第88話 不動の人気ナンバーワンですもの(煽り)

【ヴォルデム魔導学院 正面入り口前】


「ふぇぇぇぇっ!? 婚約したんですかぁっ!?」


「ええ、近い内に式を挙げるから……貴方達も来てほしいの」


 学院に到着後。

 アリシア様から婚約について聞かされたファラ様は目を丸くし、マインさんもまた驚いた様子で口をあんぐりと開けていた。


「アリシア様がレイナ様を倒したという噂は広がっていたが、まさか本当だったとは」


「遂に身分の差を越えて結婚出来るようになったんですね!」


 キャピキャピと嬉しそうにするファラ様に、アリシア様は照れたように頷く。

 しかし、一方のマインさんはと言うと……


「そうか、お前はもう金騎士になるのか。はははは……」


「マインさん?」


 その場に座り込み、落ちていた木の棒で地面をガリガリと削っている。


「本当にお前という奴はいつも私の先を行って……挙げ句に婚約だなんて。私にはちっとも勝ち目も出番もないじゃないか」


「えっと?」


「大体、ライバル的な立ち位置だったはずじゃないのか? それをファラ様に押し付けて、ちっとも出番をくれないで……ファントム編くらい私が相棒ポジで良かったんじゃないのか? 女キャラを出すだけ出して、こういうモブ的な立ち位置にするのはどうかと思うんだが? グレイ的美人ランキングの上位にも入れて貰えないし。私のファンが見たらどう思うかとか考えないのか? バカなのか? もっと出番を増やしてくれ。というか今からでも遅くないから私とグレイのイチャイチャ回を挟んでくれ。なぁ、そこの画面の前の君もそう思うだろう? 私の活躍を見たいよな? な? そうだろう!? マイン推し、マイン派の君達は今こそ立ち上がるべきなんだ!!」


 何やらよく分からない事をブツブツと、どんよりオーラを纏いながら呟き続けるマインさん。

 なぜか空を見つめているんだけど、一体誰に向かって言っているんだろうか。


「結婚式の際に着る服を私も新調しようっと! アリシアさん、ブーケは私に向かって投げてくださいね?」


「そうしたいのは山々だけど、ライバルは多そうだから気を付けて」


 うーん。イブさんかスズハ様辺りが素早くキャッチしそうかなぁ。


「あ、そう言えば私のペットを見ませんでした? 今朝から姿が見えなくて」


「ペット? ファラ様、ペットなんて飼っていらっしゃいましたか?」


「ええ。最近とっても可愛がっているんです。夜なんか、とってもイイ声で鳴いてくれて」


 頬に手を当て、うっとりとした顔で微笑むファラ様。

 あっ、はい。そのペットなら今頃はオズリンド邸で氷漬けになっております。


「あら、もう一線を越えちゃったの?」


「……ふふふっ。女の子同士っていうのも、意外と愉しいですよ?」


「しばらくは必要ないけど、その内テクニックを教わりに来るわ。どの道、グレイとスズハを二人きりでさせるつもりはないし」


「あの、前から気になっていたんですけど……俺とスズハ様がその、そういう事をするのをなんで受け入れているんですか?」


 俺はてっきり、自分以外の誰にもグレイを触らせない!

