第100話 ハッピーエンドは始まりにすぎないわ
【教会 新郎控え室】
俺とアリシアが結婚式を挙げるのは、リユニオールでも最大の教会。
しかし、だからと言って結婚式を大人数で盛り上げる……などという事もなく。
最低限、俺とアリシアが深い親交を持つ人達を中心に招待している。
「はぁい、バッチリ! グレイちゃんもしっかり格好良くなったわね!」
「衣装合わせの時から少し痩せた? でもこれくらいなら修正範囲よ」
俺に化粧を施したマリリーさんと、衣装の着付けを手伝ってくれた店長さんが……鏡の前に立つ俺を見て微笑む。
以前、アリシアにプロポーズする時にも2人にはバッチリ決めて貰ったが。
今日はそれ以上……とても自分のモノとは思えないほどに凛々しくなった顔に、シワ1つ無い白いタキシードが映えている。
「んもぅ、アタシもビンッビンッに感じちゃいそうなくらいカッコイイわ! アリシアちゃんに頼んでつまみ食いしたいくらいよ!!」
「結婚式の日にそれはちょっと……でも、気持ちは少し分かるかも」
「お二人共、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて、俺は2人に感謝の意を示す。
おかげでどうにか最低限、美しく着飾ったアリシアと並び立つ資格を得た気がする。
「ところで、アリシアの方はどうですか?」
「フフッ、アタシの人生で最大の大仕事だったわよ。驚いて腰を抜かさないように気を付けなさい」
「ドレスも主任(30歳:アリシアのウェディングドレス姿を見て感動のあまり涙が止まらなくなっちゃった)」が完璧にチェックしているから安心して」
「そうですか。それは楽しみです」
アリシアの美しさにはある程度慣れてきたつもりだが、恐らく今日のアリシアは今までの彼女を優に超える程に綺麗に違いない。
そこに耐えられるかどうかが、最大の試練だな。
「グレイ殿、とてもご立派な姿だ」
俺が覚悟を決めていると、後ろで見守っていたドラガンさんが声を掛けてきた。
「ありがとうございます。ドラガンさん、今日は遠いところをわざわざ……」
「なぁに、貴公とアリシア殿には多大な恩義がある。たとえ最果ての地であろうとも、駆け付けるさ」
かつて、死闘を繰り広げた相手であるドラガンさん。
正直、スズハの件でちょっと顔を合わせづらいと思っていたのだけど。
「それと……スズハの件だが。我は何も気にしてはおらぬ。お二人がよければ、愛人でも側室でも……お好きなようにスズハを傍に置いてやってくれ」
「え!?」
「あの子はすでに我の手を離れた。自分の意思で決めたのなら、我が口を挟む事ではない。そもそも……グレイ殿とアリシア殿ならば、何も心配は要らぬのだが」
「……光栄です」
とはいえ、俺はまだスズハとそういう関係になるつもりはないんだけど。
ただ、アリシアがスズハを気に入っているので……時間の問題なのだろう。
「若いというのは羨ましいのぅ。ちゅっちゅモンスターを相手にしながら、他のおなごと交わる事など……並大抵の男には出来まい」
「ふん、それは貴様が軟弱なだけではないか。不満があるのなら、イリアノを余に渡せ。いくらでも満足させてやるぞ」
「あ? ワシの女に手を出すとか、死ぬ覚悟は出来ておるんじゃろうな?」
「貴様こそ、最高の女を抱いておいて不満を垂れるな!!」
「側室を大量に抱えている貴様が言うでない!! ボケェ!!」
なんか後ろの方では、アドルブンダ様とナザリウス陛下が言い争ってるし。
「というか、なんでお二人がここへ?」
「いやまぁ、ワシはイリアノから逃げてきただけじゃ。近頃は、こういう人がいる場所で隠れながらヤるのが気持ちいいとか言い出しおってな。流石に愛弟子の結婚式の影で、そういう事をするのは気が引ける」
イリアノ様……相変わらず、素直になってからは暴走気味なんだな。
もしかすると、アリシアよりも先にイリアノ様が子供を産む可能性もありそうだ。
「余は暇つぶしだ。それと、久しぶりに甥っ子の顔を見ておこうかとも思ってのぅ。もっとも、父を死に追いやった憎むべき叔父の顔など見たくないだろうが」
「叔父上……いえ、陛下。我はもう、継承権を失いました。その際に過去の遺恨は全て流す事に決めたのです」
「……そうか」
見つめ合う両人。いや、いい話なのは分かるんだけど!
俺の控室でやられましても! なんか空気がしんみりしちゃうんですが!
