第6話 書を捨て面接に出掛けよう!
シュライバー管理組合、と聞くといかにもお堅い集団のようにも思えるけど、実際は単なる地域のまとめ役みたいなもので、その事務所も冴えないおっさんが事務員の女の子とふたりで切り盛りしている寂れた雑居ビルの一室だ。
だいたいシュライバーなんてどこの誰がどんなシュライバーを使おうが自由なわけで、管理される理由も筋合いもない。
とはいえ、ある程度はルールを決める必要はある。その役割を管理組合が果たしていた。
ルールって言っても【ここまではオッケー、ここからはアウト】みたいな曖昧なモノだけど、俺達みたいなシュライバーを商売道具にしている面々はそれを守り合うことで信頼関係を維持しているのだ。
俺はあの後、うどんちゃんに背中を押される様にハロワで求人申し込みをしたのだが、意外な事に先方からすぐにでも来て欲しいと即採用のお言葉を頂戴した。
すんなり過ぎて逆に嫌な予感がしたものの、背に腹は代えられない。
俺はハロワでもらった案内状をポケットにねじ込み、裏通りの一角にある組合の事務所に向かったのだがもうすぐ夕暮れ時なのでさらに腹が減って来た。
やっぱりうどんちゃんとうどんを食べに行っときゃ良かった。
管理組合の事務所がある雑居ビルはいつ来てもあらゆる所が薄暗くて小汚いけど、俺は嫌いじゃない。こんな所だからこそ肩肘張らずに居られるからだ。
でも、今日はいつもと雰囲気が違った。
ビルの入り口にいかにもな高級車が横付けされ、狭い入り口を塞ぐようにサングラスをかけたいかつい男が2人、横並びに立っていた。
嫌な雰囲気だけど、引き返す理由も無い俺はとりあえずその門番的なヤツの右側の方に声を掛けた。
「こんちわー。お偉いさんでも来てんのかい?」
冗談めかした口調で近付いてみたけど、男達は眉ひとつ動かさない。
「何か御用でしょうか」
男達は 2人同時に、全く同じ声で、嫌に丁寧に答えた。
「ハロワからの紹介なんだけど」
「……ハナさん、ですね」
「そうだよ。話が早くて助かるね」
さっきから俺の
こいつらはサイボーグだ。
この口調もプログラム通りなんだと思えば納得だ。
右側の男が俺に右手を差し出した。
「紹介状をお持ちですか」
「もちろん」
俺がハロワでもらった紹介状を手渡すと、次は左側の男が近付いて来て僅かに頭を下げた。
「失礼ですが、ボディーチェックを」
「……いいよ。でも、丸腰だよ?」
「恐れ入ります」
男は俺の自己申告を素通りする様にサングラスを外し、俺の頭のてっぺんからつま先までを舐める様に眺め始めた。
同時に俺の感応センサーが微量なレーザー照射を感知する。
こいつは目に仕込んだ探知装置で俺の身体を検めているのだ。
「……お兄さん、いいスーツだね」
俺がフランクに話しかけても男は無視し、俺のボディーチェックを黙々と続ける。
男は俺の身体を行ったり来たりする様に眺めているけど、俺はその男の襟に付けられている小さなバッジの一点を見つめていた。
見覚えのあるデザインだった。
……あれは『代紋』。
つまり、こいつらはヤクザって事だ。
「嫌な予感、的中……」
俺がため息を吐くと、男はふたり同時に道を開けるように下がり、同じ声で同じ言葉を放った。
「どうぞお入りください。組長がお待ちです」
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