エピーソード22

エルト一行は、駅へ向かい、クラークデールへ戻る事にした。これは、あの古い祠はクラークデールの方から行った方が近いとノヴァーリスが提案したからだ。レイニアーとクラークデールは街道と鉄道で繋がってるが、もし帝国側、レイニアーから祠へ行くには、かなり早い段階に街道から離れて、森の中央部を越える必要がある。森の中央部は未だ未開の地で、昔から凶暴の野獣や魔獣が住み着いてる、必要じゃない限りは、大人しくクラークデールから入った方がいいかと。だから彼らは駅へ向かい、列車を乗って、一旦クラークデールに戻り、そこから祠へ行くと決めた。


クラークデールへ戻ってる途中、エルトたちもう一度支部にいる2人に連絡を取り、これからキボルスと会う約束をしたと、今そっちへ戻ってることを報告した。事情を知ったコルチカムは、一応彼の「娘」であり、元同じ≪天狼の心臓≫に所属する傭兵でもある自分が、その場にいた方が話を運びやすいし、けじめもちゃんと付けたいと、一緒に行く言っていた。だが、レオスが激しく反対したので、結局、駅でエルトたちを迎いした後、レオスと入れ替わって、3人は森に入った。


「レオスのやつ、なんでコルチカムさんと一緒に行くのそんなに嫌がるんだ?」とちょっと無神経な質問をしたエルトに、ノヴァーリスはすぐに


「もうエルトくんは鈍感だから。あれですよ、娘さんと一緒に親への挨拶の心の準備がまだ出来てないんじゃない?ね?コルちゃん!」とフォローした。


「もうレオス様は恥ずかしがり屋なんだから」とレオスのことになる途端、非常にちょろくなるコルチカム。


「えぇ…?昨日やり合ってるのに?」


「娘の親にイチャイチャしてるとこを見られるの恥ずかしいですよきっと」とノヴァーリスはエルト側にそう言った後、更にエルトにしか聞こえない小声で


(エルトくん!コルちゃんいるんだからこの話題は無神経過ぎるよ)と言った。


(ご、ごめん)


実際、ノヴァーリスの言ったことは当たらずも遠からず、レオスが嫌がるのは別にコルチカムの事が嫌いな訳ではなく。敵であるキボルスに、コルチカムが自分へのアプローチを見せたら、本当にシャレにならないと思って、彼女が来るのを反対した。ただ、レオスも分かってる、彼女がその場にいた方が絶対に自分より役に立つと思って、自分は支部に帰る事を選んだ。


3人が話をしながら森の中に進み、なんとか空が暗くなる前に、祠に到着した。キボルスは既に祠の外に待っている。どうやら彼は1人でレイニアーから森の中央部を経由して、直接にこの祠まで来た。


「よ~兄ちゃん、遅えじゃねえか?」


「…お父さん」とエルトよりも先にコルチカムがキボルスに話を掛けた。


「…コルチカムか、はっ、元気じゃねえか?まぁ、今はそんな事より、兄ちゃん達がほしがってるものを持ってきたぜ」


「え?姉さんの剣を持ってきた?」


「ああ?姉さん?何の話だ?」とキボルスはエルトに質問を返した。


エルトはキボルスの質問の意図が分からなく、混乱した。そう、エルトは忘れている、自分がエノテラの弟である事を話したのは、前回の、自分がキボルスに殺された時の話だ。今回のキボルスにその話をまだ一度もしていない。それを思い出したエルトはキボルスにこの事を話した、今更隠しても意味がないからだ。


