ハリウッドの王

泊瀬光延(はつせ こうえん)

ある女優の映画プロデューサからのセクハラ告発より

The King Of Hollywood

 ハリウッドの王


 令和4年7月14日の朝日新聞夕刊の第一面に、M子という中堅女優の映画プロデューサーによるセクハラ告発記事が出た。ハリウッドの同じ様な事件の後にまだ続けているのか(時期の前後は分からないが)という、糾弾されている人種の思考能力の欠如に驚くばかりである。

 映画の歴史は日本でも長いはずであるのに、なぜ近年まで問題にならなかったのだろうと不思議に思う。私も男で、権力を持てば同じ様な下俗な人種に堕ちないかというと、それは自信はない。自信があると言えば偽善という定義が当てはまるからこう書いているのだろう。そういう環境に生き合わせなかったのは幸運と言える。

 しかし、人の嫌がることをやる趣味は私はついに持ち合わせていないので、敢えて偽善かもしれないが、物書きという性分なのでこういう文章を書くのだ。



 1979年にアメリカのロックバンドEaglesの「Long Run」というアルバムにすでにこんな歌がある。


The King Of Hollywood


Well, he sits up there on his leatherette

Looks through pictures of the ones that he hasn't had yet

When he thinks he wants a closer look,

he gets out his little black telephone book

(He's calling, calling, calling

He's calling, calling, calling

He's calling ,calling, calling

He's calling)


"Come sit down here beside me, honey.

Let's have a little heart to heart.

Now look at me and tell me, darlin',

how badly do you want this part?

Are you willing to sacrifice?

And are you willing to be real nice?

All your talent and my good taste,

I'd hate to see it go to waste."

"We gon' get you an apartment, honey.

We gon' get you a car.

(spoken) Yeah, we're gonna take care of you, darlin'.

We gon' make you a movie star.

For years I've seen 'em come and go."

He says, "I've had 'em all, 'ya know.

I handled everything in my own way.

I made 'em what they are today."


After 'while nothin' was pretty.

After 'while everything got lost.

Still, his Jacuzzi runneth over.

Still he just couldn't get off.

He's just another power junky.

Just another silk scarf monkey.

You'd know it if you saw his stuff.

The man just isn't big enough.

(by The Eagles)


 自分なりに訳してみると下のようになった。



ハリウッドの王

 さあ、彼はレザーレットの椅子にふんぞり返り

 まだものにしていない女優の写真を見ている

 ちょっと味見したいのがいれば

 彼は黒い小さな電話帳を開く

 (彼は電話する、電話する・・・)


 「ハニー、ここに来て僕と座ってみないかい?

 「気持ちを通じあわせてみないかい?

 「さあ、僕を見て話してごらん

 「どんなにこの役がほしいかを?

 「でも、そのためには何かが必要だよ

 「素敵な役を演じたくないか?

 「君の才能と僕のセンスの融合

 「それをぶち壊しても良いのかい

 「僕たちは君を広い部屋に住まわせてあげるよ、ハニー

 「車だって買ってあげる

 「そうだ、僕らは君の面倒をみてあげる、ダーリン

 「僕らは君を大女優にしてあげる

 「長年、僕はやまほどの女優を見てきている

 彼は言う。そうさ、全部ものにした

 僕はどんなこともほしいままさ

 彼女らを今日の大女優にしてやったんだ


 美しくないことが行われ

 誰かがすべてを失っても

 やつのジャグジーは溢れ続け

 やつはいつまでも同じことをしている

 やつは単なるパワージャンキーの一人だ

 シルクのスカーフを首に巻いたモンキー

 知ってるかい、こういうやつはどんなに有能でも

 下品なやつだということを

 (元歌詞:イーグルス)


 訳している内に腹が立ってきた。Eaglesというロックバンドのメンバーが当時、知っていたことを、なぜ世間は30年も放っておいたのかということを。

 当時、すでに「ホテル・カリフォルニア」で文明風刺と受け取られていた彼らの楽曲は却って、詩的想像世界だと思われていたのであろうか。誰もが単なる人間風刺だと勘違いしていたのかもしれない。


 私は、今ならこぞって取り上げるネタを30年無視していた情報産業に大きな問題があったと思う。つまり「同じ男のやることだから仕方がない」という観念だ。これを男のホモソーシャルな世界というものだ。あれ?と犠牲になっている女性の姿に哀れとも間違っているとも思わないのだ。かつて赤線という歓楽街があったが、そういうところで働く女性はそういうことが好きだから、という「常識」、あるいは「食えなくて仕方がないから仕方がない」という「思考」が支配していた時代なのだ。


 男の自分がこういうことを書いてもあまり意味がないということは身にしみている。でも私は物書きなのだから書く。


2022/7/15


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ハリウッドの王 泊瀬光延(はつせ こうえん) @hatsusekouen

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