番外編3【前編】コスプレ×いちゃいちゃ×ちゅっちゅ

【オズリンド邸 食堂】


 俺がアリシアと結婚し、幸せな新婚生活を過ごしていたある日。

 朝食の時間。唐突にアリシアが、こんな事を言い出した。


「ねぇ、グレイ。コスプレって知ってる?」


「えっ」


 俺はその衝撃的な言葉に、思わず食べかけていたパンを落とす。

 まさかアリシアの口から、そんなワードが飛び出すなんてな。


「えーっと?」


 どう答えていいものか分からず、俺は視線をスズハの方へと向ける。


「はぐはぐはぐっ……!! むぐっ?」


 しかし彼女は大量の朝食を平らげるのに夢中で、話を聞いていなかったようだ。

 ここは俺が答えなければいけないようだ。


「コスプレっていうのは、コスチュームプレイの略だよ。その、キャラクターや職業の衣装を着て、それになりきることを言うんだ」


「ふーん……? 例えばワタクシがメイド服を着てメイドになりきる、みたいなこと?」


「……概ね、そうだな。単純に特殊な衣装を着ることをコスプレ扱いする場合もあるみたいだけど……って、どうしてそんなことを?」


「大伯母様がね、おっしゃっていたの。男というのは、どれほどの美女であれ300回も抱けば飽きてしまうと」


「……いや、そんなことは」


 飽きるとまでは言わないが、勘弁してくれと思うことはある。

 そうならないためにも、感覚を多少空けるのは大切だと思う。


「マンネリ化を防ぐ方法の一つとして、コスプレを教えてくださったの。コスプレをしたら大伯母様も、お師匠様から限界以上に搾り取れたとおっしゃっていたわ」


「アドルブンダ様……!」


 ああ、すっかり干からびてしまったあの人の姿が思い浮かぶ。

 そしてそれは俺の将来の姿でもあるかもしれない。


「そういうわけだから、ワタクシもコスプレをしてみようと思うの。そうしたら貴方も、今まで以上にワタクシに夢中になってくれるでしょう?」


「これ以上、アリシアに夢中になるのは困るな。でも、君が色んな可愛い格好をするのは見てみたいかな」


「んふふふっ……♡ それなら決まりね。早速、衣装の手配をするわ」


「むぐむぐ……ごくっ。なんだか面白そうなお話ですね。アリシア、私も一緒にこすぷれなる体験をしてもいいですか?」


「ええ、構わないわよ。一緒にグレイを悩殺しちゃいましょ」


 食事を終えたスズハも参戦を表明し、それにアリシアが賛同しかけたその時。


「ちょーっと待ったぁーっ!! フランちゃんもやるーっ!」


「この時こそ、絶好のチャンスですね」


「レイナも……コスプレ、したい」


「グレイ、私を忘れるとはいい度胸だな」


 食堂の扉を勢いよく開いて、フランチェスカとイブさん。

 そしてレイナ様とマインさんが乱入してくる。


「何よ、貴方たちもコスプレしたいの?」


「そうだよ、お姉様! フランちゃんたちだって、アピールしたいもん!」


「グレイ君の心を奪ってみせましょう」


「出番が、ほしいだけ……」


「そうだ! 私はグレイのライバルなんだ……誰がなんと言おうとライバルなんだ……」


 アリシアが不満そうに訊ねると、そんな答えが返ってくる。

 なんというか、フランチェスカたちはともかく、レイナ様とマインさんには妙な必死さを感じるような。


「アリシア、どうします?」


「……面倒だけど仕方ないわね。この子たちは、すでに予約も開始されている、ガガガ文庫様より7月19日に発売予定の『氷結令嬢さまをフォローしたら、めちゃめちゃ溺愛されてしまった件(イラストBcoca先生)の書籍版第一巻に出演できなかった……敗北者ですもの」


「ハァ!?」


「ハァ!?」


「敗北、者……?」


「取り消して頂けませんか!? その言葉ァ!!」


「あら、マイン。貴方は一応、出番があるのよ」


「ならよし!」


「(ちゃんとした出番があるとは言っていないけどね)」


「よくないでしょー!! 全世界一億万人のフランちゃんファンが悲しむじゃん!!」


「そうですよ! フランチェスカ様はどうでもいいですが、私だけは出演させてください! なんでもしますから!」


 んん? 書籍版? 出番?