「僕はエノテラの、あの黒い剣の持ち主の弟だ!」


キボルスはエルトの言葉を聞いた後、前の世界と同じ反応をした。


「ハッハッハッハ、こりゃ面白い!あのバケモノに弟がいるとは?兄ちゃん、君は今年で何歳になる?」


前と同じ反応で、同じ質問、だが、何故キボルスはこんな質問をするか、エルトが分からなく、


「姉さんはバケモノじゃない!それに、僕の年齢がどうした?」と今回は彼がキボルスに反問をした。


だが、キボルスのまさかの回答は、誰もが想像を出来なかった。


「いや、彼女は紛れもなく、正真正銘のバケモノだ!」と言った後、少し溜めて、更に


「だから、惚れたんだ!俺は。彼女に、あのバケモノじみた強さに!」


「ええええええええええ??」どう反応すればいい分からなく、一同が驚愕をした。


「ちょ、ちょっと待ってよキボルスさん、あなたは何を言ってるんだ?ね、姉さんに、ほれ…た?」


「そうだ!はっ、ちょいと、昔話をしようじゃねえか?」とキボルスはそう言って、エノテラとの出会いを話し始めた。


キボルス、彼がまだ20代の若い頃に、とある大陸を揺らがす大きな出来事をきっかけに、エノテラとの出会いを果たした。その出来事とは、旧王国のクーデター事件だった。


「俺はな、当時、尊王派として、25年前の戦争を参戦したんだ」


「ね、エルトくん、25年前の戦争って、何?」とノヴァーリスがエルトにそう聞いた。500年もの間に寝ている彼女は、最近の出来事が知るはずもないからだ。


「あ、ええと、そうだな、学校で学んだけど、まぁ、簡単に言えば、連邦の内戦だよ。詳細は僕にも分からない…覚えてないんだ」とあまり勉強が好きじゃないエルトは頭を掻きながらノヴァーリスに答えた。


「なるほど、だから今は王国じゃなく連邦て訳か」


「そうか、御子さまは知らねえか…んじゃ、まずそこから話すか」と、キボルスはその戦争を簡単に纏めて若い3人に話した。


今の地図にある≪イングルウッド連邦≫は25年前、≪イングルウッド王国≫は最初、王国内部にクーデターが起きて内戦爆発。そして、王国軍と革命軍の戦火が広がり、最終的に北にある≪バーバンク帝国≫、≪クラークデール独立商業都市国家≫や、南にある≪トーランス公国≫など諸国を巻き込む形で大陸全土の戦争となった。開戦から5年後、王国軍が負け、王政が終了、旧王国と周辺の王国を支持した国が解体し統一、≪イングルウッド共和国≫と名乗った。


共和国となった後も、尊王派が政権を取り戻せれば、クラークデール武力併合を黙認するという見返りとして帝国に助けを求めたが、後にクラークデールが尊王派と帝国と取引を知って、共和国側に付き、軍隊を持たないクラークデールは兵の代わりに資金を共和国に提供し、局面は尊王派と帝国vs共和国とクラークデールの「内戦」を続けた。そして8年前、12年も続けていた戦争のせいで、共和国がいよいよ疲弊し、まともな兵力がほぼなく、これ以上戦いが続けば負けるという時に、帝国の突然の裏切りによって、尊王派が敗北して、痛め分けの形で共和国が勝利した。最後は両国が講和してこの戦争に休止符を打った。


戦争からさらに1年後、今からの7年前、自衛手段がないクラークデールは帝国の武力を恐れ、条件付きで共和国への併合、今の≪イングルウッド連邦≫となった。


「そうそう、そんな感じだった、けどなんか学校の先生が教えた話と微妙に違うような…」とあまり真面目に勉強してなかったエルトはちょっと悔しい感じだった。


「そうなんだ、それで、キボルスさんはエノテリアさんとどこで出会ったの?」と、ノヴァーリスは無意識にエノテラの事を彼女の本名、エノテリアと読んでいた。


「エノテリア?誰だそれ?」


「あっごめん、気にしないでくださいキボルスさん!エノテラさんと言いたかったんです」


「……25年前のクラークデールだ。当時の俺は、尊王派の一員として、クラークデールを遊説に来たんだ、≪トーランス公国≫大公の長男としてな」


「え?大公の長男?うそ?あなた貴族なのかキボルス?」とエルトは目の前にいるどう見ても貴族に見えず、筋骨隆々の大男に聞いた。


「私も初耳です、お父さん」と、のコルチカムも知らなかったようだ。


「元はな、今は兄ちゃんも知ってる"テロリスト集団"の隊長だ」


キボルスは当時、中立と宣言したクラークデールに尊王派を援助してくれないかと説得役として大公の父に派遣された。ただ、実際はそんな平和なものではなかった。あの時、まだ若い彼は遊説なんて面倒だから、武力を示して脅迫すれば、軍を持っていないクラークデールは必ず王国側に傾くだろうという浅はかな思いで、勝手に公国の精鋭騎士をクラークデールまで連れて行った。当然、クラークデールは警察を出動して抵抗したが、流石に騎士たちに敵わなく、あっさりと制圧された。


町を制圧したキボルスは騎士たちに通信魔法を使って、大公と国王に知らせしようと指示したその時だった。突然、どこからか分からない、優しいと共に、すごく威圧感を感じた女の声が、空に反響してるように、こう言った。


「一度しか言わない。今すぐ、クラークデールを開放して、騎士たちを連れて国に戻りなさい!」

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異世界転生すると思ったらすでに異世界な上に転生ですらない件。 エスエル @ken_essiel

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