第101話 地獄のブーケトス戦争ね【前編】

【第101話】


【王都リユニオール 教会(結婚式場)】


 俺とアリシアの結婚式。

 誓いのキスを終えた後は、2人で腕を組みながら礼拝堂の外へと向かう。

 

「んふー♡」


 熱烈なキスでトロトロ状態のアリシアは甘えん坊モードでくっついてくる。

 俺はそんな彼女を可愛く思いつつ、参列者達が待っている教会の階段へと進む。

 一応、式の段取りだと、この場所でライスシャワーを受ける事になっている。


「アリシア姉様! お兄さん! おめでとう!」


 参列者達が階段を挟むように並んでいる中、最初に声を上げたのは……どことなくウェディングドレスっぽい装飾をした黒いドレスを着ているフランチェスカ(アリシアが彼女への敬語と様付けを嫌がるので結婚を機にやめる事にした)だった。


「2人の為に、祝福のライスシャワーをするね!」


 そう言いながら、彼女は手に持っている籠を持って駆けてくる。

 参列者がライスシャワーを行う為のお米を、彼女が配ろうとしてくれているのだ。


「あっ!」


 しかし、フランチェスカは階段の途中で躓き……その籠の中身をドシャーッとぶちまけてしまった。

 瞬間、周囲からは悲鳴にも似た声が上がる。


「なんて事を……!!」


「あーあ、こりゃ酷いのぅ」


 どうしたものかと、頭を抱える者も出てくる始末。

 さっきまで盛り上がっていたはずの空気が、急速に冷えていくのが分かる。


「あ、あぁ……全部、こぼしちゃった……ライスシャワー出来なくなっちゃう。うぅっ、フランちゃん……悪い子だ」


 起き上がったフランチェスカが涙目で呟く。

 それを聞いたリムリスさん(明確な目上の貴族以外は基本的にさん付けにする事にした)が、ムスッとした顔で声を荒らげた。


「どうせアンタの事だから、わざとやったんじゃないの? ま、アタシとしてはこの式がメチャクチャになるのは歓迎だけどさ」


「ち、違うもん!! フランちゃんは本当に……」


 潤んだ瞳のまま弁明するフランチェスカ。

 しかし、普段の彼女が俺に執着している事は、この場にいるほとんど全員が知っているので……周囲からの反応は冷ややかだ。


「……フランチェスカ」


「ひっ!?」


 そんな中、俺の隣のアリシアがフランチェスカの名前を呼ぶ。

 するとフランチェスカは怯えたようにアリシアを見上げ、深々と頭を下げた。


「ひっく、ごめんなさい姉様……! 信じてもらえないかもしれないけど、ぐすっ……今日は本当に2人を祝福しようと思っていたのに」


「はぁ……泣くのはやめなさい。別に怒ってなんかいないもの」


「ふぇ?」


「ライスシャワーが出来ないから、なんだっていうの? そんな祝福がなくても、ワタクシとグレイはいつまでもイチャイチャラブラブちゅっちゅなのよ」


 そう言いながら、アリシアは右の手のひらを前に突き出して……魔力を放出させた。

 フランチェスカはてっきり自分が攻撃されたのかと思い、ぎゅっと目を瞑ったが。

 実際はそうではなかった。


「あっ……」


 ひらひらと、空から舞い落ちてくる季節外れの白雪。

 いや、正確には雪ではなく――アリシアが魔導の力で生み出した氷の結晶だ。


「ライスシャワーがダメならアイスシャワーをすればいいじゃない」


「姉様……ありがとう」


 フランチェスカはアリシアの機転に、泣きながら笑顔を浮かべる。

 他の参列者達も、そんなアリシアの優しさにパチパチと拍手を贈ってくれた。


「おいおい、アリシア。どれだけ俺を惚れさせるつもりだよ」


「あら、ワタクシとしてはもっともっと愛して欲しいわ」


「一緒にいたら、自然にそうなるさ」


 お互いに見つめ合い、クスクスと笑う。

 それからアリシアは、参列者達に向かって……高らかに宣言する。


「さぁ、次はお待ちかね。ブーケトス……いえ、ゲベゲベトスの時間よ!」


 手に持ったゲベゲベ(シオン様)を掲げ、ニヤリと笑う。

 その瞬間、参列者……特に女性陣の中にピリッとした緊張が走ったのが分かる。


「ブーケトス……ですか。ふふっ、負けられませんね」


 エントリーナンバー1【天然系ドS令嬢・ファラさん】


「このブーケを取って、アリシアの犬にしてもらうのよ!! バター犬にね!!」


 エントリーナンバー2【メス犬奴隷志願・リムリスさん】


「この時ばかりは騎士ではなく、女として参戦させて貰おうか!!」


 エントリーナンバー3【美麗の女騎士・マインさん】


「うーん。結婚相手がもう決まっている人って、参加しちゃダメなのかな?」


 エントリーナンバー4【彼ピが出来立て・主任さん(30歳:妊娠1週間目)】


「側室でも愛人でも、何号でもいい。2人にずっと付いてく……付いてく……」


 エントリーナンバー5【黒い刺客・フランチェスカ】


「フッ……遂に私がグレイ君の愛人の座を勝ち取る日が来ましたか」


 エントリーナンバー6【エロテク豊富なくノ一・イブさん】


「ふむ、小娘どもを相手にするのはつまらぬが……大姪が放り投げた姪っ子を手にし、女としての幸せを掴むというのも面白そうだ」


 エントリーナンバー7【七曜の魔導使い・木錬のイリアノ様】


「アリシアからのバトンは私が受け取らなきゃ……!! だって側室1号は私なんですからね!!」


 エントリーナンバー8【アリシアイチオシ龍娘・スズハ】


「あらぁ、グレイちゃん狙いばっかりが参加者なのねぇ。でも、全ての恋する乙女に参加権があるのよねぇ?」


 エントリーナンバー9【最強の乙女・マリリーさん】


「フッ……レイナがいる限り、貴方達に勝機はありえない」