 くらいの勢いで来てくれると思っていたのだが。

 アリシア様が呆気なくスズハ様を側室候補だと言い出したので驚いているのだ。


「グレイを信用していないわけじゃないけど、他所で勝手に浮気されるよりはこちらである程度コントロールしておいた方がいいじゃない」


「それはまぁ、そうですけど」


「どれだけ好き合っていても、毎日同じ相手だといつかはマンネリしちゃうでしょうし。スズハならグレイもワタクシも認めている相手だから構わないわ」


「そういう問題ですかね?」


「そういう問題よ」


 アリシア様がいいなら、俺からは何も言う事はない。

 それにぶっちゃけ俺だって、俺一人でアリシア様をずっと満足させられる自信なんてないんだ。だって童貞だし。


「言われてみれば私も最近はリムリス……じゃなくて雌豚の相手だけじゃ刺激が足りなくて。そろそろ新しいおもちゃが欲しいです」


 そう言ってファラ様は、未だに落ち込んでいるマインさんへと視線を移す。


「傷心中の人って、簡単に心の隙間を埋めさせてくれるんですよねぇ」


 ニヤリと黒い笑みを浮かべ、ファラ様はマインさんの方へと駆け寄っていった。

 ああ、ごめんなさい。

 マインさん、俺には何も出来ないので……後は頑張ってください。


「さぁ、それじゃあそろそろ帰るわよ」


「あれ? アドルブンダ様はいいんですか?」


「お師匠様はいいわ。どうせ結婚の事は知っているだろうし」


 そう言ってアリシア様は馬車の方へと戻ろうとする。

 どうやら授業を受けていかれるつもりはないようだ。


「それでしたらアリシア様。私、ちょっと用事があるので先にお帰り頂いてもいいですか?」


「え? 用事ですって?」


「はい。あっ、でもご安心ください。ちゃんと護衛は残しますので」


 そう言って俺は、妖刀ちゃんを引き抜いて能力を発動させる。

 かつてファントムから奪い取った【分身】の能力だ。


「あら、グレイが二人に」


「「どちらが本物か分かりますか?」」


 生み出された分身と本物の俺。

二人声を揃えて、アリシア様をからかってみる。


「右よ」


「「えっ!?」」


 正解だ。でも、どうして分かったんだ?


「見た目は瓜二つだと思うんですけど」


「愛の前では無力よ。でも、これいいわね……二穴同時とか、口と(ピーッ)で同時プレイとか色々と試せそうだし」


 分身の俺を見て、満足したようにアリシア様が頷いた。

 卑猥な事に活かす為の能力じゃないんだけどなぁ。


「とりあえず護衛は分身の俺に任せます。と言っても、感覚は共有しているので……何か言ってもらえれば俺にも伝わりますよ」


「それは分かっているけど……これからどこに行くのかは教えてくれないの?」


「すみません。明日になったら分かりますので」


「……そう。なら、好きにするといいわ」


 アリシア様は深く事情は聞かずに、分身のグレイBと一緒に馬車の方へと向かっていく。


「あっ! あんまり激しいちゅっちゅはダメですよ!! 感覚共有中の分身に何かすると、俺にも快感がフィードバックしちゃうんで!」


「……ふぅん? それはいい事を聞いたわ♡」


 あ、しまった。

 余計な事は言わなければ良かった。


「いやいや、これはフリじゃな……あひぃんっ♡」


 おいおい、こんなんで本当に……俺は【アレ】を用意出来るのか?



【ヴォルデム魔導学院 理事長室】


 アリシア様と一旦別れて、俺はアドルブンダ様の元を訪ねていた。

 そして入室して早々に、俺がアリシア様と婚約した事と、それでとある物が必要になった事を話した。 


「ほほう? なるほどのぅ。それでワシのところを訪ねてきたと」


「はい。ただのアレなら簡単に用意出来ますけど……やっぱり、それは嫌で」


「うむうむ、グレイ君も男というわけじゃな。よし、ならばワシがいい物を紹介してやろう」


 アドルブンダ様は俺の頼みを快く受け入れてくれて、1つの地図を差し出してくれた。

 見るとそれは、リユニオールの西部に位置する大森林の地図だった。


「ここにエルフの里があってのう。そこの長老ならば、お前が欲するモノがあるはずじゃ」


「エルフの里……ですが、エルフは過去の事件のせいで人間を嫌っているのでは?」


 俺のような一般人間がエルフの里に入る事を許されるとは思えない。


「なぁに、ワシから相手に連絡しておく。それと、念のために……エルフの里に詳しい者を同伴させるとしよう」


「エルフの里に詳しい者、ですか?」


「うむ。お前も良く知っている人物じゃよ」


 その時、理事長室の扉がガチャリと開かれる。


「お、ちょうど来たようじゃな」


「あっ!」


 そこにいたのは、アドルブンダ様の言う通り。

 俺が良く知る……人物。


「レイナ……様?」


「やっほ」


 つい先日、アリシア様との一騎打ちに敗れた元王位継承権第3位。

 七曜の魔導使い【金閃のレイナ】様がそこに立っていたのだった。



【グレイとアリシアの結婚式まで残り12話】




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