エピーソード21

宿に戻った3人は、ノヴァーリスがスマコンをマントの下から取り出し、支部に通信魔法をかけて、「ゲーム」の経過と結末をビオラとコルチカムに詳しく報告した、1点を除いて。それは、キボルスがゲームが終わったにも関わらず、エルトに不意打ちをしたこと。コルチカムに余計な心配させたくないから。


「と、いうわけで、今はキボルスさんの連絡待ちです、だからビオラちゃんもコルちゃんも心配しなくていいよ、おやすみ」


「ボクはエロトさんの事を心配なんて、してないです」


「あら、ビオラ様、ノヴァーリス様は一言もエルト様だけ、とは言ってないよ、ふふ」と、すきあらばビオラをからかうコルチカム。


「こ、コルさんうるさいです!とにかく、みんなさんお疲れ様です、お休みです」とビオラが通信を切った。


通信終わった後、ノヴァーリスはスマコンを再びマントの中に戻し、


「とりあえず今日はお風呂入って、休みましょ?」と言って、エルトとレオスを部屋からお追い出した。


追い出された男子たちは隣の部屋に戻り、レオスはまだ先の事を引きずってるらしく、2人だけになった途端、気まずそうな空気が部屋の中に漂ってる、エルトもそれを気づいた。


「レオス、先に風呂入っていいよ」


「いや、エルトが先に入っていいよ、ぐたぐただろお前」


「いやいや、レオスが…」、「いやいやいや、エルトが…」と、2人が変に譲り合って、そんなやり取りが段々面倒くさくなって、


「ああめんどくせえ、一緒に入るか」と、微かに危ない匂いをしなくもないレオスの発言に、それを聞いたエルトは、ドン引きした顔で


「…ごめんレオス、気持ちは嬉しよ、でも、僕はそんな興味がないんだ」と答えた。


エルトの答えを聞いて、最初は何言ってんだこいつ?と、意味不明な顔をしていたが、しばらく考えた後、ようやくエルトの言葉の真意を解り、少々興奮気味で


「ちっげえわアホ!俺だってそんな趣味ねえよ、ふざけるなお前…ああ、なんか考えただけでちょっと鳥肌立ったわ今」と弁明した。


レオスの必死に弁明してる姿を見て、エルトは


「ぷっ、ははははは」と笑った。その笑った顔に釣られて、なんだかうじうじしてる自分がアホらしくなってきたレオスも、一緒に笑った、そして、最後に


「なぁ、エルト、ごめん…色々と」と言った。


レオスの謝りに対して、エルトは「ああ」と答えた以外、他に何も言わなかった。それは、彼はレオスの事をよく知っている、変に許す許さない意味を含んだ言葉を返したら、彼のプライドを傷ついてしまう、だからエルトはこうして単純に了解する言葉を選んだ訳だ。


めっちゃ嬉しそうなレオスは、エルトの肩を組んで


「よし、そんじゃ、一緒に風呂入っろか」と、結局一緒に入りたかった。


「いや、だから何故そうなるんだよ」


「別にいいじゃん、久しぶりに幼なじみ水入らず喋ろじゃねえか!」と、強引にエルトを風呂場まで引っ張った。


-------------------------------------翌日-------------------------------------

朝、3人が起きて、顔を洗った後、とりあえずノヴァーリスの部屋に集合し、これからどうするかを話し合う事にした。


「とりあえず、朝ごはん食べながら話しましょ?下の酒場はこの時間帯でも営業してるかな?」とノヴァーリスは提案した。


「んだな、腹減ったしな」


下の酒場に到着した3人、そこは既に営業してる。朝は夜と違い、裏社会の人だけでなく、もの好きな観光客もかなり来ていて、賑やかな酒場となっている。3人は、適当な場所を座り、朝飯を頼んだ後、やたらと上機嫌なレオスを見て、ノヴァーリスは


「あれ?レオスくん、機嫌がいいですね?逆にエルトくんはあまり元気ないけど、2人共どうした?」と聞いた。


「いや、昨日久しぶりにエルトと一緒に風呂入って、昔話とか、今後とか色々話の花を咲かせたな、な、エルト!」と、何故かノヴァーリスに昨日一緒に風呂入った事をバラしたレオス。


レオスの大きな声が、酒場にいる人達も聞こえてるみたいで、みんながレオスとエルトを注目して、ざわざわし始めた。もちろん、ノヴァーリスも例外ではない。


「あらやだ、ミシェルさんだけじゃなく、レオスくんまで、エルトくんは男にモテモテですね」とノヴァーリスは片手を口に飾り、もう片手を招き猫みたい。完全に町中にいる、噂話大好きな奥さんたちみたいなポーズをして、さらに


「大丈夫ですよ、私はこういうの気にしないから、むしろ、もうちょっと詳しく聞かせて?」と。気にしないと言うより、むしろ興味津々のノヴァーリスである。


「レオスおまっ、ノヴァーリスに言わなくていいってそんな事!というか何もないから、マジで、ガチの、本当に!話をしただけだから」と、男と一緒に狭い風呂に入った事をノヴァーリスだけじゃなく、酒場にいる全員に知られたエルトは、先より凹んだ。


