第19話 手と手を取って
俺と千鶴さんは六花をダイニングに残し、地下にある千鶴さんの秘密工房へとやって来た。
ふたりきりで話しをするならここがベストなのは間違いないし、俺は例の『アレ』を確認しておきたかったのだ。
アレというのはアレだ。前述の通り、六花の言っていた『盗まれたシュライバー』のことであり、俺の目線で言えば『拾ったシュライバー』のことだ。
「カギ壊しといて拾ったはないでしょう」
とは千鶴さんの意見。
しかし、俺はあくまでも拾得物であるという認識であった。
「いやいや千鶴さん、俺は中身を確認したかっただけなんだって。持ち主の手掛かりか何かが見つかるかもしれないじゃん?」
「手掛かり?……今となっては、あなたの言う通りかもね」
「え? どういう事?」
「六花ちゃんの事。あのシュライバーが橘製作所の製品ってことなら、あの仕上がりも納得だわ。ああ、成程ねって感じ」
なんのことかよくわからないけど、千鶴さんは俺の疑問を素通りするように部屋の明かりを全部点けた。
地下室っぽい電球色の薄暗い明かりが、工具だらけの部屋を照らす。
真ん中の作業台の上には、例のシュライバーがあった。
しかし意外なことに、ここに持ち込んだときのままの姿だった。
俺はてっきりバラバラにされてるとばかり思っていたので肩透かしを食らったと言うか、純粋に驚いたと言うか……。
「……え、ええと」
俺が言葉を探していると、千鶴さんはそれを遮るように言った。
「
「出来ないように? なんで?」
「恐らく、これは橘製作所の新作シュライバーの試作品なんだと思う。そういうのは産業スパイ対策で簡単に解体して解析出来ない様にしてあるのよ。これは相当厳重に保管されてたんだと思う。あの子、とんでもないものをjpに持ち込んでくれたわ。まぁ、『ここ』に持ち込んだのはハナくんだけどね」
「それはもうホントごめんね」
千鶴さんの表情が冴えない。何て言うか、深刻だ。
俺は責任を痛感し、それなら……と、とっておきの妙案を提案してみた。
「返しちゃえば? さりげなーく、それとなーく」
至極シンプルな解決案だと自分でも感心したが、千鶴さんの反応は違った。
「仮に上手く返せても、六花ちゃんが矢面に立つでしょうが。自分の
千鶴さんの視線が鋭い。
その反応は「オメーがカギまで壊して置き引き紛いの事するからだろーがこのおバカ!」
という非難のメッセージが込められている気がしてならなかった。
「とにかくこのシュライバーをこのまま返す訳にはいかないわ。私達の為にも、六花ちゃんの為にもね」
「じゃあどうすんのさこのシュライバー。しばらく預かってくれんの?」
「今更動かせないし、そうするしかなさそうね」
確かに今、ここからこのシュライバーをどこかに移動させるあてもないし、誰かに見られるのも良くない。
千鶴さんの出した結論に異議ナシだ。
「そうなると、問題はあのサムライちゃんだね」
俺が作業台の脇にあった椅子に腰を下ろすと、千鶴さんは耳から例のシュライバーを外した。
「『イーカード』の分析では、あの子は嘘をついてないわ。むしろ自分の発言に自信を持ってる。ただ、なんていうか……幼さみたいなものは隠しきれてないわね」
「偉そうな喋り方してるけどガキはガキってことか。お家に連絡して、迎えに来てもらうか自分で帰ってもらうのが一番じゃね?」
「すぐには無理よ。今帰ったらあの子も、私達だってこのシュライバーの事で橘から追及されまくるわよ。まずはその辺を上手いこと回避しつつ、六花ちゃんのこともケアしてあげないと」
「ケア? 何を?」
「鈍感ねえ。あの子だって相当な覚悟と勇気を出してjpに来てるはずよ。つまり、それ相応の理由があるんだと思う。それはきっと、人探しとは別の理由なんじゃないかな。思春期の女の子だもの。色々無い方がおかしいわ」
「んー……すぐには帰れないとして、あのサムライちゃんはどこで誰が面倒見るの? 千鶴さん
「ウチは無理よ。工場の仕事もあるし、このシュライバーが見つかりでもしたら大変じゃない」
「じゃあうどんちゃん……いや、絶対断られるな。だったらA子ちゃんかな……」
俺が腕を組んで考え込む仕草で唸ると、千鶴さんはさも当然のように言い放つ。
「それはハナくんが面倒見るしかないでしょ」
「……え? いやいや、それはないわ〜」
いきなりなにを言い出すかと思いきや。
俺は吹き出してしまった。
「大体、なんで俺なんだよ」
「そもそもあなたが発端でしょ? 六花ちゃんの件といい、このシュライバーといい」
「六花の件は不可抗力じゃね? シュライバーの件は偶然だって」
「何にせよ、責任が無いとは言わせないわよ」
「……百歩譲ったとして、面倒見るったって何を見るんだよ」
「ここでの生活とか、これからの人生とか?……私に訊かないでよ」
「
「だから私に言わないでって」
……なんていうか、大変なことになりそうというか、なってしまったというか……。
「とりあえず戻りましょう。六花ちゃんが心配しちゃうわ」
そう言って部屋の明かりを消す千鶴さん。
突如広がったその暗闇が、俺の心境と被って心底不安だった。
いやいやどう考えても無理だろ……?
だって、相手は16歳の女の子だぞ……。
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