第4話 不可解だけど美しいあの部分
真剣な顔の千鶴さんもカワイイ……ずっとこうして間近で見てたい。
「教えてって言われても、ただちょっと斬られそうになっただけだよ」
「それ『ちょっと』で済ますの?」
「まぁ今思えばヤバかったかなと。でも俺もやられっぱなしじゃなかったよ?」
「……撃ったの?」
千鶴さんは俺の
さすがは千鶴さん。一目でシュライバーを看破するとは。
「撃つ前に逃げてったよ。あ、正確には肉まんを追っかけてったのか」
「なにそれ?」
「肉まん投げたら、それ追っかけてどこかに行っちゃったんだよ」
「……?」
千鶴さんは『まぁ、いいわ……』というような顔で俺から離れた。
……なんか、俺が悪いみたいで釈然としないな。
だから小さく首を傾げて見せると、千鶴さんは鉄男のシュライバーを手に取り、その鋭利過ぎる切断面を俺に向けて言った。
「鉄男くんのシュライバーの硬さは知ってるよね?」
「うん。そんくらいしか取り柄無いしね」
「この断面の綺麗さもだけど、鉄男くんは両足を左から右へ一気に斬られて、同じようにもう一度逆から斬られてたのよ。くの字って言ったらいいのかな」
「……ちょっと見せて」
俺は千鶴さんの持っているシュライバーを受け取り、段ボールの中のシュライバーと交互にそれらを見つめた。
確かに、鉄男は両足を大腿部と下腿部に分けて斬られていた。
千鶴さんの言うとおり、その斬撃の軌跡は「くの字」。
つまり、鉄男の脚は正面から見て膝を跨いでくの字に斬られていた。要するにこの無駄に丈夫なシュライバーが都合4回、しかも一気に斬られているのだ。
今気が付いたけど、腕まで斬られている。
しかも上腕……これじゃあ反撃のしようもない。
腕が先か脚が先かはわからないけど、どちらが先でもその時点で勝負ありだ。
鉄男はアホだが、かなりの実績がある。喧嘩も強い。
そんな鉄男が、一気に……と言うより一発で、一瞬のうちにやられたのだろう。
そんな俺の心を透かして見るように千鶴さんは言った。
「
「だね。この断面がその証拠か……」
それを改めて認識して、俺は震えた。
が、決して恐怖に震えたわけではない。千鶴さんも神妙な表情だが、どちらかといえば興味深いと言った感じの表情だった。
「もう一つ、鉄男くんが気になる事を言ってたんだけど……音がしなかったって」
「音? それってモーターの?」
「そう。モーターの駆動音ね。もちろんマイクの故障じゃ無いし、集音しても拾えなかったって」
「他には?」
「あとは……どんな姿かは暗がりだからよく分からなかったけど、ちょんまげを結ったりはしてなかったって。大きな笠っていうのかな、麦わら帽子のおばけみたいなのを被ってたっぽいそうよ」
「ははは、まるで
笑いながら、俺は昨晩のあいつがそのモンスターで間違いないと確信していた。
「そのサムライが、巷で噂のシュライバー破壊魔って事かぁ」
それを聞いて千鶴さんは「そういうことね」と、どこか可笑しそうな笑みを浮かべた。
「ねぇハナくん。あなた今、他に仕事の予定は?」
「……え? なんで?」
「いいから教えて」
唐突にそんな事を訊いてくる千鶴さん。
つーか、痛いところをつく人だなぁ。
「……いや、入ってないよ。つーかしばらく入ってないよ。分かってて訊かないでよ」
それを聞いて、千鶴さんはにっこり微笑んだ。
「だったら、明日早速ハロワに行きなさい」
「ハロワ? って
「そう。今のあなたにうってつけの仕事があるはずよ」
「……この流れなら、その仕事って……」
「お察しの通り」
シュライバー破壊魔絡みってことだろう。
できればあんなクレイジーとは関わりたくないんだけど、次の飯の種を考えない日はないわけで。
「……いやー、でもね、最近はハロワの仕事も荒事ばかりで大して稼げねーしなぁ」
「働かざる者食うべからずよ。それにあなた、お金が無いのにデートのお誘いをする気?」
イタズラっぽく笑う千鶴さんにどこか怖いものを感じながら、俺はほぼ空っぽの財布を思い出しつつ呟いた。
「まぁ、行ってみるかな」
すると千鶴さんは嬉しそうに微笑んで、
「じゃあ、今日はもうおやすみなさいね」
そう言って俺を送り出そうと立ち上がったかと思いきや。
「……ところで例のアレ、どこで手に入れたの?」
耳打ちするように、そっと顔を寄せて俺にだけ聞こえるようにそう囁いた。
「内緒だよ」
機械油の匂いに隠れて微かに香る千鶴さんのいい香りに胸が高鳴った。
それを悟られないように、俺も千鶴さんにだけ聞こえるように答えた。
「アレ、使えるようになるかな? 」
俺が問うと、千鶴さんは不敵な笑みを浮かべて言った。
「任せなさい。地下の工房に移したばかりだから直ぐには無理だけど」
「地下工房?
「ええ。職人としての腕が鳴るわ」
「そんじゃ、ついでに今日買ったシュライバーの
「それは料金もらうわよ」
「……ツケでお願いします」
そして調整を終えた俺は千鶴さんに見送られ、工場を後にした。
道すがら、俺はおニューの左腕シュライバーの拳を握ってみた。
そして軽くシャドーボクシング。シュライバーとシンクロした胴体、そして脚は自然とボクサーのように動く。
これも千鶴さんの
あの人なら、アレもきっと最高な状態に仕上げてくれるだろう。
「ああ、楽しみだなぁ」
嫌でも胸が踊ってしまうが、その胸にさっきから引っかかるものがある。
「……
行き慣れた場所なのに、今だけはなんだか初めて行く場所のような、なんというか……妙な緊張感を感じていた。
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