pipe dream

悩み

「俺、面白い人になりたいんだ」

「へぇ、かっこつけのお前にしては珍しい。どうしたんだ？ 」

「だって面白ければみんなから好かれるだろ？

　女の子にモテるし一緒にいて楽しいしさ。こないだの若手芸人とアイドルの結婚報道、お前も俺の隣で見てただろ？ あんな風に俺もなりたくなったんだよ」

「まぁ、一理はあるかもな。あの芸人、顔はサルなのに、あんなに可愛い子が奥さんなんてすげーよ」

「そうなんだよ。俺なんて、自分に似た人がテレビに出たからって見た目だけで好かれて、結局、側にいてもため息つかれるだけの毎日。

　お前は面白くて好かれていいなぁ……」

「おいおい、俺はお前になりたいぜ？

　熱い視線なんて受けたこともない！ この通り、初対面の人にはたまに敬遠される見た目だ。

　俺は基本男受けはいいけど、女の子はさ、最初は気軽にボディタッチまでしてくるくせに、長く話してるとどんどん面白さのハードルが上がって最後には飽きられて引かれるんだ。

　それに俺なんて所詮他人の二番煎じ。 ギャグにオリジナリティがねーんだよ。新しいのもテレビ見て参考にしたりして、自分でも考えてるんだけどな。どうしても人様に披露する気になれなくて……」

「老若男女、万人から好かれる前向きなお前にも悩みなんてあったんだな。

　俺は人前で堂々と恥ずかしいギャグ言えるのはすげーと思うぜ？ 大爆笑じゃないけどお前と話してる人はいつも笑顔だ。

　俺なんて、見かけ倒しで度胸がなくて何も言えないし、今も昔も目の前で声を出して笑ってもらえたことさえない。

　はぁ……他人と笑いあえないなんて、俺はこれからどう生きていったらいいんだろう……」

「おい、しょぼくれてると色男が台無しだぞ？

　いつも言ってるだろ『辛いときこそ笑え』って。お前みたいなのが最後には勝ち組になるんだよ。

　俺みたいなのは年とると周りに引かれんだ。最近、加齢で声もしわがれてきた気がするし」

「んー、お互い悩みは尽きねーなぁ。

　前向きに、これからも一緒に笑って頑張ろうぜ！ 」

「もちろんそのつもりだ。誰だってないものねだりで生きてんだ。

　みんな同じだよっ！ 」

　◇

　がちゃっ

『あー疲れた。もう働きたくない。

　まじ人生しんどいわ。くそぉ……』

　ぱこんっ

「チクビーーム！！！ハッハッハッハッ！　つらい時にコソ笑えっ！ 」

『ははっ、お前は頭叩かれても、いつもバカみたいに楽しそうだな。同じ言葉でも、あのパワハラくそ上司が言うと本気で殴り倒したくなるのにな！』

　ちらっ

『こいつは……いつまでも変わらずかっこいいとかマジ最強チートだな。

　その腹筋、毎日眺めて目標にしてたのに俺のは……。もう人間やめたいわ！

　いいなぁ、お前らはずっと楽しそうで』

　男の見つめる先には、

　芸人のおしゃべり人形と、

　アニメキャラのフィギュアが仲良く並んで笑っていた。