第20話 六花はどうしたいのか

 ダイニングへ戻ると、六花は千鶴さんからもらった端末ケータイを睨んで固まっていた。


「どうしたの?」

 千鶴さんが声をかけると、六花は慌てた様子でケータイを仕舞い、

「な、なんでもないっ」

 と、なんでもなくない様に言った。


 その妙な感じが気になった俺と千鶴さんだったがとりあえずそれは横に置いといて、俺は言った。

「あのさ、これからの事なんだけど……」

 俺が言いかけると、六花は割り込むようにして言った。

「この辺りを統括している人物を紹介してくれないか?」


 突然の申し出に俺達が面食らっていると、

「或いは『手配師』のような人物でも構わない。出来ればその元締めのような人物が好ましいのだが」

 なんて事を言うではないか。

 手配師とか元締めとか、イメージはよろしくないよねぇ。

「……お前にとってこの街の人間はそんなにガラ悪く見えてんのかよ」

「そうは言ってない。なんというか、『頼れる存在』ならなんでもいいんだ。この街の全体をよく見渡せているような……そんな人物を紹介してほしい」


 そうまくし立てる彼女に、俺と千鶴さんは顔を見合わせた。

「……理由は?」

「それが私の探している人物に繋がる可能性が高いからだ」

 彼女はまるで自分に言い聞かせるように言い、うんうんと頷いた。


 まあ、云わんとする事は分かる。

 人探しは情報収集が肝なので、地域の有力者とパイプを作るのは目的達成への近道には違いない。しかしだ。

「統括とかいわれてもなぁ……」

「元締め、ねえ……」

 俺も千鶴さんも考え込んでしまう。

 パッと出てこないのだ。

「是非、頼む!」

 六花はその場に正座し、深々と頭を下げた。

「ちょ、そこまでしなくても」

 千鶴さんはすかさず顔を上げさせたが、六花の様子はさっきから妙だ。

 何て言うか、焦ってるというか、強引というか……。

「とにかく顔を上げて、六花ちゃん」

 そう言い、千鶴さんは探偵のような仕草で思索を巡らせた。

「……この街を仕切ってる人ってことかな? でも、いっぱい居るからねぇ」


 千鶴さんの言うようにこの辺りはみんな勝手に色々やってるから、みんながみんなボスといえばボスなので纏めてる奴を紹介してって言われてもちょっと困るのだ。


(うーん、やくざ者は論外だよなぁ)

 俺がそんな風に腕を組んで首をひねっていると、千鶴さんは何かひらめいたのか『ポン』と手を打った。

「組合長は?」

「……おお! その手があったか!」

 俺達が盛り上がっていると、六花は首を傾げていた。

「くみあいちょう?」

「『シュライバー管理組合』っつーとこの責任者的なおっさんだよ。この辺の仕事人を仕切って……るとまでは言えないけど、みんなからの信頼は厚いかな」


 俺の組合長に対する評に、千鶴さんも頷いて応えた。

「そうね。あの人なら人脈も広いし、情報も集まってくるし、適任ね」

「そうと決まれば早速お目にかかりたい! どこに行けば良いんだ?」

 食い気味で六花が身を乗り出した。

 ……なんかすごい焦ってるっぽいんだけど、何でだ?


「く、組合の事務所にいるだろうけど、会ってどうするんだよ」

「無論情報収集だ。それに、私の身の潔白を証明したい」

「潔白? シュライバー破壊魔は自分じゃないって?」

「その通り。私はやってない!」

 …………いや、でも。


「……俺の事、斬ろうとしたよね?」

「それでも私はやってない!!」

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