第62話 グレイ、貴方は疲れているのよ
【オズリンド邸 グレイの部屋】
「……んっ? うぅっ……」
長い夢を見ていたような気がする。
たしか、俺はアリシア様達と一緒に龍族の里に行って……それで、色々あってドラガン様と決闘をする事になって。
それで、その決闘に勝利した後……
「グレイ? 目を覚ましたのね」
「……アリシア様?」
俺は今、見慣れたベッドの上に横たわっている。
そして、ベッドの端には椅子に座ってこちらを心配そうに見つめているアリシア様の姿があった。
「えっと……?」
「ああ、無理しないで。そのまま休んでいて」
起き上がろうとした俺の肩を掴んで、再び横にさせるアリシア様。
おかしい。俺はさっきまで龍族の里にいた筈なのに……
「混乱しているのね。大丈夫、ちゃんと説明するから落ち着きなさい」
「は、はい……」
「貴方はドラガン殿との決闘を終えた後、急に倒れたのよ。恐らく、戦いのダメージと疲労のせいね」
「倒れた……?」
「ええ、それで急いで戻ってきたのよ。龍族の里の環境じゃ、体を休めるどころじゃないから」
ああ、そういえば……そうだったかもしれない。
たしか急に立ち眩みがして、意識を失ったんだ。
「でも、その後に……」
「どうかしたの?」
「あ、いえ。なんでもないです」
夢の中で誰かと話していたような気がする。
とても、愛おしい誰かと……
「ごめんなさい、貴方には無理ばかりさせてしまったわね」
「い、いえ! 気にしないでください! それよりも、アリシア様……もしかして、ずっと寝ずに看病を?」
よく見るとアリシア様の目の下にはひどいクマが出来ているし、顔付きも少しやつれている。
「これくらい大した事じゃないわ。それに、ずっと貴方の傍にいられて……嬉しかったわよ」
「アリシア様……ってあれ?」
と、ここで俺は気付く。
龍族の里から屋敷に戻ってきている以上、俺は数日間眠り続けていたという事になる。
でもその割には、俺の体はあまりにも綺麗だ。
普通、寝汗とかでベトベトする筈だが。
「貴方の体なら、ちゃんと毎日ぬるま湯を絞ったタオルで拭いてあげたわよ」
「ああ、そうでしたか。ありがとうござ……ファッ!?」
「……とっても優しく触っ……じゃなくて拭いてあげたのよ。うふふふふっ」
「わーお、もうお嫁にいけない……」
羞恥のあまり、俺はアリシア様から目を逸らしてしまう。
まさか、アリシア様に俺の体を隅々まで見られるとは!
「何を今さら言っているのよ。貴方の裸なんて、温泉で一度見ているじゃない」
「へ? 温泉、ですか?」
「……一緒に入ったでしょ? 混浴で」
温泉……? 一体なんの話だ?
でも、アリシア様の顔は真面目そのもので、ふざけている様子はない。
「あ、ああ! そうでしたね! 混浴しましたもんね! 二人きりで!!」
「……グレイ、貴方まだ疲れているみたいね。もう少し休んでいなさい」
アリシア様は様子のおかしい俺を案じているらしく、俺の体に布団を掛け直す。
「後で食事も持ってきてあげるわ」
「すみません……」
「ふふっ、いいのよ。栄養満点の卵が手に入ったから、とびっきり美味しい玉子焼きを作ってもらうわね」
アリシア様はそう言い残すと、最後に俺の頬にちゅっと口付けをしてから部屋を出ていってしまった。
こうして、部屋に残されたのは俺一人……なのだけれど。
俺はさっきの混浴という言葉が気になっていた。
「……俺、アリシア様と温泉になんか行ったっけ?」
思い返しても、そんな記憶は存在しない。
というか、俺が温泉に行ったのは……『あの子』のはずだ。
そう。黒髪の小さな女の子と一緒に温泉に入って……
「でも、変だな……『あの子』っていったい、誰なんだろう?」
分からない。でも、別にそこまで気にする事でもないか。
いつか大好きなアリシア様と一緒に温泉旅行に行ければいいな。
たとえば、新婚旅行とかで! なーんてな。
『……くすっ、くすくすくすくすくすくすくすっ』
「おやすみ、妖刀ちゃん」
寝返りを打つと、扉の近くに立てかけられている妖刀が目に入る。
なぜか知らないが、以前よりも愛着が強くなった『彼女』を見ていると……
アリシア様を見ているようで心が落ち着くのだった。
【番外編 主任さん(30)とピンクスライム】
「ぴぎぃー!」
「うわぁ……これがピンクスライムね」
つい先日。私はとうとう30歳の誕生日を迎えた。
職場のみんなが盛大な誕生日パーティーも開いてくれて、私はとてもハッピーなバースデーを過ごしたといえる。
そんな中、みんなから貰った誕生日プレゼントを開封していると。
包装紙に包まれた大きな瓶が出てきた。
その瓶の中で蠢いている桃色の物体こそ……【ピンクスライム】である。
