~・・・
ぷぅ~~~~~~~~・・・
ぷぅ~~~~~~~~・・・
・・・・・・
・・・・・・
「みんな・・・ここにお集まりの森の仲間達。
本当に無念だ・・・
この地元の人間達の方々も、この棲みかの開発反対を訴え続けたらしいけど・・・覆えす事が出来なかった・・・
もうすぐ数日後には、この山林は全部根刮ぎ斬り倒されて・・・草花も川も無くなり・・・忌まわしい鏡が敷き詰められて人間に利用されていまう・・・
私らを追い払って・・・人間が我が物顔で・・・こんなに悔しい事があってたまるか!!と、此処で訴えても虚しい訳で・・・」
里山の周辺に暮らしている、イタチやテン、アナグマ、ノウサギ、リス、ムササビ、ノネズミ、ニホンザル、イノシシ、ニホンジカ、ニホンカモシカ、ツキノワグマといった動物達、フクロウやカケス等の鳥類、カエルやヤモリやヤマガカシやマムシ等の爬虫類や虫たち・・・そしてキツネやタヌキ達全員が、この山々の主である黒い顔の巨大イノシシが涙ぐみながら話しかけるスピーチに皆泣きながら耳を傾けていた。
「うわーー!!間に合わないぜぇーーー!!」
「だから言っただろ?!もうこの景色は見納めだからって道草食ったら、この餞別会に遅れるよ!って!!」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、ハアハアと舌を垂らしながら荒い息をしながら、森の餞別会の会場に急いで向かっていた。
「これから皆さんにこの土地を離れても、幸せな暮らしを願う為に一斉に風船飛ばしをしようと思う。
この風船は、元々人間の森の開発反対派が抗議の為に使う筈だった風船だが・・・団結小屋に起きっぱなしになってたのを、私が担いで持ってきた風船だ。」
黒い顔のイノシシは次々と萎んだ風船に、
しゅ~~~~~~~!!
と、ボンベからヘリウムガスを入れて膨らますと、森の動物達に手渡していった。
「じゃあ、皆風船が行き届いたかなあ?
それじゃあ、『せーの!』で風船を飛ばすぞーー!!
ほいじゃ、せーの!!
皆、離ればなれになっても、達者に暮らせよーーー!!」
「みんなーーーーーさようならーーーー!!」
森の動物達の手や脚や爪から放たれた、餞別のカラフルな風船が一斉に舞い上がり、大空高く飛んでいった。
「遅かった・・・」
「間に合わなかった・・・」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチが、森の餞別会の会場に着いた時には既に森の動物達は各々の新天地に向かって旅立った後で、黒い顔のイノシシは余った風船と空っぽのヘリウムガスボンベを背負って団結小屋に返そうとした時だった。
「イノシシのおじいさーーん!!遅れましたーーー!!」
「風船余ってますかーー!!」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチはその場で倒れてしまった。
「ごめん・・・もう餞別会は終わったし、ヘリウムガスは空っぽさ。
風船飛ばしは参加出来ないよ。」
「そこを何とか・・・」
「お願いします!!」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、何度も土下座して黒い顔の巨大イノシシじいさんに頼んだ。
「うーーーーん・・・仕方ないなあ。よしっ!!」
黒い顔のイノシシおじいさんは、キツネとタヌキを抱き締めた。
「実はな・・・わしは、わしの吐息はヘリウムガスより軽いんじゃ。
特別にわしが遅れたあんたらの為に風船を膨らませたる。」
黒い顔のイノシシおじいさんはそういうと、余った風船の袋に蹄を入れるとこう言った。
「君はキツネだから・・・赤だな。で、君はタヌキだから・・・緑だな。」
と、萎んだ赤と緑の風船を取り出し、黒い顔のイノシシおじいさんは大きな鼻の孔左右其々に赤い風船と緑色の風船の吹き口を宛がうと、
ぷぅ~~~~~~~~~~っ!!
と、鼻息で一気にパンパンに膨らませてしまった。
膨らませた風船の吹き口を結んでキツネとタヌキに手渡した、黒い顔のイノシシはニッコリと微笑んだ。
「どうだい。わしは若い頃に森に堕ちてきたアドバルーンを口で思いっきり膨らませてパンクさせて、森の動物達を全員ビックリさせた事あるぞぉ!!ぶっひっひっひ!!」
「あのぉ・・・」
「この風船浮かないんだけど・・・」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、離しても離しても堕ちてくる風船を困惑した。
「いやいや、この風船は空高く飛ぶよ。
前肢でぽーーーん!!と空に向かってついてごらん?せーの!!」
黒い顔のイノシシおじいさんの掛け声に合わせて、キツネのコンタローとタヌキのポンキチは前肢でぽーーーん!と空高く突いてレシーブした。
すると・・・
びゅうううう~~・・・
突風が吹いてきて、煽られた2つの風船は空高く舞い上がって向こうの山の方へ飛んでいってしまった。
2匹は飛んでいく風船に、今までこの里山での幸せが走馬灯のように浮かんできて心に染みて、思わず涙が溢れた。
「イノシシのじいさん!!ありがと・・・」
「あれ?イノシシのじいさんがいない・・・」
そこには、黒い顔のイノシシおじいさんの姿は居なかった。
しかし2匹には、優しく2匹に微笑んだ黒い顔のイノシシおじいさんの優しい眼差しが心に深く焼き付いた。
「おじいさん・・・」
「ありがとう、おじいさん・・・」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは空を見上げて、お互い涙を流して黒い顔のイノシシおじいさんに別れを告げると、住み慣れたこの里山の森を去っていった。
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、
・・・・・・
・・・・・・
「黒い顔のイノシシおじいさん、あれから1匹で森の木を人間が次々と伐るのを止めようと人間に襲って、駆けつけたハンターに射殺されたなんて・・・」
「本当にこの森を守りたかったんだな・・・無茶しちゃってさ・・・」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、膨らませた風船を見詰めて染々と黒い顔のイノシシのおじいさんを思い出した。
「あの日、風船を飛ばした僕らの仲間達は、新たな土地で達者に暮らしてるかなあ?」
「そして、僕らも其々に幸せに暮らしてるよ、イノシシじいさん。」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、徐に膨らませた風船をぽーーーーん、と空高く付いた。
びゅうううう~~~・・・
あの時のように、突風が吹いてお互いの風船は空高く舞い上がった。
飛んでいく風船の中に詰め込んだ、お互いの幸せ。
風船に託された幸せが染みてくる。
地上を見れば、
突風で風力発電の風車が虚しく回っていた。
幸せを引き裂いたメガソーラー群が不気味に光っている。
「こんなもんが無ければ・・・」
「人間ってさあ、他の幸せを潰して幸せを掴むんだね・・・」
キツネのコンタローとタヌキのポンキチは、寄り添って肩を抱き締めて、見詰める風景が変わっても揺るぎない友情を確かめあった。
~キツネとタヌキの友情の風船~
~fin~
キツネとタヌキの友情の風船 アほリ @ahori1970
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