 エントリーナンバー10【七曜の魔導使い・金閃のレイナ】


「わ、私だって!! グレイさんをお慕いする気持ちでは負けません!!」


 エントリーナンバー11【花好き純朴メイド・メイさん】


「「「「「…………」」」」」


 鬼気迫る表情の女性陣に、男性陣は恐れ慄いた様子で後ずさっていく。

 あのナザリウス陛下ですら顔を青くし、すっかり怯えて切っているのだから面白い。


「シオン……無事でいてくれ」


 隅の方ではお義父様が、これから放り投げられるゲベゲベ(シオン様)の身を案じているご様子。

 たしかに、これは獣の檻に生肉を放り込むようなものだからな……


「くすくすっ、これは中々に面白くなりそうね」


 そんな空気の中でケラケラ笑っているアリシア。

 まぁ、俺もちょっと結果が気になるけど。


「それじゃあ! ゲベゲベトス、行くわよー!!」


 アリシアは階段の上で、参列者達に向けて背を向ける。


「「「「「「「「「「っしゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」」」」」」」」


 とても女性のものとは思えない、野太い歓声が湧き上がる。

 みんな普段は可愛らしい声をしているのに……と俺は背筋がゾッとしました。


「そぉーれっ!」

 

 後ろ向きに放り投げられるゲベゲベ。

 ああ、お義母様! どうかご無事で!!


「フッ!!」


 バチィッという雷鳴の音と共に、レイナ様が魔導による瞬間移動。

 一瞬にして空中のゲベゲベの前へと出現し、その手を伸ばす。


「甘いわ小娘っ!!」


 しかしその足にはどこからともなく伸びてきた木の根が絡みついている。

 そのせいでレイナ様の手はゲベゲベにかすったものの、ゲットとはならなかった。


「クソババアァァァァァ!!」


「ざまぁみさらせ! アドルブンダと結婚する為にも、これは渡さぬ!!」


 レイナ様を妨害し、ドヤ顔で叫ぶイリアノ様。


「きゃー」


 遠くでアドルブンダ様が顔を真っ赤にして俯いている。

 可愛い爺さんだな、おい。


「さぁ、今すぐ掴んでやろうぞ!!」


 そして空中のゲベゲベにイリアノ様が魔導で生み出した木の根が伸びる。

 しかし、その根が一瞬で切り刻まれる。


「なっ!?」


「申し訳ありませんが、これは譲れません」


 剣を握りながら、空へ跳躍するマインさん。

 このままマインさんがゲベゲベを手にするかとも思われたが……


「っ!?」


 ヒュルルルルと飛来してきた手裏剣を、マインさんは剣を盾にして弾く。

 これはイブさんの仕業か、と俺が思った瞬間には。


「ご苦労様です♪」


 翼を広げ、空へ飛翔したスズハがゲベゲベに急接近。

 しかし、その尻尾にはファラさんとリムリスさんがしがみついている。


「ふにゃー!? お、重たいですよ!?」


「レディに向かって重たいとは何事ですか!?」


「そうよそうよ!! 抜け駆けするんじゃないわよ!!」


 流石に2人に引っ張られては飛びきれないのか、墜落していくスズハ。

 

「今だぁー!!」


 トコトコトコとフランチェスカが落ちてきたゲベゲベへと特攻。

 しかしその首根っこを掴む手があった。


「ふぎゅっ!?」


「フランチェスカ様! お許しください!!」


「ウォォォー!」


 その手の主はメイさん。

 彼女はフランチェスカをグイッと地面に引き倒し、そのまま駆け出していく。


「グレイさんがアリシア様と婚約されてから今までずっと! 走りのタイムを0.1秒縮めるのに2週間かかりましたよ……!!」


 そう言いながら走り抜けるメイさんの足は確かに早い。

 メイドでありながらこれほどの足力……やはり天才か。


「今こそ!! 私が主役に……!」


「させません!!」


「はぐぅっ!?」


 しかし横から、主任さん(30歳:実は過去にリユフト(リユニオール・フットボール)を嗜んでいた)が強烈なタックル。


「ぴゃぁーっ!?」


 おおっと! メイさんふっとばされたぁーっ!!


「モリー君!! 私達の結婚の為に、頑張るね!!」


「頑張れー!!」


 主任さん(30歳:ポジションはランニングバック)の言葉に応えるように、声援を送るモリーさん。

 しかし、ゲベゲベへの行く手を塞ぐ最大最悪の障害が目の前に。


「そうはさせないわよぉ!」


「!?」


 両手を広げて立ち塞がるマリリーさん。


「男連れでブーケを取ろうなんて、マナー違反じゃなぁい?」


「どいてくださいっ!!」


「どかぬぅっ!!」


 マリリーさんは極限まで圧縮した筋肉を瞬間的に膨張させる事で、凄まじい衝撃波を発生させた。

 それにより、主任さん(30歳:結婚後はモリーに主夫になってもらって養ってあげるつもり♡)はおろか、他の女性陣もぶっ飛ばされる。


「ブーケはアタシのモノよぉ!!」


 そして悠々とゲベゲベに迫っていくマリリーさん。

 このままマリリーさんが勝利してしまうのか……!?

 その勝敗はいかに……!!




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・一体誰がブーケゲベゲベをゲットするのか!

・本日の夜0時までにコメントでのご投票をお願いします

・優勝した方には今後、何かしらの特典があるかもしれません

・皆様の推しキャラを応援してあげてくださいね!


※同票の場合は先に票を獲得した方を勝者とします

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