 いったい何の話をしているんだ……?


「よくよく考えると……レイナの出番は、まだまだ先。だから仕方ない」


「うーん、私もそうなんですよねぇ。気長に待たないといけないですね」


「ふっ、やはり私は人気キャラクターなのだな。だからこそ出番があるのだ」


「はいはい。そういうわけだから、参加を許してあげる。ほら、さっさと行くわよ」


「「ぐぬぬぬぬぬっ」」


 こうして、ちょっとした騒動を巻き起こしながらも。

 人数の増えたコスプレ会が開催されることとなったのだった。



【オズリンド邸 衣装部屋】


「いやー、グレイ君。美少女たちをはべらせて、コスプレファッションショーだなんて! 憎いねー、このこの!」


 アリシアに呼ばれて、コスプレ衣装を用意しにやってきた主任さん(30歳:書籍出演有り)が、俺のことを肘で小突いてくる。


「いや、ははは。嬉しい限りですよ」


「とびっきりの可愛いコスプレ衣装を持ってきたから、楽しみにしていてね!」


「へぇ……」


「ちなみに、グレイ君には優勝者を決めてもらいます。優勝のご褒美はいちゃいちゃちゅっちゅだから、よろしくね!」


「えっ!? いや、そんなの……」


 絶対にアリシアしか選ばない、と俺が答えようとしたその時。

 どこからともなく吹き矢が飛んできて、俺の首筋にプスッと刺さる。


「……ハッ!? これは、まさか!?」


「はい。イブちゃん特製の自白剤だよ。グレイ君、正直に生きようねー」


「そんな……!!」


 これでもう、俺は嘘を吐けなくなった。

 つまり、1番コスプレが似合っていた子と俺はいちゃいちゃちゅっちゅをしなければならないということになる。


「それじゃあ準備も整ったところで、早速いってみましょー!!」


 高らかな叫びと共に、更衣室のカーテンがシャーッと開かれる。

 そして中から出てきたのはイブさんだった。


「ふふっ、どうですか……?」


 イブさんの衣装は、前に文献で見たことのある忍び装束というものだった。

 彼女の出身である島国に伝わる、忍者という存在の伝統的な衣装。


「しかしなぜか、胸元は大きく開いているし、太ももを大きく露出するような形なので肌の露出はかなり多い。そして口元を覆い隠す黒い布が、どことなく……えっちだ」


「うーん、グレイ君。途中から全部口に出ちゃってるよ?」


「ハッ!?」


「っしゃーっ!! これはかなり好感触と見ましたよ!!」


 両手を大きく上げて喜ぶイブさん。

 その度に胸が揺れて、これまた非常に……心によろしくない。


「いきなり優勝候補現るかー!? さぁ、続いてはこの子だ!!」


 再び更衣室のカーテンが開かれて、中から新たな人物が現れる。

 

「がぶっとして、ちゅっ♡ お兄ちゃんの精を吸っちゃうぞー♡」


 出てきたのは、頭に羊の巻きと背中に黒い翼、そして腰元からは悪魔の尻尾。

 口の端からは鋭い牙を光らせる……サキュバスに扮したフランチェスカだった。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。どう? 似合ってるよね?」


 そう言いながら、衣装を見せつけるようにポーズを取るフランチェスカ。

 ボンテージ風のチューブトップと、もはや限界ギリギリのミニスカという格好は、いくら彼女の容姿が幼いとはいえ破壊力は抜群だ。


「幼女趣味ではない俺でも、今のフランチェスカにアタックされたら心が揺らいでしまうと不安になってしまう。それくらい今の彼女は妖艶で魅力的だった」


「うわー、自白剤の効果ってすごーい」


「ハッ!?」


「んにゃあああああっ!! お兄ちゃん、今すぐ精をちょうだーい!! フランちゃん、いつだってお兄ちゃんに襲われてもいいって思ってるよ!!」


「落ちついてください、フランチェスカ様。まだ勝負は始まったばかりです」


 くそっ! 頭では駄目だと分かっていても、口が勝手に言葉を紡いでしまう。

 相変わらず、恐ろしい自白剤だ……!


「なんだかグレイ君が可哀想になってきたけど、まだまだ続くよー!」


 残るはマインさん、レイナ様、スズハ、アリシア。

 果たして俺は数多の誘惑を断ち切り、アリシアを選ぶことができるのだろうか?



【後編へ続く】


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