第35話 フルメタルシュライバー 「サーチ・アンド・デストロイ」
うどんちゃんが銃を捨てた……。
自ら武器を手放した彼女を如何様に見るか。
皆さんならどうでしょうか。
或いは戦意喪失。若しくは戦闘放棄。
いずれにしてもそれをチャンスと見て一気呵成に攻め込んでいくのでしょうね。
なるほどね。
……俺?
俺ならどうするかって?
どうって、逃げるに決まってんじゃねーか。
うどんちゃんにとってハンドガンなんてものはアクセサリーみたいなもんで、お洒落の道具でしかない。それが分かってない奴らがどんな目に遭ってきたことか……。
シュライバーに処女を捧げたと、うどんちゃん本人は言う。
タチの悪い
うどんちゃんと一夜を共にすれば、それが分かるだろう。
立てば
誰が言ったか知らないが、それはうどんちゃんの麗しさと危険度を見事に表現した言い回しだ。
それほどにうどんちゃんは皆に愛され、同時に畏怖されてもいるのだ。
彼女が趣味と実益を兼ね、薄皮を重ねるがごときカスタムを繰り返して誕生した彼女オリジナルのシュライバー・『サーチ・アンド・デストロイ』
完全武装のシュライバーが今、起動する。
うどんちゃんは放り投げた銃を一瞥もせず、ネクタイを緩めてシャツの襟のボタンを外した。
それを待つように、紅蜂は動かない。
恐らく、本当に待っていたのだ。
うどんちゃんの準備が完了するのを待っていたのだ。
うどんちゃんもそれを察したように、悠々と準備を進めた。
紅蜂はうどんちゃんの『サーチ・アンド・デストロイ』を……その狂気を察知し、それを堪能するために、待っていたのだ。
紅蜂もまた、狂気を飼っている。
「……お待たせ」
うどんちゃんがそう言うが早いか、紅蜂は飛び出した。
おあずけを食らっていた犬の様に、全速力で飛び出したのだ。
「さあ、さあ、さあ!」
紅蜂の瞳がぎらぎらと輝く。
うどんちゃんは期待に応えるように笑うと、ぱっと足を開いて腰を落とした。
その時だった。
俺達の側にあった瓦礫の山から千鶴さんが顔を出して叫んだ。
「
千鶴さんは瓦礫の山に隠れたままやり過ごそうと思っていたみたいだけど……残念。うどんちゃんのシュライバーは起動してしまった。
直後、腰を落としたうどんちゃんの下腿が
膝から下のズボンが吹き飛び、同時に杭のような物が前後左右に飛び出して瓦礫に突き刺さり、アウトリガーのようにうどんちゃんを固定する。
「〜〜っ!?」
その異様に警戒し、急停止を試みる紅蜂だったが、一瞬遅かった。
アウトリガーの射出と同時にうどんちゃんの両大腿部からズボンを切り裂いて飛び出した黒い2つの物体が、うどんちゃんの手により瞬時に組み立てられた。
それは、マシンガンだった。
「六花! 伏せろ!」
俺が六花に覆い被さるように伏せたと同時に、凄まじい銃声と衝撃が連続して俺達を襲った。
「きゃっ!」
六花が年相応な悲鳴をあげてしまう程、その爆音は凄まじく、マズルフラッシュは熱すら伝わる閃光。
戦闘機の機銃かと思うほどの爆音が、それに相応しい威力の銃弾を発射している!
うどんちゃんのマシンガンは普通じゃない。
あのアウトリガーは、射撃の反動が強烈すぎて後ずさるのを防ぐためのモノだ。
通常のマシンガンに比べれば、うどんちゃんのマシンガンは高速連発式の対戦車ライフルと言ってもいい。
そんな代物を乱射するのだから俺達まで本気で危ない。
弾丸の直撃で壁は崩壊し、瓦礫はさらに爆砕する。跳弾が無差別に破壊する。撃てば撃つほど被害を広げるそのさまに、千鶴さんが叫んだ。
「もうほんとやめてよーーー!!」
しかし、
しかしだ。
その弾幕の只中にあって、紅蜂はまだ健在だった。
まるで遊園地のアトラクションを楽しむ子供の様に、破壊の雨を避けきっていたのだ。
「あはは! あははは!」
甲高い笑い声と共に破壊を掻い潜って接近する紅蜂を、うどんちゃんも笑顔で迎え撃つ。
「おお、やるじゃねーか!」
しかし突然、歪な異音を立ててうどんちゃんの射撃が止んだ。
連射の熱で銃身が赤熱し、半ば暴発するような形でマシンガンが自壊したのだ。
「チッ! もうちょい頑張れよな!!」
うどんちゃんがマシンガンを投げ捨てると、アウトリガーは瞬時に彼女の下腿に吸い込まれていき、同時に白兵戦の間合いに迫っていた紅蜂の斬撃がうどんちゃんの眼前を横切っていった。
「……っ!?」
空振りしたナイフを一瞥した紅蜂。
まさか回避されるとは思わなかったのか、その瞳の迷いをうどんちゃんは敏感に察知していた。
「あたしがドンパチやるしか脳がねえ馬鹿だとでも思ったか?
うどんちゃんは思い切りのけ反り、力を一杯に溜めてそのパワーを自分の額に集中させ……一気に開放!
そして鈍すぎる低音が紅蜂の額で炸裂したのだ!
ごん!!
うどんちゃんの必殺頭突きが紅蜂の小さな額で炸裂し、続く乱暴な前蹴りが紅蜂の小さな身体を吹っ飛ばした。
「〜〜ッ!」
紅蜂はゴロゴロと回転しつつも即座に起き上がり、構えた。
その様子にダメージは見受けられない。
むしろ、さっきより調子が上がっているようにすら見える。
それを見たうどんちゃんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「今度はお前の番だぜ紅蜂!!」
一喝すると、うどんちゃんはさっきのお返しと言わんばかりに声を張った。
「見せてくれよ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます