番外編3【後編】コスプレ×いちゃいちゃ×ちゅっちゅ

 アリシアの思いつきで急遽開かれたコスプレ会。

 優勝者した人は俺といちゃらぶちゅっちゅをするという賞品が与えられるそうだが……そこに俺の人権は無い。


「くそっ、自白剤さえ射たれていなければ……!!」


「まぁまぁグレイ君。アリシア様も公認なんだから、素直な気持ちで好きな衣装を決めればいいんじゃないかな?」


 主任さん(30歳:好きなコスプレはにゃんにゃん)は、俺の肩に手をおいてほくそ笑んでいる。この人もわりといい性格をしていると思う。


「ふふーん。もうフランちゃんの勝ちは決まりだもんねー」


「いいえ、この私の房中術でグレイ君はメロメロなんです」


「はいはい。そちらのいがみ合いは置いておいて、さぁ次の挑戦者の登場よ!!」


 掛け声と同時に、再びカーテンが開かれる。

 三番目に登場したのは……純白の衣装に身を包んだマインさんだった。


「これは……!?」


「……どうだ? 似合っているか?」


 そう言ってポーズを取る彼女の格好は、俺もよく知っている。

 病人や怪我人にとって、救いの天使の象徴とも呼べる……ナース服だ。


「白いナースキャップに、これまたミニスカな格好は……清純なイメージの中にインモラルさを内包して、その背徳感がまた、俺の中の心をざわつかせている」


「ふっ……そう褒めるな」


「ハッ!?」


「しかしグレイ。私のような無骨な女がナース服、というのもミスマッチだとは思わないか?」


「そうだそうだー!! フランちゃんみたいに可愛い子の方が似合うもんねー!!」


「貴方のような目付きの悪いナースなんていませんよ!!」


 俺が答えるよりも先に、批判の声を上げるフランチェスカとイブさん。

 だが、マインさんはちっとも堪えている様子はない。


「いえ、そんなことはないです。むしろマインさんのこんな一面が見られて嬉しいですし、貴方の鍛えられた脚線美が眩しくて、すっごく興奮します」


「グ、グレイ!! うおおおおおおおっ!!」


「……はぁ、また喋っちゃった」


「難儀ねぇグレイ君。って、マインさんはストップ。興奮しすぎて鼻血が出てるわよ」


「くっ……!!」


「グレイ君のリビドーも高まってきたところで、四人目に行っちゃおっか」


 またまた開かれるカーテン。

 そして出てきたのは、妙な格好をしたレイナ様だった。


「……んっ。どうかな?」


「うっ……!?」


 白い半袖の服に、まるでパンツのような形をした紺色のズボン。

 ただそれだけの格好だというのに、なぜだろうか。


「大きく膨らんでいる胸が、動く度に服と一緒に揺れる。そしてズボンからほんのりとはみ出るおしりのお肉の部分から目が離せない……!!」


「ま、まさか!? アレは……武流魔亜(ブルマー)!?」


「知っているのイブ!?」


「ええ。私の国に古来より伝わる、古の戦闘服です。古武術に適した衣装は己の気を高めるだけではなく、相手の感情をも揺さぶり、その隙を突くと言われています(リユニオール書房:『パンツじゃないから恥ずかしく内悶より』)」