「ん?」
俺が冷や汗を浮かべていると、こことは少し離れた位置にあるはずの新婦控え室の方から、黄色い声と笑い声が響いてきた。
「あらあら、アリシアちゃんのところも盛り上がっているようねぇ」
向こうにはスズハ、フランチェスカ様、イブさん、ファラ様、リムリス様、マインさん、レイナ様、主任さん(30歳)、イリアノ様がいるんだっけか。
そりゃあ、それだけの女性陣が集まれば賑やかになるというものだ。
「ははっ……」
思わず笑みがこぼれる。
こんなにもいろんな人が、俺達の式を祝いに来てくれている。
俺もアリシアも、本当に……最高の幸せ者だ。
【教会 礼拝堂】
極彩色のステンドグラスから漏れる光で、きらびやかに彩られる礼拝堂。
その最奥にて、神父役を務めるアドルブンダ様と……その前で、新婦の入場を待ち侘びる俺の姿があった。
「……」
集まってくださった参列者達もまた、会衆席でその時を待つ。
静寂と沈黙で緊張が高まる中、ようやく――新婦入場の音楽が鳴り響いた。
「!」
教会の扉が開かれる。
そして、お義父様に手を引かれたアリシアが……礼拝堂へと入ってくる。
「…………!!」
その姿をひと目見た瞬間、俺の中の時が完全に止まった。
もはや、言葉で表現する事さえおこがましく思えるほどに……今のアリシアは【美】そのものの体現者だったのだ。
純白のウェディングドレスには青白い氷を模した装飾が散りばめられ、礼拝堂の照明の光をキラキラと反射させてきらめき、彼女の魅力を普段以上に引き立てている。
そして、半透明のケープ越しでも分かる……アリシアの顔と髪型。
マリリーさんが渾身の仕事を果たしてくれたおかげで、普段のアリシアが100点満点中53万点なところが1億万点へと進化を遂げている。
特に普段のツインテールとは異なるハーフアップの花嫁ヘアが抜群に似合う。
「…………」
そんなアリシアの右手はお義父様の腕に。
残るもう片方の手にはブーケの代わりにゲベゲベ……いや、シオン様が抱かれている。
愛娘の究極に美しい姿を間近で見る事が出来て、彼女も幸せに違いない。
「……」
一歩ずつ、こちらへアリシアが近づいてくる度に心臓の鼓動が大きくなる。
ああ、本当は今すぐ彼女の元に駆け寄って抱きしめたい。
ベールを取り去って、その唇にキスをしたいと思う。
「わぁ……」
「綺麗……」
参列者達からも、感嘆の声や溜息が漏れているのが分かる。
しかしそれも仕方ない。
俺だって、もう辛抱出来そうにないのだから。
「……」
そんな風に悶々としている間に、アリシアとお義父様が俺の前までやってくる。
そこで俺が頭を深々と下げると、お義父様も頭を下げて。
それからアリシアはお義父様の手を離れ、俺の隣へと並び立ってきた。
「(お・ま・た・せ♡)」
ブーケ越しに目が合ったアリシアが、声には出さずに口だけを動かして……俺にメッセージを送ってくる。
はぁー……可愛い。なにこれ、可愛い。もうマジ無理、可愛い。
「(あ・い・し・て・る)」
「(う・れ・し・い・わ♡)」
「うぉっほん。えー……」
俺とアリシアが見つめ合いながら口パクで会話をしていると、アドルブンダ様が咳払いをしながら口を開く。
いよいよ、待ちに待った誓いの言葉だ。
「新郎、グレイ・レッカー。貴方は新婦であるアリシア・オズリンドを妻とし、病める時も健やかなる時も。悲しみの時も喜びの時も。貧しい時も富める時も。妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、支え合い。その命の続く限り、心を尽くす事を誓いますか?」
「誓います」
俺は力強く頷きながら、誓いの言葉に応える。
「うむ。では、新婦アリシア・オズリンド。貴方は新郎であるグレイ・レッカーを夫とし、病める時も健やかなる時も。悲しみの時も喜びの時も。貧しい時も富める時も。夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、支え合い。その生命の続く限り、心を尽くす事を誓いますか?」
「ええ、誓いますわ」
そしてアリシアもまた、よく通る凛々しい声で生涯の愛を誓う。
「うむうむ。では、誓いのキスを」
「「……」」
再び向かい合い、俺はアリシアの顔に掛けられたベールを外す。
すでに分かりきっていた事だが、俺の花嫁は世界一……いや、宇宙一綺麗だ。
「グレイ……好きよ。誰よりも、何よりも愛しているわ」
ウルウルとした真紅の瞳が俺の瞳をまっすぐに見つめる。
ああ、出来る事ならこの瞳に吸い込まれてしまいたい。
そんな風に思ってしまうほど、アリシアの瞳には強い魔力が宿っている。
「アリシア」
俺はアリシアの両肩に手を置きながら、ただ一度だけ名前を呼ぶ。
俺のアリシアへの愛は、もはや言葉で表現しようがない。
だから、この一言にありったけの愛情と想いを乗せたつもりだ。
「ふふっ……ずるい人ね」
それを受けて、アリシアは笑う。
俺なりの誠意のつもりだったが、伝わらなかったのだろうか。
「大丈夫。貴方がワタクシの真意を通訳してくれたように、ワタクシだって貴方の言葉が分かるつもりよ」
そう言いながら、アリシアは俺の首に両手を回してくる。
そして、カツンとヒールの音を鳴らしてから……足をピンと伸ばして。
「「ちゅー♡」」
重なり合う唇。
今までの、どんなキスよりも脳が蕩けるほどの甘い口付け。
「「……フッ」」
瞬間、アドルブンダ様とイリアノ様がパチンと指を鳴らす。
教会の鐘が祝福の鐘を鳴らし、教会には天井から美しい花びらが舞い散る。
「「「「「おめでとう!!」」」」」
拍手喝采。
多くの人達が俺達の幸せを見守ってくれている中……
「んっ……ちゅっ、ちゅちゅっ! れろ……ちゅっ、じゅず、ちゅるっ……ぁんっ♡」
熱の入ったキスを披露し続ける俺とアリシア。
そんな俺達の姿を間近で見ているシオン様はというと……
『(ふふっ、おめでとう)』
とても嬉しそうに微笑んでいた。
【ネクストグレイズヒント!!】
・地獄のブーケトス戦争(女の戦い)
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とうとう100話達成! ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます!
ここまで来られたのは、脱落せずにお付き合いくださった皆様のお陰です!
一応の一区切りは付きましたが、ここからもう少しだけグレイとアリシアの物語をお送りしていけたらと思っております。
これからもご支援頂けるという方は何卒、フォロー・いいね・コメント・レビュー☆などをよろしくお願い致します!
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