「別にいいじゃん、公衆浴場とかたまに行くだろ?」レオスは公衆浴場と同じ感覚で、全然気にしなかった。


「あのさレオス、公衆浴場は広いし、公衆施設、みんなが入ってる!部屋にある完全に1人用の風呂場と比較しないでくれる?」


「いちいち細けえなエルトは」


「お前が大雑把すぎだよ!後ね、レオスお前、ぜったいに!ぜったいにコルチカムさんに言うなよ」


「いや、言うつもり無いけど、どうして?」


「バカかお前、そんな事、コルチカムさんが聞いたら、僕100%殺される!」


「いや言わないって」


2人のやり取りの傍らに、ノヴァーリスはスマコンを手にしてる、どうやら誰かと通信してるようだ。


「あ、もしもしビオラちゃん、コルちゃん、ね、ね!聞いて、あのね、昨日レオスくんとエルトくんが…」


そう、男2人が一緒に風呂入ったまでしか聞いてなかったノヴァーリスは、早速この興味津々のニュースをビオラとコルチカムに共有したいと思って、彼女たちに通信を掛けた。それを見たエルトは今まで見たことのない、まるでエノテリアの≪加速アクセラレーション≫を使ったようなスピードでノヴァーリスのスマコンを奪い、一方的に通信を切った。


「どうしたのエルトくん?顔、すごく怖いよ」とマジで状況が分からないノヴァーリス。


「ちょっノヴァーリス!僕の話聞いた?コルチカムさんが知ったらヤバいって、主に僕が!」と冷や汗が止まらないエルト。


「え?なんで?」とノヴァーリスちょっと首を傾げた。


「なんでって…ああもう、とにかく、別の話題しよ?な?お願いしますよノヴァーリスさん!」と大げさに頭を下げたエルト。


ちょうどこの時、酒場の親父が何故か自ら飯を運んできて、しかも頼んでないものまで持ってきた。男2人はこれは自分たちのじゃないと親父に話そうとした先に、親父が


「おはよ、ノヴァーリスちゃん、今日も朝から元気がいいね!はっはは、これはおじさんサービスだ、ゆっくり食べな」と言葉を残してバーのカウンターまでに戻った。


「???」レオスは本当に状況が分からず、???となっている。


「え?知り合いなの?昨日来た時は全然そんな風に見えなかったけど?」と、エルトはノヴァーリスに訊ねた。


そのノヴァーリスは美味しそうに朝ごはんを口の中に運びながら、


「え?んん、ええと、実は…」と、ノヴァーリスはちょっと恥ずかしそうな顔で、頭を掻きながら説明した。


彼女は昨日、エルトとレオス2人を部屋から追い出した後、風呂入って寝ようとした時、ちょっと小腹が空いたと感じて、酒場に降りて夜食を食べた。その時美味しそうに食べてる彼女を見た酒場の親父は、ノヴァーリスに話し掛けた。そして酒場の親父はかなりノヴァーリスを気に入り、彼女が部屋に戻るまでずっと雑談してた上に、ノヴァーリスが金を払うとした時、親父は彼女を気に入った理由で受け取らなかったそうだ。


「ええ?リスちゃんつれないな、なんで俺たち呼ばないんだよ、ただで飯食えるんだぜ?」とレオスは冗談のつもりで抗議した。


「ひどいレオスくん、私はちゃん呼びに行ったんだよ、部屋の外でノックしたし。でもレオスくんもエルトくんも反応しなかったから、もう寝たかなと思って、だから結局1人で行ったんだよ」


と、言い終わった後、何かを思い出したか、更に


「あっ、そういう事ね?レオスくんとエルトくんは一緒に風呂に入ってるから聞こえなかったか、ごめんごめん」と言って、謝りのポースをした。


「なんで酒場の親父の話をしてるのに、また風呂の話に戻ったんだよ!後、一緒にを強調しなくていいから」とエルトはツッコミをした。


「これは、きっと運命だよエルトくん!運命から逃げないで」と今度は目を閉じて祈りのポーズをしたノヴァーリス。


「の、ノヴァーリスさん…現人神の口から運命を言い出すのは現実味があって、重みが違うからやめて!」とツッコミし過ぎて、朝からひどい疲労感を感じたエルト。


3人は朝ごはんを食べ終わったと同時に、ノヴァーリスのスマコンが鳴り出した。


「え?まさかコルチカムさんの折り返し通信じゃないだろうね?」とエルトは戦慄を覚えた。


「ううん、違うみたい、誰でしょ?もしもし?」


「おはよ、まず俺の名前を口に出すな、そして俺の言う通りにしてくれ、話はそれからだ」


まさかのキボルスからの通信、彼はちゃんと約束を守って、自分からエルト達に連絡をした。だが、彼の態度は普段と違い、すごく用心深く、まるで他の人に知られたくない口調だった。


「あ、おやよキ…あっぶなっ!…はい、どうぞ」と危うく口を滑ったノヴァーリス。


「今からあの森、剣を取った場所で落ち合う。それじゃ」と一方的に話した後「ブツッ」と通信を切った。


ノヴァーリスは2人に名前を出さないよう簡単に説明した後、荷物を纏めて、宿から出て、駅の方向に向かった。

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