「後輩ちゃんが言っていた通りだなぁ」
そして私は振り返る。誕生日の数日前に後輩と交わした会話を。
【数日前】
「先輩! 誕生日に何か欲しいものありますか?」
「ん~、最近ちょっと癒しが足りてないかなぁ」
「癒しですか?」
「うん。彼氏とも別れちゃったし、なんかこう……寂しいというか」
そんな私の話を聞いた後輩は、すぐにニヤリと笑う。
どうやら何か心当たりがあるらしい。
「先輩、それならピンクスライムがオススメですよ」
「ピンクスライム?」
「独身女性の心強い味方って事で、今や大ブームなんですよ。かくいう私も飼ってるんですけど、それはもう……毎晩楽しんでいます」
「へぇ、そんなにいいんだ?」
「はい。知り合いのペットショップが安く仕入れてくれるんで、良かったら誕生日にプレゼントしますよ!」
「んー、でも餌とか大変そうだし」
「大丈夫ですよ。あの子ら、基本的に水を与えるだけでいいんで。後はほら、【濃密】に触れ合っていれば……ね? うぃひひひひ」
「そうなんだ。じゃあ、お願いしようかな」
【現在 主任さん(30歳:最近運動した二日後に体が痛む)の家】
「ぴぎぃ。ぷるるー」
「という感じで、もらったわけだけど」
私は瓶の蓋を外すと、中からピンクスライムを取り出す。
うわっ、思っていたよりも温かい。
それにニュルニュルしていて、さわり心地も気持ちいい!
「ぷぎゅるー?」
スライムの顔の部分……だろうか。
ちょっぴりと前に突き出している部分が首を傾げるように動く。
どうやら、飼い主の私を観察しているようだ。
「私はあんたの飼い主よ。よろしくね」
「ぷぎゅー!」
言葉の意味をある程度理解できるらしく、ピンクスライムはぴょんぴょんと私の手の上で跳ねて大喜び。
あら可愛い。たしかにこれは癒されるわね。
「ペットにするなら名前が必要よね。えーっと……ピンクスライムだからピン子!!」
「ぷぎゅるるるるー!!」
「え? これは嫌だって? そうだなぁ……じゃあ、愛くるしい奴だからアイって名前にしよっか!」
「ぷぎゅー! きゅるるー♡」
今度の名前は気に入ったようで、すりすりと私の手に体を擦りつけてくるアイ。
うんうん。これでますますペットらしくなってきた!
「じゃあ、これから私を癒してもらおっかな」
「ぷぎゅるー?」
「ああ、そうね。何をして遊ぼっかなー……おっ、これはどう?」
私が取り出したのはトランプだ。
これならきっとこの子とも遊べるはず。
「じゃあ、神経衰弱しよっか。同じ数字のトランプを見つけたらいいの。理解できる?」
「ぷぎゅ! ぷぎゅるっるー!」
「お、やる気十分じゃん! よーし、やろっかー!」
こうして私はピンクスライムのアイと同居する事となった。
いやはや、最初はペットなんてと思っていたものだけど。
実際に飼ってみるとこれがまた可愛いのなんのって。
【後日 王都リユニオール とある服飾店】
「せんぱーい! アレの具合はどうっすかー?」
「うん、とっても上手くやってるよ」
「へぇ? すっかりお気に入りって感じっすか」
「もう、毎日ベッタリ。昨日も遅くまで遊んでいたから、ちょっと寝不足気味よ」
「遊ぶ……?」
「遊ぶでしょ? ほら、おもちゃとか使ったりして」
「お、おもちゃ!? ピンクスライムだけじゃ満足出来ないんですか!?」
「え? だってその方が楽しいし。今朝だってもう一回やろうって感じでスリスリしてくるから……つい三回も(トランプ)やっちゃった」
「朝に三回も(ピンクスライムオ○ニー)!? マジパネェッス!!」
「そうかなぁ? まぁ確かにやりすぎだよね。仕事が休みの日は一日中あの子と楽しんじゃってるし」
「はわわわわわわっ……!?」
「どうしたの?」
「お、恐れ入りましたー!!」
「ええ?」
その後、なぜだか分からないけれど職場で私は周囲から畏敬の籠もった視線を受けるようになり……やがて店長から呼び出しを受けた。
「ねぇ、最近貴方には無理をさせすぎたみたい。ストレス発散も兼ねて、長期休暇を取ってリラックスしたら?」
「店長……」
きっと仕事に張り切っている私を心配して、そう言ってくれているのね!
でも、私はちゃんと店長に言ってやったわ!。
「店長!! 私なら大丈夫です!! ストレスなら毎晩、ピンクスライムで発散してますから!!」
「ひぃっ!?」
あれ? どうして店長、そんなに怯えた顔をしているのかな?
【主任さん(30歳:実家から送られてくるみかんが大好き)がピンクスライムの真実を知って恥ずかしさのあまり死にたくなるも、結局は誘惑と好奇心に負けてアイを使って一回だけシてしまうまで残り一週間】
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