「そ、そんな服があったなんて……たしかに、凄い魅力を感じる」


「んー。なんだかお尻がキツイ」


 そう言いながらレイナ様は、武流魔亜のお尻部分を調整している。

 その動き一つが、俺の中の何かを熱くたぎらせているのが分かった。


「これはグレイ君、かなり大ダメージだねぇ。ここで一気に畳み掛けるのかー!?」


 俺が心を落ち着ける暇もなく、五人目がカーテンの奥から登場する。

 そこに立っていたのは……


「ぴょんぴょーん。バニースズハだぴょーん」


「…………」


 バニーガール。

 カジノではお馴染みの、美女がよくやっているあの衣装である。

 ボディラインをこれでもかと見せつけ、網タイツの脚や、大胆な胸元、引き締まったお尻を惜しげもなく見せつける……あのセクシーな格好だ。


「それに対して、どうだろうか。スズハはたしかに世界一の美人だけど、正直に言ってスタイルはスレンダータイプ。セクシーさを強調する格好とは相性が悪い」


「おおっとー!? ここでグレイ君、辛辣な感想が飛び出したかぁー!?」


「うぅっ……」


「……それなのに、スズハがバニー姿になった途端。もはやバニーガールはセクシーな衣装ではなく、その愛らしさを強調するだけの存在と化してしまっている」


「……ふぇ?」


「本来はウサギをモチーフとしているはずなのに、龍族の角、翼、尻尾があるせいで完全なバニーではなくなっている。でも、それがいいんじゃぁないかぁ……」


「グ、グレイ様……」


「もはやこれはバニーではない。バニーをも越えた究極の可愛さだよ、スズハ」


「~~~~~♡♡♡」


 俺が賞賛の言葉を口にすると、スズハは顔を赤くして両手を頬に添える。

 可愛い。とにかく可愛すぎる。可愛すぎて頭がおかしくなりそうだ。


「ここまでグレイ君が言うなんてね。今度こそ勝負は決まったかと思ったけど、最後には大本命のお出ましだー!!」


 そう、彼女の言う通り……最後にはアリシアが残っている。

 俺が誰よりも愛する女性。

 彼女が俺のために、俺を喜ばせようとするコスプレ。

 その破壊力は、一体どれほどのものなのか……


「アリシア様! ご登場よ!!」


 カーテンが開かれて、アリシアが出てくる。


「……どうかしら? グレイ」


「…………」


 水着である。

 何の変哲もない、ただの水着だ。

 だが、セクシーなビキニやパレオといった形ではない。

 ただの一体型で、何の変哲もない紺色の水着。

 小さい子供が学校で水泳の授業を習う時に着用するような、スクール水着とでも言えばいいのかもしれない。


 はち切れそうな胸元には白い名札が貼り付けられていて、なぜか下手くそな字で「ありしあ」と書かれている。

 もっとも、大きすぎる胸のせいで横に伸びて判別は少し難しいのだが。

 そして首元から下げられている水泳ゴーグル。


 これがまたイイ。


 アリシアの髪がしっとりと濡れていて、水を滴らせているというのもあり、今まさにプールから上がりましたよ、というのが伝わってくる。

 プールの消毒に使う薬の匂いが見るだけで感じられるし、まるで今まさに自分も水着でプールサイドに立っているような錯覚すら覚える。

 

「……グレイ、ワタクシと平泳ぎ競走してみる?」


「~~~~~~~~~~~~~~っ!?」


 ひ、ひひひひ平泳ぎ!?

 クロールですらなく、平泳ぎ!?


 あの、脚を豪快に開いて泳ぐ平泳ぎを……アリシアが!?

 この格好のアリシアがするというのか!?


「なんなら、バタフライしてもいい気分よ」


 バタフライ!?

 そんなの俺の心がご機嫌な蝶になって、一途な風に乗って。

 どこまでもアリシアに会いに行きたくなってしまうじゃあないか!!


「……ふふっ♡ シャワールームで待ってるわね」


 アリシアはそう言い残すと、裸足のままペタペタと更衣室の奥へと消えていく。

 その姿を見送った俺は、ただ静かに後ろに振り返った。


「えー……みなさん。本当にみなさん、とても魅力的な衣装で、俺の心はとても揺れ動かされました」


「「「「「……」」」」」


「この度はご参加頂き、誠にありがとうございました。厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが今回は受賞を見送らせて頂くこととなりました。ご期待に沿えず恐縮ではございますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。みなさんの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」


「「「「「……」」」」」


 俺はそう伝えると、迷うことなくアリシアの後を追っていく。

 そして衣装部屋に併設されているシャワールームへと乗り込んでいった。









「あっ、あっ、駄目、駄目よグレイ……♡ まだ、まだ近くにみんなが……あっ♡」













「んっ、ちゅっちゅだけのはずなのに……なんっ、あっ、んぁ……けだものぉ……♡」












「おっ♡ んぉっ……♡」



















(番外編3 END)






「はぁ、やってらんないよねー」


「くっ……まさかくのいちスタイルが通用しないとは!!」


「結局はこういう扱いなのか……」


「すごい声……まるで獣同士みたい」


「どこかで私も混ざりに行きましょうっと」


「うんうん。やっぱり純愛が最強よねぇ。アリシア様、おめでとうございます」




 結論。やっぱりアリシア様がナンバーワンというお話でした。



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 書籍ご予約コメント&リクエストくださった霧姫様、ありがとうございます。

 今後とも何卒、よろしくお願い致します。

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