「小テスト満点取ったら五分間、触らせてあげる」

 鬼教官と言ったな。あれは嘘だ。

 キャプテン・カナは優秀な教官だった。

 俺が何を理解して、何を理解していないか。

 それを把握して、理解していないところを指導していく。

 一コマ四五分の個人授業の間に、約十分のインターバル。

 俺の集中力がどこまで保つかを見極めた、適切な休憩だった。

 休憩の直後に、前のコマの復習として五分の小テストがある。


「小テスト満点取ったら五分間、触らせてあ・げ・る」


 小悪魔ぶったささやき。

 いや! 俺にとっては、慈悲深い大天使様のお導きだ!

 俺の使われてない頭脳に、身体中の血液が全集中。

 本領発揮のときは、今ッ!


 このルールが課されてから四日目の三コマ目。

 俺はついにシルバートロフィー「小テストで満点を取る!」を獲得した。


「嘘でしょ……!?」

「俺を舐めてもらっちゃ困りますぜ、教官殿ォ」


 初日、赤ペンのたくさん入った答案を持ち帰った。

 そこを自宅で復習し、翌朝もう一度同じ問題を解いた。

 二日目、赤ペンが若干少なくなった答案を持ち帰った。

 同じように復習し、翌朝同じように同じ問題を解いた。

 三日目、赤ペンがさらに減ってきた答案を持ち帰った。

 また同じことを繰り返す。それでコツがわかってきた。

 反復練習だと。

 勝利のイメージを脳みそに叩き込むのだと。


「最初は十回できない腕立て伏せが、そのうち平気で百回できるようになるだろ? それと一緒だってわかったんだ」

「……青葉あおばくん、それはちょっと、おかしいと思う……」


 そうだ。俺は自分を鍛えること自体には慣れている。

 鍛える目的がなかっただけだ。今は、目的が明確だ。


「さあ、触らせてもらおうじゃないか! キャプテン・カナ!」

「わ、わかった……わかりましたッ……準備、してくるから!」


 そう言い捨てると、可奈かなは二階に上がっていく。

 しばらくすると、可奈かなが戻ってきて、ソファーの俺の横に腰かけた。


「い、いいよ……青葉あおばくん」

「……」


 唾をのむ。

 まずは肩を抱いた。

 ぴくっと身体が波打って、吐息が漏れた。

 いきなり触られる。そう思って緊張していたのかも。

 うなじに鼻筋を添わせて、柑橘系の香水の匂いを吸い込んだ。


「……あぁッ」

可奈かなのうなじ、とってもいい匂いがする」

「ひゃあっ!」


 ペロッと舌先で舐めると、可愛い悲鳴を上げた。


「さ、さわるなら……さっさと、すませて……ッ」

「なに、そんなにおっぱいもみもみされたいの?」

「もみもみなんて、私そこまで言ってな……イッ」


 鼻にかかった鋭い悲鳴。

 それの指がほんのちょっと、服の上をなぞったからか。

 ギリギリ触るか、触らないかのグレーゾーンを攻めた。

 それだけでも、甘い吐息がこぼれ出す。


「……これでおしまい?」

「んなわけねーだろ。はむっ」

「ひゃぅぅぅぅッ!」


 耳たぶを甘噛みして、耳の周りを舐め回して注意を引きつけた間に。

 俺の両手がしっかりと、洋梨を下から持ち上げるように添えられる。


「……可奈かな、ブラしてない!?」

「だって、ワイヤーが当たると痛いから」

(ノーブラ!?)


 ノーブラだとッ!

 つまり、このたわわな洋梨は、部屋着一枚隔てた、ありのままのおっぱい!

 いいのか、大天使様!

 この俺様を誘惑するとは、なんとあざとい! いや、罪深い!

 耳にふっと息をかけながら、夢中になって撫でまわしていた。


「んあっ……だめ、これ以上は……ッ」

「何がダメなんだい。最高じゃないか」

「どうして……こ、こんな脂肪のかたまりの……どこが」

「メスのおっぱいがオスを引きつける。人類種のDNAに刻まれた運命さだめだ」

青葉あおばくん、頭いいのか悪いのか、ときどきわかんないッ!」


 ずいぶん酷い言われようだった。

 それでも、大天使様はきっちり五分間。

 豊満な洋梨を俺にもみしだかれていた。

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